円教寺食堂の金剛薩埵像

  南北朝期、慶派仏師の造像

住所

姫路市書写2968

 

 

訪問日

2009年7月19日

 

 

この仏像の姿は(外部リンク)

書寫山圓教寺・文化財・史跡(金剛薩埵)

 

 

 

拝観までの道

円教寺(圓教寺、えんぎょうじ)は姫路駅の北北西、書写山(しょしゃさん)の山上に位置する古刹である。

姫路駅北口の神姫バス乗り場から8番系統、書写ロープウェイ(書写駅)行きで30分弱、終点で下車するとすぐロープウェイの駅がある。バスの本数は日中1時間3本。ロープウェイに乗ると約4分で山上に着く。運行は1時間に4本。バスとロープウェイの往復セット券もある。

ロープウェイを降りて歩きはじめるとすぐに円教寺の入口である。

 

円教寺では、本堂にあたるお堂は摩尼(まに)殿という。拝観入口から摩尼殿まで徒歩で20分くらいであるが、坂道。拝観入口からマイクロバスが運行されていて、乗ると数分で行けて快適だが、このルートでは仁王門を通らずに摩尼殿の下まで行ってしまうことになる(マイクロバスは1時間に3本運行)。

仁王門は江戸前期の建築で、緑の中にとけ込むようにたっている。仁王像は門よりも古いといわれ、頭部を大きくつくり、忿怒の形相激しいが、傷みも進んでいて、修理された部分が多い。

 

摩尼殿の裏手から林の中を5分くらい進むと、三之堂(みつのどう)とよばれる大講堂、食堂(じきどう)、常行堂に出る。中世のお堂がコの字の形に並んでいる。

このうちの食堂の2階が宝物館になっていて、寺内の仏像で比較的小さな像が集められている。

 

 

拝観料

500円(マイクロバス乗車を希望する場合は1,000円)

 

 

お寺のいわれ

円教寺は平安中期に性空(しょうくう)上人によって創建された。

性空は橘氏出身で、比叡山で良源に学び、九州の山岳で修行をしたのち、この書写山の地を修行場として見いだして草庵を結んだといわれる。その徳を慕って、花山法皇や和泉式部が訪れたと伝える。れっきとした歴史上の人物だが、生涯を通じて強く伝説に彩られた人である。

 

円教寺のある書写山の名は、多くの僧によって経典の書写が行われているというところからきているという説が有力である(他の説としては、「スサノオノミコト」の「スサ」、あるいは「精舎(しょうしゃ)」が語源という説がある)。平安末の『梁塵秘抄』においても聖のいます山として書写山があげられ、鎌倉時代の一遍もこの寺を訪れている。いつの頃からか、西の比叡山ともいわれた。

 

 

拝観の環境

食堂の仏像は、ガラスケースの中に安置されている。間近で拝観できる。

 

 

仏像の印象

食堂安置の仏像のうち、最も目をひくのは金剛薩埵(さった)坐像である。密教では大変重要な仏さまだが、彫刻作品は珍しい。

像高は40センチ弱、もと金剛堂というお堂の本尊であった像である。円満な相好、やわらかさが感じられる腕の表現など大変美しい像である。みごとな宝冠をいただいていて、そのために全体のなかで顔がやや大きく見える。膝に衣の端がびらびらと波打っているのは、宋様ということか。脇腹の衣の線も波打つ。正面からは腰がくびれてスマートに見えるが、斜めからはなかなかどっしりとした像である。

 

像底に朱で銘文が書かれていて、南北朝時代の1359年、仏師康俊(東寺大仏師)の作と知れる。康俊は、運慶、湛慶などの系譜を直接引いているかは不明であるものの、慶派の流れを汲むこの時代の代表的な仏師である。

 

美しい台座がついている。調査によると、江戸後期に修復を受けていて、この台座の顔料はヨーロッパからの輸入品であるという。

 

 

その他

円教寺の本堂にあたる摩尼殿は、西国三十三所札所として信仰を集める。懸け造という舞台をせりだしたような豪快なつくりのお堂は、20世紀前半の再建。

摩尼とは玉のことをいい、如意輪観音の持つ如意宝珠を指す。従って摩尼殿とは如意輪堂という意味である。円教寺を開いた性空上人が、天人が降りて来て崖の桜の木に礼拝する様子を見て、弟子に命じてこの桜の木から如意輪観音を彫りだし、そこにお堂をつくったのが摩尼殿のはじまりという。

残念ながらこの草創期の如意輪観音は失われ、現在の本尊はお堂再建の時につくられた20世紀前半の作である。お堂の内陣には5つの厨子がつくられていて、中央がこの如意輪観音像、その左右は四天王像が納められているが、いずれも秘仏で、毎年1月18日の修正会というお祭りの時に開扉される。お祭りがはじまる前の午前中か、お祭りの終了後に内陣で拝観できるらしい。

なお、四天王像はもと大講堂にあった像で、平安時代の作である。

 

本尊秘仏の如意輪観音像厨子の裏にはさらに厨子があって、そこから近年鎌倉時代の如意輪観音の小像が発見された。創建時本尊ではないにしても、その復興像である可能性がある。再び厨子に納められ、公開の予定はないとのことである。

 

 

さらに知りたい時は…

「ポータブル型複合X線分析装置による遺跡・文化財の分析 33 室町木彫金剛薩埵坐像」(『金属』1067)、宇田応之・石崎温史、2008年12月

『運慶流』(展覧会図録)、佐賀県立美術館・山口県立美術館、2008年

「室町仏像に江戸期の『緑』」(『朝日新聞』朝刊、文化面)、2008年11月26日

『円教寺』(『週刊古寺を巡る』24)、小学館、2007年7月

『南北朝時代の彫刻』(『日本の美術』493)、山本勉、2007年6月

「書写山円教寺と性空のドラマ」(『バンカル』58)、姫路市文化振興財団、2006年冬号

『仏像好風』、紺野敏文、名著出版、2004年

「書写山のすべて」(『バンカル』40)、姫路市文化振興財団、2001年夏号

『書写山円教寺』(兵庫県立歴史博物館総合調査報告書Ⅲ)、兵庫県立歴史博物館、1986年

 

 

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