神呪寺の如意輪観音像

  年1度、5月18日に開帳

住所

西宮市甲山町25-1

 

 

訪問日

2008年5月18日

 

 

この仏像の姿(外部リンク)

関西テレビ・ほとけんさく

 

 

 

拝観までの道

神呪寺(かんのうじ)へは、阪急神戸本線の夙川(しゅくがわ)駅から甲陽線に乗り換え、終点の甲陽園で下車、そこからほぼ真北に徒歩約30分である。途中、かなりの上り坂あり。

バス利用の場合は、JR、阪神の西宮駅、阪急線の西宮北口駅から(甲山大師前下車)。

本尊の如意輪観音像は5月18日のみの開扉。

 

甲山大師神呪寺ホームページ

 

 

拝観料

志納

 

 

お寺や仏像のいわれ

神呪寺は六甲山地の東端、甲山(かぶとやま)の中腹にある。甲山の名の由来は、兜のような山の形からとも、神功皇后が武具を埋納したためともいい、また古くは武庫山ともいったらしい。

神呪寺の歴史は深い霧の中にある。古代創建、頼朝の再興との伝えがあるものの、そのころ寺がどこにあったのかさえ分かっていない。戦国時代に全山焼失し、さらに秀吉によって寺領の大半を没収され、現在の寺地より東の地域に細々と堂を構えてかろうじて存続したという。江戸後期に今の場所に移り、本堂と仁王門以外の堂塔は近現代になって建立されて、現在のような寺の形となった。

 

本尊は平安時代中期の如意輪観音像である。

如意輪観音は、奈良時代に2臂(腕が2本)の像が信仰されたといい、その時期の如意輪観音と伝える像も伝来しているが、その当否はなお検討が必要であろう。我々がよく知る6臂の姿の如意輪観音像は、平安初期、密教とともに渡って来たものである。その信仰はしだいに高まりをみせ、『枕草子』にも「仏は如意輪」とある。神呪寺の如意輪観音像は、この「枕草子』に近い時期、平安時代の像である。

 

 

拝観の環境

厨子中に安置されているので正面からのみだが、像のすぐ前で拝観できる。

 

 

仏像の印象

首を大きく傾け、夢みるような表情の像である。ややなまめかしさも感じる。とても魅力的な仏像である。一木造で内ぐりを施している。材はサクラと伝える。

一般に6臂の如意輪観音像は、右足を立て膝にし左足を横にするが、この像の足の形はかなり変わっていて、横にした左足の上に斜めの角度をつけた右足が乗っている。あぐらの変形のようだが、無理な姿勢である(やってみると痛い)。実は左足は後補であり、もとの姿は違っていた可能性がある。

京都の醍醐寺には2躰の平安期の如意輪観音像が伝来しているが、そのうちの1躰は半跏像で、左足を垂下し、右足は角度をつけて反っているように表現されている。こうした姿の如意輪像は大変珍しいが、この神呪寺の如意輪観音像ももとはこうした半跏像であったのかもしれない。

 

 

その他の仏像について

神呪寺には秘仏の本尊、如意輪観音像のほか、数躰の重要文化財指定の彫刻が安置されている。

本堂に向って左側、大師堂の本尊が、鎌倉時代の弘法大師像である。神呪寺は真言宗寺院で、別名を甲山(かぶとやま)大師といい、秘仏本尊とともにこの大師像が信仰を集めてきた。

ヒノキの寄木造で玉眼、像高約80センチで、椅子(後補)の上に座る。

非常にリアルな像である。理想化を押し進めた僧の姿であるが、あくまで人の像であり、神格化した表現ではないという感じである。現代の彫刻のようだ。

足の部分の衣紋の表現もリアルさを追求しているように思える。しかし、胸から腹にかけての袈裟の衣の襞(ひだ)はやや不自然である。

 

本堂向って右側の不動堂本尊は像高90センチほどの不動明王坐像で、ヒノキの割矧(わりは)ぎ造。上半身や顔は充実した力強さがある。組んだ足の間にたくし込まれた衣の表情はなかなかリアルであるが、腰布の複雑な襞(ひだ)や条帛のうねりはやや装飾的である。平安時代後期ともみえるが、平安彫刻の要素を取り入れた鎌倉彫刻であると考えられている。

大師堂、本堂、不動堂は連結しており、不動堂の脇より上がって、順に拝観できる。それぞれの像のすぐ前から、よく拝観することができる。ただし、このように間近で拝観できるのは、5月18日だけなのだそうだ。

なお、この不動明王像は平安前期に智証大師円珍が唐より持ち帰った図像に基づいてつくられているとされる。同様の「円珍請来様」の不動像としては、京都・同聚院の丈六像が知られる。

 

もう一体、不動堂の右に独立して建っている納骨堂内にも重要文化財指定の仏像が安置されている。平安後期と思われる聖観音立像である。像高約2メートル、ヒノキの一木造である。納骨堂はいつでも拝観可能であるが、基本的には遺族の方の祈りの場であるので、ガラス扉の外から拝観するのが礼儀であろう。

 

 

さらに知りたい時は… 

『仁和寺と御室派のみほとけ』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2018年

『甲山神呪寺史』(お寺発行の小冊子)、1998年再版

『仏像集成7』、久野健編、学生社、1997年

『如意輪観音像・馬頭観音像』(『日本の美術』312)、井上一稔、至文堂、1992年5月

『仏像に想う』上、梅原猛・岡部伊都子、講談社現代新書、1974年

『兵庫県文化財図鑑』、兵庫県教育委員会、1967年

 

 

仏像探訪記/兵庫県