熱海山口美術館展示の千手観音像、阿弥陀如来像

流転の仏たち

住所
静岡県熱海市渚町24-1


訪問日 
2022年11月25日

 


この仏像の姿は(外部リンク)
熱海山口美術館


入館までの道
最寄り駅は伊東線の来宮で、下車後海岸の方へ徒歩15分、熱海駅からも20分ほどで歩ける。熱海駅の南南西、熱海港に面した親水公園の近くであり、どちらの駅からも下り坂であるので、行きはよいが、帰りは上り坂となる。美術館の方に聞いて、熱海駅までバスで戻るのがよいかもしれない。
無休。


入館料
1,400円


館や仏像のいわれなど
熱海山口美術館は2020年に実業家の山口伸廣氏によって開設された美術館である。
展示の中心は日本や西欧の絵画、彫刻、陶芸で、最近のものではバンクシーの版画作品もコレクションされている。ビルの1、2階を使い、屋外展示まで「展示室」と数えて13もの展示室がやや大げさにいえば迷路のように配置されている。1階にはカフェ、ショップも併設。入館料には簡単な絵付け体験とワンドリンクがついており、抹茶を選択すると人間国宝作家の作品でお茶をいただける。

仏像の展示は2階の第4展示室。ここの展示された千手観音像、阿弥陀如来像は2021年にこの館のコレクションとなったそうである。重要文化財指定。
実はこれらの仏像は滋賀の寺院の所蔵であった。盗難、所蔵権をめぐる裁判という穏やかならざる経過のにちに、買われてきたものらしい。それが戦後の混乱期とかそういうことではなく、この21世紀のことだというのが衝撃的である。
この2体の仏像が不幸な流転にこれ以上巻き込まれないよう、祈りたい。


鑑賞の環境
ライトがよくあたり、近くより鑑賞できる。


仏像の印象
千手観音像は像高約120センチの立像。頭部から合掌する前の2本の手を含み、足までを1本の木から彫りだす。材はカヤという。内ぐりもない。頭上面や脇手は後補。
まぶた、ほお、あごには張りがあり、目は細く内側による。独特の表情をした仏像である。髪の束は細かく髪筋が刻まれる。
裙は足元にぼってりとかかる。ひだは浅めに刻まれる。正面で裙の打ち合わせが表現され、すこし渦を巻いたような表し方が魅力的である。こうした表現の面白さや、顔つきの微妙な肉付きから、鎌倉時代に入っての作と思われる。

阿弥陀如来像は像高約1メートルの立像。一木造で内ぐりなし。細身で、ほぼ超区立する。足は少し開いて立つ。来迎印だが、手先は後補。全体的にいたみが進んでいる。平安時代後期頃の作と思われる。
螺髪の粒は大きめで、肉髻は低め。やさしい表情で、全体に素朴な印象があり、いつまでも見ていたいように感じる。
なで肩。右の腰から下がっている袈裟の部分や足の間にひだをつくる衣の線も素朴に見える。下半身は長めにして、袈裟は短く、下肢で裙を見せている。


さらに知りたい時は…
『逆境の教科書 ピンチをチャンスに変える思考法』、山口伸廣、集英社、2015年


仏像探訪記/静岡県