9-2 百花さん、おかめ伝説に納得せず

大報恩寺太子堂 北野経王堂を受け継ぐ建物
大報恩寺太子堂 北野経王堂を受け継ぐ建物


百花さん ここが大報恩寺の山門… 可愛らしい門ね。左右に小さいお堂があるけど。

ゆいまくん 左側にあるのは聖徳太子をまつっている太子堂だよ。昔この近くに北野経王堂(きょうおうどう)というとても大きなお堂があってね、願成就寺という名前をもっていたんだけど、このお堂はその名を受け継いでいるんだ。近くには山名氏清(うじきよ)という守護大名の碑もあるよ。

百花さん わー、大きな木があるのね。桜…枝垂れ桜かな。咲いたらすごそう! あーあ、どうせ来るなら、桜の時期がよかったなー
 その向こうが本堂ね。ほんと。とても立派なお堂ね。
 んー、桜の木の右側に何かいるよ! 座ってるみたい。女性の銅像?

ゆいまくん これはおかめさんだよ。ほら、夜店なんかでよく売っているひょっとこやおかめのお面、見たことあるでしょ? 千本釈迦堂ゆかりのおかめさんが、そのおかめの起源となったっていう説があるんだ。

百花さん また説なのね。

ゆいまくん おかめの起源は諸説あってね、でもこれは有力な説だと思うよ。あとね、この桜もおかめにちなんで阿亀(おかめ)桜という名前がついているし、本堂の裏手ではおかめさんを慕ってたくさんのおかめの人形やお面が奉納されているのを見ることができる。このお寺の節分の行事も「おかめ福節分会」という名前がついていて、京都の有名なお祭りの1つなんだ。大報恩寺といえばおかめさんというくらい、おかめ伝説は有名なんだよ。どんなお話か聞きたければ話そうか?

百花さん うーん、短めにしてくれるんなら、聞いてあげてもいいけど…

ゆいまくん おかめさんはね、大報恩寺の本堂をつくった大工の棟梁の妻なんだ。この棟梁、たいそう仕事ができる人だったんだけど、どういうわけか誤って大事な柱となるはずの木材を短く切ってしまい、とても困っていた。そこで、妻のおかめさんが助け舟を出した。短くしてしまった柱に合わせてほかの材木も切ってしまいなさい。柱は短くなるけれども、その上に枡(ます)組みをのせて高さをかせげばよいのですって。

百花さん 枡組み?

ゆいまくん 木造のお堂は、当たり前だけど材木を組んでつくられるよね。組む時に用いる四角いパーツを枡といい、枡を使った木組みが枡組みだよ。このおかめさんの知恵のおかげで棟梁は無事に本堂を完成させることができたんだ。

百花さん よかったね。このあと夫婦はいっそう大工の道を極めて大繁盛。めでたし、めでたしだ。それで福々しいお面になったんだね。

ゆいまくん いや、残念ながら、そうではないんだ。お堂の完成を前に、おかめさんは自ら命を断ってしまった。

百花さん えっ、どうして?

ゆいまくん 女の入れ知恵で仕事をまっとうできたということが知られると、夫の恥になるって考えたんだ。今ではおかめさんは夫のために命を投げうった偉大な人物として、多くの人に慕われているんだよ。

百花さん …その話、おかしい。またホラが入っているんじゃないの。

ゆいまくん 嘘じゃないよ。そう伝わっているんだ。

百花さん 昔の建物って、木を複雑に組んでつくられるんだよね。そのために組物を使うのはフツーのことじゃないの。で、この棟梁、仕事ができる人なんだよね。なのにそんなことにも気がまわらないって、不自然じゃね? もっと変なのは、自分がアドバイスしたことを人に知られたくなくて死んだのに、死んだことで逆に知れ渡っちゃったんだよね。それで多くの人に慕われてますって言われても、納得できましぇーん。

ゆいまくん いや、これは伝説なんだから、そんなにムキにならなくても…

百花さん 夫のために命さえ投げ出すのが女の理想の姿だっていう、ええっと、価値観? そういうのがはびこっていた時代が長かったから、みんな「なんかおかしいなー」って思いながらも、受け継がれてきたんだよね、この話。しかし、皆さん! 昔から続いているというだけで、それが伝統と言えるのか? おかしいと思ったら変えていける勇気と行動力をこそ、伝統とすべきではないでしょうか!

ゆいまくん ちょっと、百花さん、演説みたいになっているし、それって何かの名言? ほら、お参りに来た人が変に思ってよけていくよ。そんなことより、あ、そうだ、垂木。垂木が千本かどうか、見てみないと。

百花さん あ、そうだった。よしっ、本堂を軒下から見上げて垂木を数えるぞ! 1本、2本、3本‥ あれ、今何本だっけ? もう1回だ! 1本、2本‥

大報恩寺境内のおかめさん像
大報恩寺境内のおかめさん像