如意寺の仁王像と太山寺の阿弥陀如来像

  神戸市西部の天台古刹に伝わる仏像

如意寺仁王、阿形像
如意寺仁王、阿形像

住所

神戸市西区櫨谷町谷口259(如意寺)

神戸市西区伊川谷町前開224(太山寺)

 

 

訪問日 

 2015年1月18日

 

 

この仏像の姿は(外部リンク)

太山寺ホームページ・縁起

 

 

 

如意寺への道

如意寺は神戸市営地下鉄西神・山手線の西神南駅(終点のひとつ手前)下車、徒歩約20分。

駅の西に伊吹台谷口公園という大きな公園がある。その北側、公園のふちに沿うようにして細い道が東西に通っているのだが、如意寺はその道沿いにある。

公園は南半分が遊具や池のある平地、北半分は高台の林でちょっとしたハイキングコースとなっており、この林を南から北へとつっきると如意寺の南側に着く。

 

仁王像が安置される山門はお寺の西、少し離れたところにある。お寺の前から西へ徒歩3分くらい。門は西を向いて建っている。

 

 

お寺や仏像のいわれなど

如意寺は古代草創の天台宗寺院。

本堂は礎石だけを残すが、その前を囲むようにして中世の三重塔、常行堂(阿弥陀堂)、文殊堂が軒を並べる。伝来する史料からも、中世から近世にかけて隆盛を誇った寺院であることが知られる。

 

この寺の仁王門の仁王像は、めずらしい中世の塑像である。

土でつくる塑造は仏像の材質として奈良時代前後に多く採用され、その後はいったん途切れるが、鎌倉時代に入ると木彫に塑土を合わせて用いる例が見られるようになる。さらに鎌倉時代後期には、中国の影響と思われるが、塑造による僧の肖像の作例が登場する。こうした中世塑造の彫刻の中では、この如意寺仁王像はとび抜けて大きな像であり、注目される。

塑造は自由な造形が可能で、動きのある天部像をつくるのは確かにすぐれた素材である。しかし、風化や衝撃には弱く、門に安置する仁王像には適した素材とはいえない。本像以外に塑造の仁王像はといえば、法隆寺中門の像(奈良時代前期)が残るばかりである。

従って本像は、今に伝わる唯一の中世塑造の仁王像としてまことに貴重である。

 

 

拝観の環境

仁王像は格子越しに自由に拝観できる。

 

 

仁王像の印象

仁王門は伊吹台谷口公園の北側を東西に通る道の真ん中にどんと建っている。

実は道を通すにあたって、仁王門を移転させようとしたのだが、像の傷みが激しく移転は無理と判断され、門をぐるりと避けて道をつけたという経緯があるそうだ。

残念ながら、仁王像はそれほど傷みが進んでいる。

 

像高は250センチ前後。

小さめの顔は丸みを帯びる。大きな目、怒り肩、複雑に翻る裙の折り返し部分など、勇壮な雰囲気が見てとれる。全体的な雰囲気は硬く、ややぎこちないが、それは構造的な限界によるものか、あるいは何度か行われている補修によるものかもしれない。

像の中の木や荒縄が見える部分があり、また手先が失われたりして、痛々しい。

ことに阿形像は脚部の破損ははなはだしく、そのために全体的に左(向かって右)方向に傾いているようである。

 

太山寺
太山寺

 

太山寺について

如意寺の仁王像拝観後、地下鉄の次の駅の伊川谷駅からバスに乗車し、太山寺に向かった。

このバスは明石駅から伊川谷駅を通って地下鉄の名谷(みょうだに)駅までの神姫バスで、伊川谷駅と名谷駅の間のバス停「太山寺」で下車するとすぐ前が仁王門である。バスの本数は1時間に1本。

 

門をくぐって石畳の道なりに行くと、左右に子院がいくつかあり、突き当たりの石段を上がる。拝観料は300円。

 

古代草創の天台宗古刹。史料上の初見は12世紀で、鎌倉時代におおいに栄え、室町時代以後次第に衰え現代に至る。

 

門をくぐり、正面が本堂(国宝、鎌倉時代後期)、その手前左が阿弥陀堂、右側が塔という伽藍の配置は、如意寺のそれに近い。ただし、太山寺は地形の関係か45度ほどずれて、本堂は南でなく西南に向いており、阿弥陀堂は東南に面する。

 

 

太山寺の阿弥陀如来像

阿弥陀堂の本尊の阿弥陀如来像は像高約280センチの坐像。堂々たる定朝様の丈六阿弥陀如来像である。手は定印。彫眼。

額は狭くし、口は小さめ、顎はしっかりとつくって口もとは引き締める。やや硬い表情である。

膝は左右への張りはあるが、高さは低い。また、肘もあまり張らず、手はすらりとは伸びない印象で、全体に若干ぎこちなさがみえる。

表面の金箔が大変よく残り美しい。ただ表面がしっかりとしているためもあって内部構造をうかがい知ることはできず、時代の特定に至っていない(鎌倉時代前期説、同時代後期説、さらにそれよりも時代が下るという説がある)。

 

扉口からの拝観だが、像が大きいため、よく見える。堂内は暗いが、お堂の前の石畳を反射した朝の光が像にあたって、実に神々しく感じられた。晴れた日の午前中がお勧め。

 

 

その他(太山寺裏の不動磨崖仏について)

お寺の裏に不動明王の磨崖石仏がある。県内でも古作という。お寺の南側を流れている太山寺川の崖に肉厚に彫られ、やや風化が進むが、十分に姿がわかる。口はへの字に、弁髪や衣の裾は翻り、火焔の光背の模様もすばらしい。

対岸からではやや距離があるためにそんなに大きくは見えないが、実際には像高175センチの立像、すなわち等身大の像である。市の調査によると「弘安」の文字が刻まれているそうで、これが本像が彫られた年であるならば、鎌倉後期の1270~80年代ということになる。

 

場所は「太山寺」バス停から県道16号を東北東に300~400メートル行くとトンネルがあるが、その手前に右手(東南方向)へ入って行く旧道がある。この道を川に行き着くまで5分くらい進んだところなのだが、道は途中で通行止めとなっている。少し前に崩落事故があったためらしい。

見学について、詳細は太山寺で聞くとよい。

 

 

さらに知りたい時は…

『播磨の国宝』、播磨学研究所・編、神戸新聞総合出版センター、2018年

『太山寺の名宝展』(展覧会図録)、 神戸市立博物館、神戸市スポーツ教育公社、1993年

「中世塑造技法の研究ー如意寺仁王像について」(『 東京藝術大学美術学部紀要』19)、山崎隆之・矢野健一郎、1984年

 

 

仏像探訪記/兵庫県