鶏足寺己高閣の十一面観音像

  己高山山上にまつられていたと伝えられる仏像

住所

長浜市木之本町古橋

 

 

訪問日 

2011年3月28日

 

 

この仏像の姿は(外部リンク)

長浜・米原を楽しむ観光情報サイト

 

 

 

 

拝観までの道

最寄り駅は北陸本線の木ノ本。駅東口の観光案内所にレンタサイクルがあるので、借りると便利。

 

木之本観光案内所

 

鶏足寺の収蔵庫である「己高(ここう)閣、世代(よしろ)閣」は駅の東方、レンタサイクルで20〜25分。

バス利用の場合は、木ノ本駅から湖国バス金居原線で「古橋」下車。バスは日中およそ2時間に1本程度。

 

 

拝観料

2棟の収蔵庫、己高閣・世代閣共通で500円

 

 

お寺や仏像のいわれなど

木之本の町の北東にそびえる己高山(こだかみやま、標高923メートル)には、かつて大規模な山岳寺院が存在した。延暦寺のように多くの堂塔が軒を連ねていたということだが、次第に衰退した。

中世の史料には「己高山五箇寺」とあり、山頂の観音寺のほか石道寺(しゃくどうじ)、法華寺などの5か寺が栄え、また鶏足寺(けいそくじ)、飯福寺(はんぷくじ)などの別院もあったという。

江戸時代になると観音寺は衰退し、別院の鶏足寺が中心的な存在となったらしい。しかし近代には鶏足寺も無住となり、飯福寺と合併。だが、その飯福寺も無住となり、文化財は木ノ本駅の東、古橋地区に収蔵庫をつくって保存されることになった。これが己高閣である。1963年につくられた滋賀県初の文化財収蔵庫だそうだ。

その後、己高閣の背後に世代閣という収蔵庫もつくられ、古代、中世の山岳寺院の仏教文化を今日に伝えている。

 

なお、鶏足寺はかろうじて存続していて、この収蔵庫より東南数百メートルの山腹にある。上述のような経緯で、ここはもと飯福寺だったところである。紅葉の季節などみごとだそうだが、仏像などはすべて収蔵庫に移されている。地元の方に尋ねる場合は、「鶏足寺」と言うとそちらを指すので、収蔵庫の場所を聞きたいときには「己高閣・世代閣」と伝えるのがいいようだ。

 

 

拝観の環境

ケースなしで展示されていて、近くよりよく拝観できる。

 

 

仏像の印象

己高閣中央に安置される十一面観音像は、かつて己高山山上にあった山岳寺院の本堂本尊という。

伝承では、己高山に仏堂を創始したのは行基で、十一面観音像は行基自刻という。しかし寺は一度とだえ、数十年ののちにここを訪れた最澄が行基作の観音像頭部を見いだし、体部を彫って継いだ等伝えられている。

上述のように己高山の寺院は近世以後廃れ、最後に残った山上の本堂も1933年に火災で失われた。その時本像は、ふもとで保存されていたので難を逃れたそうだ。

 

像高は約170センチの立像。樹種はカヤとみられる。

右腕の大部分や左腕の上腕部まで含んだ一木造である。内ぐりはない。右足は少し遊ばせるが、直立に近い。白毫、手先、足先、台座、光背などが後補だが、総じて保存状態はよい。

この像の魅力は、なんといってもその素朴な造形と力強い美にある。

目はつり上がり、鼻と口が真っすぐでなく、ややいびつな並びである。それでいて生命力あふれる美が宿っている。眉から鼻にかけてはくっきりとあらわされて、顔の印象を強めている。頭上面は大きい。

体躯にも強い存在感があり、怒り肩で、下がる右腕は長い。胴はしっかりとくびれる。

裙の折り返しは、そこに布が折り返されているのを自然らしく見せるという意識でなく、とにかく力強く襞を刻み出す。下肢を横切る天衣は分厚く表現される。下肢には翻波式衣文が見える。右肩からの天衣はこれもややぎこちなくゆらゆらと曲線を描いて下がる。

体の厚みはあまりない。材の制約であろうか。特別に用いた霊木から彫り出されたために、その制約を受けたのかもしれない。

 

 

その他の仏像について

そのほか己高閣には、七仏薬師像や兜跋毘沙門天像などが安置されている。

七仏薬師像は各70センチ前後の立像。素木の仕上げであることのあって、素朴なつくりの像である。体躯の奥行きも薄い。

七仏薬師を光背に配する例はよくあるが、実際に7躰のセットで造像し伝来しているものは少なく、中世以前の作例としては、ほかに岩手・赤沢薬師堂の像、千葉・松虫寺の像および千葉・東光院の伝七仏薬師像が知られる。

 

兜跋毘沙門天像は手を失って痛々しい姿だが、いかにも一木彫の量感のある仏像である。この像は『芸術新潮』1991年1月号で「眼のない仏像」として紹介された像のひとつ。確かに目があるはずのところにはわずかにふくらんでいて、年輪の輪が浮き出しているにすぎない。印象深い顔立ちの像である。

 

 

さらに知りたい時は…

「滋賀・鶏足寺の天台系七仏薬師如来像」(『MUSEUM』668)、西木政統、2017年6月

『近江の古像』、髙梨純次、思文閣出版、2014年

『木之本の文化財1(杉野/高時編)』、木之本町教育委員会、2002年

『山の仏』、藤森武、東京美術、1998年

「滋賀・鶏足寺仏像群」(『日本美術工芸』666)、井上正、1994年3月

『近江の仏像』(『日本の美術』224)、西川杏太郎、至文堂、1985年1月

 

 

仏像探訪記/滋賀県