8-3 三十三間堂はどんな建物

 

ゆいまくん では、入堂しましょう。拝観順路の関係で、お堂の北側から入ることになっているんだよ。

百花さん 正面からでなく、裏手の方から入るみたいになっているのね。あ、見えてきたよ。すっごく仏像が並んでいるんだよね。で、正面へと進んで…
 うわっ、キターっ! 修学旅行でも来ているし、写真でも見て知っているはずなのに、やっぱすごい。圧倒されるぅぅ… そうか。観音さまが立っているところが段々になっていて後ろにいくにつれて高くなっているから、一瞬でたくさんの像が目に入ってくる!

ゆいまくん この段は全部で十段あるんだ。真ん中に大きな千手観音坐像が中尊として安置されていて、その左右で千手観音立像は500体ずつ、それが10段に安置されているから、1列50体ずつが並んでいるわけだね。

百花さん 50体の仏像がずらりと並んだお堂なんてないよね、たぶん。でも、ここは50体が横1列でそれが10段あって、さらにそれが向こう側にもう1セットあるんだもんね。よくもまあ、つくったものね。あ、しかも2列目の像は1列目の像のちょうど間に来るように立っているよ。列ごと交互に位置を変えて、よく見えるように並ばせている。ヤバい、ヤバい! どう? ゆいまくん、気づいていなかったっしょ。

ゆいまくん (小声で)いや、それくらいわかっていたけどね… でも、単純なんだけど、いちばん映えるやり方だといえるかもね。濃密で夢幻のさまっていうところかな。

百花さん ばえるーーって感じよね。

ゆいまくん 各段の高低差も絶妙だよね。あまり勾配が急だと圧迫される感じになるし、緩いと後列が見えなくなってしまうからね。

 

百花さん この角度、どれくらいなのかな。

ゆいまくん おそらく20度…よりもちょっと大きいかな。22度くらいかな。

百花さん 22度か。よし、わかった。集合写真を撮る機会があったら、それくらいの角度の階段をさがして写してもらおう。でもって、千手観音みたく見えるように、手をばたばたさせてみたりとかしてね。どう?

ゆいまくん どうって言われてもね、返事に困るなあ…
 あと、天井の木の組み方にも注目だよ。ほら、反り上がるように高くなっていて、ゆったりとした空間が確保されているよね。向こう側から中央に向かって高まっていく屋根裏の整然とした木組みが背景となって、立ち並ぶ仏像の魅力をさらに引き出しているように見えるね。

百花さん たしかに。これだけ密集して仏像が置かれているのに、窮屈な感じがないのは、お堂内部の空間の構成がよくできているからなのね。
 でも、それ以上にこの建物って、とっても長いのが特色なのよね。横1列に100体の仏像が置かれているんだから。よくこれだけ長い建物がつくれたものね。

ゆいまくん このお堂は、世界一長大な木造建築とされているんだ。でも、日本の伝統的な建築として見ると、決して特別なものではないんだよ。
 お堂の中心部分の仏さまを安置する空間を身舎(もや)といい、身舎の上部に架け渡す太い木材を梁(はり)というんだ。身舎は梁の長さによって幅が決まるんだよ。それに対し、梁と直角方向にさし渡した木材を桁(ゆき)といい、これはいくらでもつないで長く伸ばすことができるんだ。

百花さん おっと、油断してたら、専門用語が降ってきたぞ。んーと、まず身舎ね。これがお堂内部の空間で、上に差し渡された木…ああ、あの太いヤツね。あれが梁か。そしてお堂の幅は梁の長さで決まる…つまり梁というは、垂直に立てられた柱を横につないでお堂を支えている木材というわけね。この梁の長さを越えてお堂の奥行きを大きくとることはできない、と。構造上ね。なーる。でも,梁と直角の方向へは木材をいくらでもつないで伸ばしていけるのね。だから、こんな長いお堂もつくれちゃうんだ! 伝統建築の特長を生かした建物ということなのね。

ゆいまくん このお堂は南北に長くて、正面は東側なんだよ。正面側の板扉は拝観時には開かれて、障子から外の光が漏れてさしてくる。晴天の日の朝一番は、朝の日の光で、いっそう神々しく感じられるんだ。今日もその時間に来ればよかったな。

百花さん 朝一番か…早く起きなくちゃいけないから、それはちょっと嫌かも… 
 じゃあ、お堂の名前の三十三間は? 間(けん)っていうのは長さの単位なのかな。南北の長さが三十三間ということ?

ゆいまくん 三十三間の間というのは、長さをあらわす単位ではないんだ。柱と柱の間(あいだ)がいくつあるかという数なんだよ。

百花さん じゃあ、三十三間堂は、南北の長い面の柱間(はしらま)が33ある、つまり柱が34本並んでいるということなのね。

ゆいまくん ところが、あとで外観を見て数えて確かめてみてほしいんだけど、お堂正面の柱間の数は35なんだ。身舎、つまりお堂の中央の仏さまが安置されるところで数えると33間になっているから三十三間堂なんだよ。身舎の周りにめぐらされている部分が庇(ひさし)だよ。今私たちが歩いているところだね。だから両端の庇部分まで入れれば、柱間の数は35ということになるんだ *。
 実は33という数には意味があるんだ。観音は33種の姿にその身を変化させてあらゆる衆生を救うとされているんだ **。

百花さん 建物のつくりにも観音さまへの信仰が反映されているのね。


(注)
* 奥行きは身舎が3間、それに庇が1間ずつつくので、合わせて5間である。

** 観音が変化した33の姿を三十三応現神という。三十三間堂中尊の千手観音坐像の光背にもこの三十三応現神の小像がつけられている。