目黒寄生虫館とミュージアムショップのこと

 

1 ミュージアムショップ、かくあるべし

 

 多くの博物館、美術館にはミュージアムショップが併設されている。

 かつてはひっそりと片隅に置かれていた売店が、昨今では明るく、広く、品ぞろえも豊富になって、今やミュージアムの大切な脇役になった感がある。ショップに寄るのがミュージアムめぐりの大切な目的のひとつになっているという人もいるだろう。かくいう私もショップを見るのを楽しみにしているひとりである。

 

 ところで、ミュージアムが千差万別であるように、それぞれのミュージアムショップの姿もさまざまである。

 では、よいミュージアムショップというのは何を置き、どのような姿をしているものであろうか。

 

 まずあげたいのは、図録や関連書籍の充実であろう。

 展示の鑑賞後、もう少し知りたいと感じたとき、関連する書籍がそのショップで買えるということは非常に重要なことである。

 図録や図書と並んでぜひ揃えておいてほしいものに、所蔵品の絵はがきがある。絵はがきは安く買い求められる記念品であり、ありふれた商品のようだが、見方を変えれば研究の資料ともなりうる。たとえば、無数の図版資料のファイリングで知られるロンドンのコートールド研究所の資料室も、そもそもは絵はがきの収集と管理から始まったということである(『美術史と美術理論』、木村三郎著、放送大学教育振興会)。

 

 次に、オリジナル商品が揃っていることをあげたい。そのミュージアムの所蔵品にちなんだユニークなグッズが置いてあるショップは実に魅力的である。

 しかしながらいくらユニークな商品といっても、ミュージアムショップは観光地のみやげ物店とは違うのであって、そのミュージアムの展示品や所蔵品のデザインや材質を正しく生かして作ったものを販売するべきだと思う。ただ単に、かわいくて売れればよいとして開発した商品ばかり並んでいるようでは、ミュージアムショップの名がすたるというものである。

 たとえば、あるミュージアムで売られている埴輪のぬいぐるみ。確かにかわいいが、色や触感という点で本物からかけ離れすぎている。

 

 そして最後に、ミュージアムショップとって重要なことは、商品が美しく並んでいることである。ミュージアムの一角にある店なのだから、ぜひ美的に陳列してほしいものである。

 

 

 

2 目黒寄生虫館のこと

 

 さて、話は一転、目黒寄生虫館のことに移る。

 この博物館は、「寄生虫を専門に扱った世界で唯一の研究博物館」を標榜するミュージアムである。

 創立は1953年。寄生虫の研究者であった亀谷了(かめがいさとる)により東京・下目黒の地に寄生虫の研究と展示を目的に設立されたのがそのはじまりである。当時はバラックのような建物で、展示した標本ははじめ72点。翌年より一般公開をしたが、入館者は学生を中心に1日平均8人であった。またこの時、近くの空き地を使い薬草園を設け、駆虫薬の栽培も行ったという。当時の日本では、人や家畜を苦しめる寄生虫がまだまだ蔓延している状況にあり、亀田博士がこの博物館の設立に踏み切ったのは、研究と啓蒙活動によって寄生虫がもたらす惨状を改善したいという一心からであった。

 初代の寄生虫館はまもなく手狭となり、篤志家の援助を得て、1956年に鉄筋2階建ての建物に移転、さらに1993年に今の場所に移った。

 

 現在ではビルの2つのフロアを使って寄生虫の標本を約300点展示、そのほか拡大模型、パネルを用いてさまざまな寄生虫の生態について解説を加えている。また、寄生虫学の歴史解説スペース(ここで特別展示が行われることもある)やミュージアムショップも併設されている。それほど広くはない館内だが、スペースを有効に使っている印象である。

 土日には多くの若者が来館し、今や人気のミュージアムとなっている。

 

 入館料は設立当初より無料を貫いている。ただし、公的な補助は受けていないため、入館者には募金を呼びかけている。

 

 

 

3 目黒寄生虫館のミュージアムショップについて

 

 この博物館のミュージアムショップは小さいながらなかなか優れたお店となっていて、必見である。

 とにかくオリジナル商品がすばらしい。

 上に書いたとおり、この博物館は入場料もなく、公的な補助金もないので、ショップの売り上げは大変重要な収入源であり、商品開発の熱意も半端でない。それらはこの博物館のもつ専門性をきちんと生かしたオリジナル商品であり、中には親しみやすいようなデザインになっているものもあるが、基本的には寄生虫の姿・形を研究資料から忠実に写し取って作られている。

 たとえば、条虫(サナダムシ)の姿をデザインしたTシャツ(立体サナダTシャツ)が販売されているが、姿形など本物に近い感じを苦労して出している。寄生虫は宿主の体内で生きる生物であり、ホルマリン漬けによって展示されているので、どのような感触の生物であるのか研究者でなければまず知ることは難しいが、このTシャツを購入するならば、実物に近い雰囲気を感じることができることであろう。

 

 ほかにも寄生虫をデザインしたクリアファイル、バッグ、ストラップなど、一見グロテスクに感じるものを逆手にとった商品開発というのはなかなか面白い。

 また、関連図書も充実し、リアルな写真による絵はがきも取り揃えられ、それらを品良く並べている。

 

参考:『目黒寄生虫館ガイドブック』、亀谷了 著『寄生虫の博物館』(ともに財団法人目黒寄生虫館発行)

 

 

→ 目黒寄生虫館ホームページ(外部リンク)

 

*目黒駅西口より西へ徒歩約15分。原則月曜日が休館、ほかに年末年始はお休み。

 

 

 

 

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