安楽寿院の阿弥陀如来像

  春、秋に寺宝公開

住所

京都市伏見区竹田中内畑町74

 

 

訪問日 

2008年5月17日

 

 

 

この仏像の姿(外部リンク)

安楽寿院の寺宝

 

 

 

拝観までの道

安楽寿院(あんらくじゅいん)は京都の南、近鉄または地下鉄烏丸線の竹田駅の西南、徒歩約5分のところにある。

本尊の阿弥陀如来像はかつては非公開だったが、近年新造された収蔵庫において、春(4月下旬から5月下旬)、秋(10月下旬から11月下旬)に寺宝展を開催して公開するようになった。(その他の日でも、事前予約で拝観可能のこともあったようだが、京都府観光連盟のホームページなどによると、近年は本尊の拝観を休止しているとのこと)

 

 

拝観料

300円

 

 

お寺や仏像のいわれ

この地にはかつて鳥羽離宮があった。

11世紀後半からはじまった院政の舞台として白河上皇が造営し、次の鳥羽上皇の時代に完成した大規模な宮殿で、1キロ四方以上の敷地に池を中心とした広大な庭園があり、いくつもの御殿と御堂が立ち並んでいたという。そのお堂のひとつが安楽寿院で、鳥羽上皇はここで亡くなったと伝える。

鳥羽離宮は鴨川と桂川の合流地点に近く、水運に優れ、また平安京の朱雀大路とは3キロの直線道路で結ばれ、山陽道にもつながるなど、水陸の要衝であった。また、たいへん風光明媚な場所であったという。

しかし度重なる戦乱や、戦後の名神高速道路のインターチェンジの開設等によって大きく変わり、現在ではどこにでもあるような住宅街となっている。その中に安楽寿院、鳥羽天皇陵、近衛天皇陵などが現在も残るが、往時の面影を偲ぶことは難しい。

 

安楽寿院は鳥羽離宮の東端にあり、九体阿弥陀堂、不動堂、塔2基などが甍を並べた。

1156年に鳥羽上皇が亡くなると、安楽寿院の2基の塔のうち本御塔(ほんみとう)と呼ばれた塔(三重塔)に葬られた。

何となく天皇陵というと築山のような丘なのだろうと思っていたが、仏塔であったと知って意外であった。実は、お堂をもって天皇墓とすることは平安中期以後みられるが、木造塔を天皇の墓とした例は、白河、鳥羽、近衛の12世紀に亡くなった3天皇が知られるばかりで、とても珍しいことなのである。なお、本御塔は鎌倉時代に早くも失われ、現在は小さな堂がひとつ建っているのみだが、天皇陵として宮内庁に管理されている。

安楽寿院の本尊、阿弥陀如来坐像はこの塔の本尊であったと考えられている(台座心棒にその旨が書かれた修理銘がある)。鳥羽上皇の葬堂本尊という並々ならぬ由緒をもち、まさに院政期を代表する仏像といえる。

 

なお、安楽寿院の本尊、阿弥陀如来像を安置する収蔵庫は、在りし日の鳥羽上皇の陵墓の塔の名前をとって本御堂と名付けられている。また、収蔵庫の前には鳥羽離宮跡から発掘された庭園の石組みも設置されている。

 

 

拝観の環境

像は新造された厨子の中に安置されているため、正面からのみの拝観であるが、すぐ間近からとてもよく拝観ができる。

やや堂内は暗いが、像の金箔がハレーションを起こさない程度によく調整された照明があてられている。

 

 

仏像の印象

阿弥陀如来像は像高約90センチの坐像。定朝様式の極めて美しい仏像である。材はヒノキで、漆箔で仕上げられているが、内ぐり面も漆箔が施されているという。

戦国時代に修理されていて、台座や光背には手が入っている(特に台座は本来よりやや高くなっているかもしれない)が、全体的に保存状態は非常によい。

鳥羽離宮の造仏には定朝の流れを汲む仏師のうち円派が中心となったという記録があるので、この仏像も円派仏師の作であると推定できるが、そうするとこの12世紀の前半に活躍した長円または賢円の作である可能性が高いと思われる。

 

院政期の仏像は、定朝が完成した様式をただ踏襲しているだけとして、新味に欠けるなどと評されることがある。しかし細かに見ていくと、この仏像には、やや面長な顔、すらりと伸びない手など、特徴がある。

細かく整えられた螺髪、よく通った鼻筋、堂々とした上半身は印象的である。膝前に流れる衣の襞(ひだ)はやや複雑につくられている。草木の模様を組み合わせた光背も大変美しい。

 

 

その他

鳥羽離宮の仏像として現存するものとしてこのほかには、鳥羽上皇が建立した2つの塔のうちの新御塔(しんみとう)の本尊がある。

この塔は鳥羽上皇の子の近衛天皇の葬堂として用いられ、現在は豊臣秀頼建立の多宝塔に変わっているが、仏像は元のもので、安楽寿院の阿弥陀像に大変似ているそうだ(ただし印相は安楽寿院の像が定印であるのに対して、近衛陵像は来迎印である)。場所は安楽寿院のすぐ前だが、陵墓として宮内庁が管理し、非公開である。

 

また、やはり近くの北向不動(北向山不動院)の本尊、不動明王像も鳥羽離宮の遺品とされる。秘仏で、毎年1月16日に開帳される。 → 北向不動のページへ

 

 

さらに知りたい時は…

「国宝クラス仏をさがせ! 15 安楽寿院阿弥陀如来坐像」(『芸術新潮』867)、瀬谷貴之、2022年3月

『日本美術全集』4、小学館、2014年

「近衛天皇陵多宝塔の仏像について」(『平安時代彫刻史の研究』)、伊東史朗、名古屋大学出版会、2000年

『国宝と歴史の旅 8』(『朝日百科 日本の国宝 別冊』)、朝日新聞社、2000年10月

『院政期の仏像ー定朝から運慶へー』、京都国立博物館編、岩波書店、1992年

「安楽寿院阿弥陀如来像について」(『仏教芸術』167)、武笠朗、1986年7月

 

 

仏像探訪記/京都市