醍醐寺三宝院の弥勒菩薩像

  快慶作、後白河法皇ゆかりの弥勒像

住所

京都市伏見区醍醐東大路町22

 

 

訪問日 

2024年2月22日

 

 

この仏像の姿は(外部リンク)

醍醐寺・寺宝/文化財

 

 

 

拝観までの道

醍醐寺は、京都市営地下鉄東西線の醍醐駅下車、東へ徒歩約10分のところにある。

または、山科駅と京阪六地蔵駅を結ぶ京阪バスで「醍醐寺前」下車。

 

京阪バス

 

醍醐寺にはかつては南大門があったらしいが、現在では西側から総門を通って入る。すぐ左が三宝院である。

本尊は快慶作の弥勒菩薩坐像。三宝院の建物は東西に長くつながっていて、豊臣秀吉がみずから基本設計を行ったというみごとな庭園を拝見しながら奥へと進んで行くと、その一番奥、東の端に本堂(弥勒堂、護摩堂)がある。

 

醍醐寺ホームページ

 

 

拝観料

三宝院御殿特別拝観 500円(別に、三宝院庭園と下醍醐伽藍拝観(通常期)1000円が必要)

 

 

醍醐寺三宝院につい

三宝院は醍醐寺子院で、平安時代後期の創設。

室町時代にはその歴代住職が醍醐寺全体の住職(座主)を兼ねるようになり、大いに寺格も高まった。応仁・文明の乱で大打撃を受けて一時は廃寺同然となったものの、安土桃山時代の醍醐寺復興の際に、金剛輪院という別の子院を三宝院と改称して存続がはかられた。

 

 

拝観の環境

ご本尊の拝観は、お堂の入口からで、仏像までは距離がある。

堂内はやや暗いが、照明もある。南側(本尊は西面しているので、本尊に向って右側)の障子を通して日の光が入ってくるので、好天の日がよい。

 

 

仏像の印象

写真では繊細に見える菩薩像だが、遠目では威厳を強く感じる。名匠快慶の前半の代表作にふさわしい彫刻である。

 

像高は約110センチ、ヒノキの寄木造で、金泥塗りの仕上げである。

顔は丸く、張りがある。体や衣文の流れは左右対称でまったく隙がないが、それでいてゆったりとすわっている印象を与える。衣は菩薩でありながら如来のような袈裟をまとう。現在は兜率天(とそつてん)にある菩薩だが遠い未来に如来となって釈迦の救いに漏れた人々を救うという弥勒の性格から、このような如来と菩薩の複合形が生み出されたのであろう。珍しいが、鎌倉時代以後こうした像はいくつかつくられている。

華やかに冠やアクセサリーを身に着け、手には五輪塔を持ち、台座も豪華であるが、これらは江戸時代前期の修理時の後補である。光背には9躰の化仏をつける(一部後補)。

 

 

後白河院追悼像である可能性

像内も漆で入念に仕上げられ、朱漆で簡潔に銘文が記されている。それによれば願主は勝賢、造立年は1192年(8月に造り始め、完成は11月)、作者は快慶であることがわかる。年がわかっている快慶作品の中では2番めに早い時期の作品である(最も早いものは、ボストン美術館蔵の弥勒菩薩立像)。

願主の勝賢は平治の乱で非業の最期を遂げた藤原信西の子。1192年の春に後白河法皇が亡くなった時、勝賢は参列僧の筆頭にあったという記録がある。

また、この像はもともとは上醍醐の上醍醐・覚洞院(岳東院)にあり、それが山内の菩提寺を経て、三宝院が復興された桃山時代に三宝院本堂に迎えられたとの記録がある。

 

造像主の勝賢と後白河院の密接な結びつき、像の造立が後白河法皇の没後すぐであること、そしてもともとこの像があった覚洞院は勝賢と関係の深い子院であり、さらにこの覚洞院には後白河法皇追善のための護摩堂があったという記録があることが知られ、これらを総合すると、この弥勒像自体が後白河法皇の追善のために造られた像であったという可能性が高い。

なお、 X線調査で、高く結った髪の中に五輪塔が納められていることが知られた。

 

 

その他

醍醐寺にはもう1躰、快慶作の仏像が伝来する。

不動明王坐像で、像内に「巧匠アンア弥陀仏」や1203年を示す年などが墨書される。像高は50センチあまり、快慶らしい端正な像。寺内の霊宝館・仏像棟で展示されていることが多い。

 

 

さらに知りたい時は…

『醍醐寺の仏像』第2巻、副島弘道編、勉誠出版、2019年

「国宝クラス仏をさがせ!19 醍醐寺弥勒菩薩坐像」(『芸術新潮』871)、瀬谷貴之、2022年7月

『快慶』(展覧会図録)、奈良国立博物館ほか、2017年

「醍醐寺三宝院弥勒菩薩坐像についての一解釈」(『美術史』163)、海野啓之、2007年10月

『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代 造像銘記篇』1、中央公論美術出版、2003年

『醍醐寺大観』、岩波書店、2002年

『国宝醍醐寺展』(展覧会図録)、東京国立博物館、2001年

『弥勒像』(『日本の美術』316)、伊東史朗、至文堂、1992年9月

 

 

仏像探訪記/京都市