前山寺の大日如来像

入念の作、保存状態も良好

住所
上田市前山300


訪問日 
2025年7月29日


この仏像の姿は(外部リンク)
上田市・プレスリリース



拝観までの道
前山寺(ぜんさんじ)は、上田電鉄別所線の塩田町駅かその隣の中野駅から南へ徒歩約35分。
4月から11月の間であれば、上田電鉄別所線の下之郷駅と別所温泉を結んで運行される「信州上田レイライン線」というバスに乗車するのがよい。「前山寺」下車すぐ。


拝観料
入山料200円


お寺や仏像のいわれなど
標高1200メートル余りの独鈷(とっこ)山の北麓にある真言宗寺院。空海が開創したと伝え、南北朝時代に長秀上人という方が中興したというが、実質的にはこれが開山と思われる。

本尊の大日如来像は本堂の須弥壇上に安置される。出来栄えが優れ、保存状態もよく、像内も黒漆塗りで仕上げられている、まさしく入念の作である。
これほどの像でありながら、なぜか文化財指定は遅く、2024年になって市の文化財に指定された。
制作時期は鎌倉時代前期から中期にかけてと考えられ、そうすると南北朝期に寺院が開かれるよりも古いということになるが、本寺に迎えられる以前の伝来は不詳である。


拝観の環境
外陣からの拝観。照明もあるが、やや距離があるので、一眼鏡のようなものがあるとよい。


仏像の印象
腕を胸の前で忍者のように組む金剛界の大日如来坐像で、像高は約70センチ。寄木造、玉眼。金泥を塗っていたものがかなり落ちてはいるものの、顔、胸などにその痕跡が明るく残り、神々しく感じる。
宝冠などは後補だが、本体には後補部分はほとんどなく、保存状態は極めてよい。
像内に銘があり、頭頂部に金泥で「実円」とあるが、これがどのような人物であるのかはわからない。また年代などの情報は書かれない。他に、首のほぞに金剛界大日如来の種子も書かれているそうだ。

額を広くとり、目は細く切長、目尻を釣り上がり気味にしているのが印象的である。鼻、口が接近し、口は小さめ。小鼻は小さい。ほおは張りがあるが、丸々とはせず、どちらかといえば四角い顔つきのように見える。顔はやや俯き加減にしている。
落ち着いた穏やかな顔だちであり、若々しくもある一方で、溌剌としているというよりはやや沈んだ表情であるようにも思える。
天冠台の下の髪はたっぷりとしており、中央部でカーブする。冠の上部にまげが僅かに覗き、高く結っているのがわかる。

姿勢よく座り、手を組んだ様子も自然で、全体に安定感がある。腕や胴回りは細めで、華奢な印象もある。足は右を上にして組む。衣のひだはしっかりと刻む。


さらに知りたい時は…
『ハッケン! 上田の仏像』(展覧会図録)、上田市の仏教美術展実行委員会、2025年


仏像探訪記/長野県