大磯町郷土資料館寄託の神像
高来神社伝来

住所
大磯町西小磯446-1
訪問日
2025年6月12日
この像の姿は(外部リンク)
「新発見の大磯町高来神社の木造神像群」(『Web版有鄰』415号)
館までの道
大磯町郷土資料館は、旧三井家別邸があった大磯城山(じょうやま)公園内にある。大磯駅または1つ西側の二宮駅から神奈中バスに乗車し、「城山公園前」下車。
原則月曜日、毎月1日は休み。
*大磯町郷土資料館
入館料
無料(特別展開催時は有料の場合あり)
館や像のいわれなど
大磯町郷土資料館は1988年の開館。「湘南の丘陵と海」をテーマに、決して大きな規模ではないが、この地域の考古・歴史・民俗・自然の4つ分野にわたって常設展示を行っている。その中の「大磯の寺と神社」のコーナーで、高来(たかく)神社の神像3体が展示されている。
高来神社は大磯町東部の高麗山(こまやま)のふもとにあり、朝鮮半島にあった高句麗からの渡来人に由来するともいわれる古社である。かつては高麗権現といい、別当寺の高麗寺とともに神仏習合の寺社を形成していた。
高来神社に伝来した神像は、高麗山の山頂付近にかつてあった社にまつられていたものといい、昭和の中頃というから1960年前後のことであろうか、社の傷みが進んだために神輿堂というお堂に集められ、その後忘れられたようになっていたらしい。2000年に11体の神像が見出され、調査や修復、文化財指定が行われた。残念なことに破損が進んでおり、神名やつくられた経緯などは不明である。
郷土資料館に寄託されている神像は、11体のうち比較的保存状態のよいは6体である。保存上の観点より1度に展示するのは3体とし、およそ3ヶ月ごとに入れ替えているのだそうだ。
鑑賞の環境
ケース越しだが、よく調整された照明のもと、近くよりよく見ることができる。
神像の印象
寄託されている神像6体はすべて立像で、男神像2体、女神像2体、僧形像2体である。神像彫刻は坐像が多く、立像は比較的珍しいのではないかと思う。
ヒノキの一木造で、内グリはほどこさない。見るものに存在感を強く印象づける、優れた中世彫刻である。
男神像は高い冠を着け、袈裟をまとう。像高は約1メートル。
女神像は長い髪で耳を隠し、裳を着す。肩から胸に細い帯をかけている(背中で結んでいる)。これは「潔斎の懸帯」と呼ばれ、貴女が参詣に際して着装したもので、他の女神像にも例があるが、珍しい。
僧形像は円頂で袈裟をまとう。首の後ろの衣が上に伸びて後頭部を覆っているのは、いかにも神の像という雰囲気である。女神像、僧形像は像高約90センチ。
男神像、女神像、僧形像のそれぞれ2体は、互いにとてもよく似ている。おそらく3体で1組として2組同時期につくられたのであろう。もとの正しい組み合わせの3体ずつがどれなのかはわからなくなってしまっているが、男神像の1体を真ん中にして、女神像、僧形像をそれぞれ1体を脇に、計3体で展示されている。
男神像は、目を釣り上がり気味にし、口もとを引き締める。額は広めに、ほおは豊かに丸みをおびて、顎には髭を蓄える。体の幅を広く取って、威厳のある姿をあらわす。袖の深い彫り込みが小気味よい。
女神像はほおは豊かに、口もとはほころんでいるようである。男神、僧形の像に比べて頭や胸の傷みが進んでおりやや痛々しいが、優しさと気品が伝わってくる。裳に着色された赤色がかすかに残るのも、かぐわしく感じられる。
僧形の像は釣り上がり気味の目が生き生きとした雰囲気を出す。ゆったりとした立ち姿からは、親しみや優しさ、清らかさが感じられる。
その他
寄託されている6体以外の高来神社伝来の神像5体は、次のようである。
まず、寄木造の男神像。これは像高が130センチ以上ある大型の像で、傷みが進み、顔も破損しているが、玉眼が入っていたらしい。像内に1282年を指す年が書かれており、神像彫刻の貴重な基準作例といえる。次に、同じく1282年の年が描かれている女神像の頭部残欠、それに頭部を失った僧形像が1体。これら3体は一具と考えらえる。
ほかに、頭部を失った随身像が2体伝わる。
大磯町郷土資料館に寄託されている6体の像の制作年代を考える上で手掛かりになるのが、寄木造の男神像、女神像頭部残欠に書かれた1282年の年紀である。このころ、高麗権現と高麗寺では盛んに造像の活動が行われており(例、慶覚院地蔵菩薩像)、寄託の6体もその前後につくられたと考えることができそうである。ただし、寄託の神像と寄木造の神像とでは構造や像の雰囲気が異なり、時期にずれはあると思われる。では、いつ頃と考えるのが妥当であろうか。それについては、議論が尽くされておらず、現在のところ不明というほかはない。
さらに知りたい時は…
『高来神社蔵木造神像群保存修理概要』(『大磯町文化財調査報告書』第51集)、大磯町教育委員会、2021年
『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代 造像銘記篇』13、中央公論美術出版、2017年
「文化財特別公開 旧高麗寺の神と仏」(『大磯町郷土資料館だより』27)、2006年11月
『神々と出逢う』(展覧会図録)、神奈川県立歴史博物館、2006年
「座談会 かながわの神道美術」(『有鄰』459号)、2006年2月
『高来神社蔵木造神像群』(『大磯町文化財調査報告書』第45集)、大磯町教育委員会、 2002年
「新発見の大磯町高来神社の木造神像群」(『有鄰』415)、薄井和夫、2002年6月
→ 仏像探訪記/神奈川県