7-2 楼門の二天王像は快慶流仏師の作?

金剛寺楼門
金剛寺楼門

 

百花さん 金剛寺の「金剛」は、どんな意味なの?

ゆいまくん 金剛は非常に硬い鉱物のことで、仏教では教えが堅固なことのたとえとして使われる大切な言葉なんだ。また、密教における最高の仏、大日如来金剛界胎蔵界(たいぞうかい)の2つの姿であらわされるんだけど、金剛寺は金剛界の大日如来像を本尊としている。だから、金剛寺と名づけられたんだね。
 もっとも、金剛寺や金剛院という名前の寺は日本中にたくさんあるから、河内長野市の金剛寺は、天野 * という場所にあるので、天野山(あまのさん)金剛寺と呼ばれることが多いんだよ。

百花さん 本尊は大日如来像なのね。それが国宝指定されたの?

ゆいまくん 金堂にまつられている大日如来像は、脇侍(きょうじ)の不動明王像降三世(ごうざんぜ)明王像とともに安置されているんだよ。この3体が2017年に国宝指定されたんだ。

百花さん わりと最近の指定なのね。
 駅からはバスに乗って行くのね。

ゆいまくん 金剛寺は河内長野駅から西南西の方角にあって、バスで20分くらい。「天野山」というバス停で下るとすぐなんだ。

百花さん 長閑な雰囲気のところね。あ、大きくて立派な門が見えてきた。バス停からお寺はすぐなのね。

ゆいまくん これは楼門 ** という形式の門だよ。金剛寺の伽藍(がらん)の入口だね。

百花さん 左右に強そうな像がお寺を守っているけど、仁王像かな。

ゆいまくん 二天王像だよ。仁王(金剛力士)は上半身裸形であらわされるけど、この像は鎧をつけているよね。四天王のうちの2体で、持国天像増長天像なんだ。

 

増長天像
増長天像
持国天像
持国天像


百花さん あー、中尊寺金色堂でも2体の天が仏さまの世界を守っていたね。中尊寺ではお堂の壇の上に安置されていたけど、金剛寺の二天王像は門の中に立っていて、とっても大きい。人の倍くらいありそう。

ゆいまくん 像高は270センチほどだからそこまで大きくはないけど、実に堂々としているよね。言うまでもなく、堂内よりも門に立つ方が外気にさらされて厳しい環境にあるわけだけど、この二天王像はその割に保存状態がいいんだ。また、像内に銘文があり、像名が持国天と増長天であること、鎌倉時代後期の1279年につくられこと、そして手がけた仏師の名前までわかっていて、とても貴重なんだよ。

百花さん 片手をあげたポーズがまた、カッコいいー(♡)。お寺の清浄な空間に魔物が入り込まないように、しっかりと守護しているのね。頼もしいっ!

ゆいまくん これだけ大きな像を破綻なくつくりあげるのには、確かな技量と豊かな経験が必要なんだ。
 平安時代末の院政期には巨大な像が多くつくられ、鎌倉時代初期の南都復興事業でもスケールの大きな像が制作されたけど、それから数十年たったこのころには、大きな仏像を新造する機会が少なくなっていたんだ。そんな時期にこれほどの像をつくったんだから、仏師の力量は相当高かったんだね。

百花さん 大きい仏像をつくるにはそれだけ苦労があるのね。何という仏師がつくった像なの?

ゆいまくん 中心となったのは、法橋(ほっきょう)正快という仏師なんだ ***。でも、彼については残念ながらこの像の作者ということ以外、何もわかっていないんだ。名前に「快」の字がついているから、快慶流の仏師かもしれないけど、1279年といえば快慶の死後50年もたっているから、快慶の流れを汲んでいたとしても孫弟子かひ孫弟子だろうね。
 実は、これから拝観する金剛寺金堂の3体の仏像のうち、不動明王像、降三世明王像は快慶の弟子、行快(ぎょうかい)の作とわかっているんだよ。で、この楼門の二天王像の作者正快も「快」の一文字がついている。ということは、このお寺は快慶流の仏師と格別な関係があって、代々起用されたのかもしれないね。

百花さん おーっ、今回は快慶のお弟子さんのつくった像が見られるのね。これは楽しみ!
 境内に入ると… 奥の方が高くなっているのかな。なんか不思議な感じ。

ゆいまくん 楼門があるのは境内の東側、そこから西に向けて土地が高くなっているんだ。
 今、右に見えている建物は食堂(じきどう)、つまりお坊さんが食事をとるための施設で、南北朝時代にはこの建物で南朝の天皇が政務をとったと伝わっているんだ。その先一段上がると、右に金堂、左に多宝塔があって、ここが伽藍の中心だよ。その先がさらに一段高くなっていて、空海をまつる御影堂や、南朝の天皇が月を愛でたと伝えられている場所などがあるんだ。

百花さん 傾斜のある地形を上手に使いながら、整然とつくられているのね。
 金堂と多宝塔は、ずいぶんとカラフルね。興福寺南円堂にうかがった時にも、朱色が鮮やかで圧倒されたけど、こちらの建物はさらに派手な印象ね。原色の衣装で人気のタレントさんみたい。ほら、あのポップな人、ゆいまくんもきっと知っていると思うよ。ピンクや緑の服や髪飾りをして出てくる、自撮棒を持っている…

ゆいまくん そちらの方は詳しくないから、わからないなあ。でも、建築をタレントにたとえるなんて、百花さんって面白いね。

百花さん (小声で)ゆいまくんに「面白い」なんて、なんかムカつく…

ゆいまくん 金堂と多宝塔は近年修理されて **** 、もとの美しい姿を取り戻したんだよ。

 

(注)
* 金剛寺は東の天野山、西の大師山という低い山の間の谷筋につくられている。ここを北流する川が天野川(西除川)で、金剛寺の伽藍はその西側にあり、楼門から入る。なお、伽藍の北側には本坊、宝物館、庭園があって、そちらも拝観できる。また、川の東側の高台には鎮守社などの建物がある。

** 楼門は2階づくりの門で、下層には屋根を設けない形式のもの。

*** 持国天像、増長天像の銘には、作者として大仏師法橋正快、法橋祥賢、法橋全承、法橋祐尊、僧定賢、僧定喜の名前がある。この中で、定喜は京都神護寺大師堂安置の板彫弘法大師像(1302年)の作者、法眼定喜と同一人物の可能性があるが、それ以外の仏師はこの像の作者という以外のわかっていることはない。

**** 金堂は2009年から2017年にかけて修理が行われた。

 

金堂の背面。食堂のあるあたりから見上げている。一段高いところにあるのがわかる。
金堂の背面。食堂のあるあたりから見上げている。一段高いところにあるのがわかる。