狛坂磨崖仏

  山中の巨大な磨崖仏

住所

栗東市荒張

 

 

訪問日 

2007年10月6日

 

 

この仏像の姿は(外部リンク)

滋賀・びわ湖観光情報・狛坂磨崖仏

 

 

 

拝観までの道

狛坂(こまさか)磨崖仏は南近江の山中にあり、本格的な山歩きというほどではないが、しっかりと足ごしらえをして出かける必要がある。

 

東の金勝寺(こんしょうじ)からは尾根続きであり、こちらから入るのがひとつの方法。もうひとつは西北の「上桐生」バス停から登る方法がある。そのほか、南側にも別のバス路線の停留所があるらしいが、現在第二名神高速道路の建設工事のためそこからは来られないようだ。

筆者は金勝寺から入って、「上桐生」バス停へと抜ける道をとった。

 

* 金勝寺までの道は金勝寺の平安仏の項を参照してください。

 

栗東市役所観光振興室が出しているパンフレット「金勝山(こんぜやま)ハイキング」によれば、金勝寺の標高は550メートル、そこから北西に30分ほど舗装された林道を行くと馬頭観音堂に出る。ここの標高が590メートル。駐車場やトイレもあり、琵琶湖をはじめ、北側の景色を一望できる。草津駅や栗東駅からここまでタクシーで来ることも可能なようである(3,000円くらいか)。

馬頭観音堂からは舗装されていないハイキングコースとなる。道は整備されており、案内板も随所にあるので不安なく進めるが、道は狭く、場所によってはかなり急坂のところもある。10から15分くらいで竜王山の山頂にでる。ここがコースの中で一番高いところである(標高605メートル)。そこから35分ほど下ると、突如として左手に狛坂磨崖仏が現れる。

 

栗東市観光協会・金勝山ハイキングコースのご案内

 

 

拝観料

なし

 

 

仏像のいわれ

磨崖仏のすぐ近くに石組みが残っている。これは、金勝寺の別院として平安時代初期に造られた狛坂寺の跡である。磨崖仏の制作年代は、この寺の創建のころと考えて平安前期、あるいはそれをさかのぼって奈良時代後期とする説もある。

 

 

拝観の環境

特に囲いもなく,自由に拝観できる。北面しているため、天気のよい昼は逆光になる。

 

 

仏像の印象

中国・朝鮮には石仏が多いが、日本は少なく、木彫中心である。木は豊富だが、彫刻に適する石材は少ないからであると説明される。確かにそうなのであろう。

しかし、『石仏』や『日本の石仏200選』を見ると、日本にも豊かな石仏の流れがあることがわかる。その中でも、狛坂磨崖仏は最も魅力的な石の仏のひとつである。

 

高さ6メートル以上ある大きな花崗岩に3メートル近い三尊像を刻み、その上方にはさらに2組の三尊像、数躰の菩薩立像が刻まれる。また、この大きな岩の左下にも三尊が刻まれた石があって、合計15躰の仏・菩薩が彫り出されているが、中央の大きな三尊仏以外は残念ながら風化が進んでいる。

 

中央の三尊像は約30センチの高浮き彫りとなっており、丸顔で、体躯も横広がりである。統一新羅時代の仏像を思わせる。中尊の右腕の曲げ方や胸に添えた脇侍像の手は独特である。また、このよう群像表現も日本の古代彫刻の枠組みを越えているように思われ、狛坂という地名から連想されるように、渡来系の人々によって造られたのかもしれない。

狛坂磨崖仏は固い花崗岩に彫られているが、韓国南部の石に近いという。また、磨崖仏は北面した岩に彫られている。こうしたことからも、渡来系工人の手によるものという説の蓋然性を感じる。

 

中尊の衣の襞(ひだ)の表し方や、脇侍の天衣(てんね)、裾の表現はとても丁寧である。中尊の組んだ足は、浮き彫りの制約のなかでうまくまとめられている。もしかしたら足は組んでいるというよりは交差させているという表現であるのかもしれない。交脚像は日本では珍しいが、中国では南北朝時代に弥勒菩薩交脚像がさかんにつくられ、そこから派生したと思われる如来形の交脚像(手は前で組む説法印)も伝えられている。狛坂の中尊も交脚の弥勒如来像である可能性がある。

一方、中尊の不自然な手の形であるが、胸の前で組んでいるので一応説法印と考えられる。もしこれを左手は手の甲、右手は手のひらを向けている表現ととるならば、法隆寺金堂壁画の阿弥陀像(焼失)や東京国立博物館法隆寺宝物館の押出仏中尊の阿弥陀像などと共通する。そうすると、この像もまた阿弥陀仏であるということになるのかもしれない。

 

 

上桐生バス停へのルート

狛坂磨崖仏の標高は450メートル。ここからは標高260メートルの「上桐生」バス停まではひたすら下りである。約1時間15分くらいだが、最初の20分くらいはかなりの急坂で、道も狭くぬかるんでいて大変である。あとはだらだらとした下りだが、最後まで舗装道路ではない。

 

その途中に通称「逆さ観音」という磨崖仏がある。

鎌倉期の阿弥陀三尊磨崖仏であるが、近代の堰堤築造での石の切り出しの影響を受け、岩がひっくり返ってしまったものだそうだ。以来、身を削り逆さになっても人々を洪水から守る仏として信仰されているという。仏像が新たな意味付けを与えられていく例として、面白い。ただし、摩滅はかなり進んでいる。

 

「上桐生」バス停は草津からの帝産バスの路線の終点である。バスの本数は1時間に1〜2本。草津までは30分くらいである。

 

なお、徒歩の時間についてはあくまでも筆者が歩いた時間である。筆者は決して健脚でなく、仏像探訪でなければハイキングなど避けて通りたいタイプの人間であるので、たいていの人はそれくらいの時間で歩けると思う。しかし天候、体調、人数、年齢層等によってかかる時間は大きく変わる。栗東市役所による案内図の時間目安ではもう少しかかることになっている。老婆心ながら付け加えるが、余裕をもって行くことをお勧めする。また、「上桐生」から登っていく場合は、当然ながらかかる時間は変わってくる。

 

 

その他

栗東歴史民俗博物館で狛坂磨崖仏のレプリカが常設展示されている。

*  栗東歴史民俗博物館のホームページ

 

 

もっと知りたい時は…

『紫香楽宮と甲賀の神仏』(展覧会図録)、MIHO MUSEUM、2019年

『東大寺・正倉院と興福寺』(『日本美術全集』3)、小学館、2013年

「近江の渡来文化」(『近畿文化』672)、猪熊兼勝、2005年11月

『地方仏を歩く』、丸山尚一、日本放送出版協会、2004年

『日本の石仏200選』、中淳志、東方出版、2001年

「狛坂磨崖仏」(『国華』1216)、佐々木進、1997年

『弥勒像』(『日本の美術』316)、伊東史朗、至文堂、1992年

『仏像を旅するー東海道線』、清水真澄編、至文堂、1990年

『石仏』(『日本の美術』147)、 鷲塚泰光編、至文堂、1978年

 

 

仏像探訪記/滋賀県