6-11 拝観を終えて-百花の感想

 

 昔、レコード盤というのがあったそうですね。あ、今もあるのかな。私は持っていないんですけど、レコードにはA面とB面があって、A面に入っているのが主、B面が従といった感じなんだそうですね。
 なぜそれを思い出したのかというと、東大寺南大門の金剛力士像と文殊院の文殊菩薩像が、レコードのA面、B面の関係みたいだなーって思ったからです。
 東大寺南大門の金剛力士像は、慶派仏師総出動で、わずか69日で完成。東大寺が再興なった記念の大きな行事に余裕で間に合っています。これ、重源さんの思い通りで、A面OK。一方、重源さんの文殊信仰に発した文殊菩薩の方は、それ以前に五台山巡礼が果たせなかったというのがあり、東大寺の供養に合わせて文殊菩薩像をつくろうと考えたけど、頼れるのは快慶1人、しかも完成せず。だから、こっちはA面にはるかに及ばなくて、B面ってとこですね。
 大体、快慶だって、慶派の中では将来を期待されていない傍流だったとか。この話を聞いて、悲しくなりました。「運慶の子に比べて、あなたには期待していないけどね」って形で示されたらどうでしょうか。私なら、ソッコーへこみます。
 でも、B面上等! レコードでも、発売してみたらB面の曲の方がポピュラーになったっていうこと、実際あったんですよね。文殊院の像も、時間はかかったけど、こんなにすばらしい像として完成して、日本の五台山文殊の基準的な作例となったし、快慶も運慶らとは別に弟子とともに一派をなして、現在、運慶以上にたくさんの像が伝来しているそうじゃないですか。

 五台山文殊の像は、きりりとカッコいい文殊さま、風に乗って先頭をいく童子、頼もしい馭者役の王、ガリガリになってもお経を伝えたお坊さんと、ほんとうに面白いメンバーですね。脇侍って、中尊の左右にいかにもお供って感じでひたすらつったっているものだと思ってたけど、文殊菩薩と関係のある個性豊かな旅の仲間が1人、また1人と加わっていったみたいな感じですね。とても楽しく拝観させてもらいました。文殊院、サイコーです。


<百花さんから追加のひとこと>
 日本にも五台山があるって聞きました。高知市だそうです。その名も五台山竹林寺というお寺があって、本尊は4脇侍を従えた五台山文殊菩薩像。文殊院の像よりも古い平安時代の像ですが、秘仏となっていて、普段は見ることができません。残念…
 面白いのは、この文殊菩薩像の乗る獅子。なぜか2頭いるんです。1頭は乗り替え用ですかね。この文殊菩薩像は、なんと1704年に江戸まで出張してご開帳されたことがあり、2頭めの獅子はこの時、何らかの事情でつくられたものと考えられています。
 少し前までは、文殊菩薩像は江戸時代の獅子の方に乗って本堂の厨子中に秘され、当初につくられた平安時代の獅子は宝物館で展示されていましたが、2014年の本尊ご開帳の際に獅子が取り替えられました。従って、今宝物館で見られるのは、江戸時代作の獅子なんだそうです。文殊菩薩とは別々になって展示されているのは、ちょっと可哀想な気もしますね。