安楽寺の薬師如来像
たじろぐほどの迫力
住所
京都市北区大森東町109
訪問日
2015年11月7日
拝観までの道
京都駅前よりJRバス高雄・京北線の周山行きで1時間強。高雄や栂尾よりさらに周山街道を北上し、「小野郷」で下車。そこから北へ、大森リゾートキャンプ場へと向かう道を歩くこと約1時間。道は比較的平坦だがかなり距離があるので、私は周山にあるタクシー会社に予約をし、乗って行った。
安楽寺は本堂のみの寺院。拝観は事前連絡必要。
キャンプ場方面に1キロくらい行ったところにあるオオモリサンバレイというレジャー施設のオーナーが管理されている。オオモリサンバレイはおいしい鍋料理を出すそうで、事前にお願いしておくと送迎も可能である。
*上記は2015年の訪問の記録で、その後、安楽寺のご管理は地域の役員の方となっている。窓口は京都市の北区役所小野郷出張所とのこと。
拝観料
志納
お寺や仏像のいわれなど
平安前期、藤原氏が政権を獲得していく段階でさまざまな政争がおこったが、そのひとつに巻き込まれ、落居を余儀なくされた悲運の皇族、惟喬(これたか)親王ゆかりのお寺と伝える。
拝観の環境
伝来する平安前期木彫が4躰は本堂の奥の壇上に安置される。近くより拝観させていただけた。
仏像の印象
本尊の薬師如来像は像高110センチ余りの坐像。超越的でありながら同時に生々しい感じもあり、強い迫力がある。とても魅力的な仏像だと思う。
こんもりともりあがった頭部は螺髪はなく、額や眉と目の距離は短い。両目は離れ気味で、比較的大きく見開いている。鼻の下からあごにかけての表現は妙に生々しい。
胸は堂々として、胸と腹のあいだの肉がぽこりと突き出て、腹も肉付きがよい。
膝は高い。
脚部は比較的小さいが、これは脚部も含んで一材から彫り出しているからのようだ。
構造は変則的である。
後頭部から胴の背中側、脚部までを含んで巨木から彫り出し、前面と背面からクリを入れる。一方、顔と胸、腹は別の一材から彫り出し、背面・脚部の材と合わせているのだそうだ。
せっかく足まで含めて一木で彫り出すことができる巨材を得たというのに、なぜ前面を別の材でつくるという不思議なことをしたのだろう。前面がちょうど彫りにくい木の中心部分になってしまったために、やむなく行った措置であろうか。
衣は陰刻の線を多く使い、古様な印象を受ける。
左手はやや高い位置で薬壷をとっている。また、お尻の下を高くしてバランスをとっているが、本来はかなり反り気味の姿であったようだ。
他の3像について
本尊に向かって右手に置かれた如来形立像は像高160センチ余り。スレンダーな姿で、小顔である。台座まで含んで一木から彫り出されている。
現状では斜めに立てかけられていて残念であるが、整備をすればとても魅力的な像に生まれ変わるのではないか。
豊かな胸、その下のぼっこりとした肉付き、さらに丸まるとした腹は本尊に共通する。
右肩からS字を描いて腕をまわり、体の横に下がっていく衣は、神護寺薬師如来像のそれと共通するところがあるように思う。また、左右の下がる衣には繰り返し渦巻きの文がつくられているのは、小浜・妙楽寺安置の聖観音像を想起させる。
僧形坐像は額より上が失われており、現状で像高60センチくらいである。
僧形文殊像であったものか。額のしわ、大きな目、大きくて強いカーブを描いた口、省略された衣の文など、とても魅力的と思う。
天部形立像は足の先が欠失しているが、現状で像高約1メートル。誇張された表現が面白い。
さらに知りたい時は…
『古佛(新装版)』、井上正、法蔵館、2013年
『京都発見』3、梅原猛、2001年