2011年に開館したミュージアムより

龍谷ミュージアム
龍谷ミュージアム

 

1 龍谷ミュージアム(4月開館)

 

 龍谷ミュージアムはJR京都駅から北北西に10〜15分、堀川通をはさんで西本願寺の東側にある。

 設立母体の龍谷大学の前身は、西本願寺の学問所だそうだ。しかし、このミュージアムは、自らの宗旨、すなわち浄土真宗に関係する文物に限定することなく、仏教の総合美術館として広く仏教文化全般を紹介する。

 実際、筆者が訪れた時には、平常展(「仏教の思想と文化 インドから日本へ」)開催期間であったが、さまざまな宗派の寺院からの寄託作品が出陳されていた。日本の仏像では、薬師寺の吉祥天像、園城寺の不動明王像など、すぐれた彫刻作品を鑑賞することができた。

 

 展示内容以外にも、この美術館には多くの見どころがある。

 まず、ファサード(正面のデザイン)に注目。巨大なすだれ状のもの(セラミックルーパー)が正面壁面にとりつけてあり、遠くからも目につく。西本願寺が所蔵する国宝「三十六人家集」の料紙の波の模様をイメージしてつくられているといい、この美術館のいわば「顔」となっているのだが、単なる装飾にとどまらず、本物のすだれのような役割、すなわち西日の熱を避ける効果があるのだそうだ。

 

 入口は1階だが、受付は地階(地下1階)にあり、一度下がって入館料を払い、入場する。3階と2階の各フロアが展示室で、基本的に3階はアジアの仏教文化、美術、2階が日本の仏教文化、美術を展示する。

 なぜ、一度観覧者を地階に下ろすのかということだが、それにはわけがある。

 京都は景観上、建物の高さが基本的に15メートルに制限されている。各階ともに天井高をしっかりとろうとすると、3階だてにするのは難しい。そこで、天井高を低くできる1階とある程度の天井高を確保した2、3階を組み合わせて、高さ制限をクリアした。2、3階はまるまる展示室として使い、入場口は一階と地下を組み合わせて使うことで、贅沢に空間を使えているわけである。

 

 さらに、一度地下を廻すということは、展示室までの距離があるということでもある。ビルの中にある美術館としては、大変贅沢なことだ。1階部分は地下からの吹き抜けを大きくとっているので、地下へのエスカレーターに乗ると、思いのほかゆったりとした空間が感じられ、別世界に入っていくような趣きがある。上手な演出である。

 そして、ここがこの美術館のいわばマジックなのだが、外から展示室に着くまでの間で、明るさを少しずつ抑えていく。

 展示室内がある程度暗いのは、資料保護のためにやむを得ないことだ。だが、明るい外の光のもとから急に暗い展示室へと入れば、気分も何となく沈みがちとなってしまう。しかしこの美術館では、展示室に行くまでの間で少しずつ照度を落としていっているので、いざ展示室に入った時に、その暗さがあまり気にならないのだ。人間の目が感じる明るい/暗いは相対的なものであるということを利用したすぐれた工夫と思う。

 

参考:『新建築』 2011年4月号

 

→ 龍谷ミュージアムのホームページ

 

 

*原則月曜日休館。平常展は500円。住所は京都市下京区丸屋町117

 

 

 

2 武蔵野美術大学美術館(6月リニューアルオープン)

 

 東京都小平市にある武蔵野美術大学は、戦前の美術学校にはじまる伝統あるアートとデザインの大学である。

 学内の教育研究の施設として、1967年に設けられた美術資料図書館があったが、今回それをリニューアルし、大学美術館が開かれた。

 美術館は、大学の正門を入って正面、キャンパス内の一番よい場所を占める。このことは、大学が美術館をどのように位置づけているのかををよく示している。

 複数の展示室があり、通路でやや複雑に結ばれている。大学所蔵のデザイン資料、図譜等の展示、教官など関連アーティストの作品展、美術教育関係の展示、海外の教育機関との交流展(国外の美術大学の所蔵作品展)など、同時にいくつかの展覧会が開催できるスペースが確保されている。

 

→ 武蔵野美術大学美術館のホームページ

 

 

*日曜日・祝日は閉館。また、入試期間など、長期の休館がある。無料。住所は小平市小川1-736、交通は西武国分寺線鷹の台駅から徒歩20分、または国分寺駅北口よりバス。

 

 

 

3 真鶴アートミュージアム(6月開館)

 

 真鶴町は神奈川県西部、小田原市と湯河原町にはさまれた人口8千人ほどの町。東部は海に突き出た真鶴半島、その半島のまん中ほど、相模湾を望む高台に真鶴アートミュージアムがある。

 営業を終えた築50年の旅館を借りて開いた美術館だそうで、不思議な趣きがある。各展示室は、もともと旅館の1室であったり、離れや大浴場だったところである。そこに、岡本太郎のアート、近現代の彫刻作品、西洋の絵画や日本の陶磁器などが展示されている。さまざまな縁で寄贈、寄託された作品もあるらしい。

 眺望のよい2階の部屋はカフェになっている。

 

 

2014年より長期の休館中とのこと

 

原則水・木曜日が休館。入館料は700円。住所は神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴1200-18、JR東海道線真鶴駅前からケープ真鶴行きのバスに乗車し、「中川一政美術館」下車、北西に徒歩5〜10分。

 

 

 

4 象彦漆美術館(10月開館)

 

 高級漆器を製造、販売する「象彦」は、関西圏を中心にかなりよく知られた老舗である。

 初代、西村彦兵衛は近江出身で、現在の京都市下京区、阪急の河原町駅の近くにあった唐物道具商の後継ぎとなった。唐物ということは、中国製の染付磁器などを主に取り扱っていたのであろうか。やがて商いの中心は漆塗りの器となったが、当初の唐物商の屋号が「象牙屋」であったので、象牙屋彦兵衛を略して象彦、あるいは3代目の彦兵衛が菩提寺に奉納した象に乗る普賢菩薩像の蒔絵の額があまりにみごとであったことから、象彦の屋号が誕生したともいわれる。なお、代々の当主は西村彦兵衛を名乗り、現在は9代目だそうだ。

 

 象彦の本店は、京都市左京区の岡崎公園のそばにある。美術館はその2階にある。

 狭い階段をあがっていくと、それほど大きくないスペースだが、美しい展示空間がつくられている。内容はテーマごとにかわるが、展示されているのは代々の当主が収集した漆器の名品である。その多くが、身近において愛でたというよりも、次代を担う職人の教育のために売らずにおいたものであるという。

 それぞれの展示品のキャプションには、作者名が記載されない。象彦では現在に至るまで、個人の作家の作品を扱うというのでなく、象彦自身が職人を統括して作品をプロデュースし、販売するという形であるからである。

 

 特に近代の工芸の展覧会では、どうしても個人作家の作品の評価に重きがおかれる。そのため、象彦の漆器のように個人の名の出ない作品は展覧会では目にすることが少ないという現状がある(2011年に三井記念美術館で開催された「華やかな<京蒔絵>」という展覧会では、三井家に伝わる象彦の名品が紹介された)。

 この象彦漆美術館は、他ではあまり見ることのできない、近世から現代まで一貫して続く、漆芸のすばらしい潮流が堪能できる。京都を訪れた時には、ぜひお立ち寄りいただきたい。

 なお、展示は基本的にガラスケースを用いない露出展示である。展示のセンスもすばらしい。

 

→ 象彦漆美術館のホームページ

 

 

*原則水曜日休み。入館料は300円。京都市左京区岡崎最勝寺町10の象彦本店の2階、地下鉄東山駅より徒歩約10分。なお、象彦の東京店は、中央区日本橋本町にある。

 

 

 

5 軽井沢千住博美術館(10月開館)

 

 日本画家・千住博の作品を常時40〜50点、初期の作品から代表作「ウォーターフォール」、また近年の作品までを展示する美術館である。

 設計は西沢立衛。2006年に瀬戸内海の直島で行われたアートプロジェクトの関係者用バスの中で、千住と西沢は今までにないような美術館をつくろうと語りあったいう。千住は従来の美術館について、暗く閉ざされているというイメージを持っていたようで、壁を取り払い、自然との一体感のある美術館をめざして、この美術館はつくられた。

 

 一般に、美術館というものは、直方体を連ねた姿をしているものであろう。

 ところが軽井沢千住博美術館は、上から見たとき、五角形のような不思議な形をしている。といっても、そのうちの3辺は曲面であるので、あくまで「五角形のような形」である。そこに虫食いのようにあけられた4つの穴は「中庭」である。この「4つの穴のあいた五角形のような形」は、美術館のシンボルの形として、ブローチのデザインなどになって、ミュージアムショップで売られている。

 外壁に曲面が使われていることはすでに書いたが、展示室内に設置された長いベンチ、屋根のうねり、中庭の形など、この美術館では曲がった形が多く用いられている。展示を行う壁や床面にまで曲面が見られる。

 床の面が平らでないということはどういうことなのかというと、斜面を削って平らにするのでなく、地面の高低をそのまま生かしてコンクリートの床をつくっている。自然を完全にコントロールしてしまうのでなく、土地の起伏をそのままに建物をつくっていくという考え方である。

 天井もまたうねっているが、天井高は一定してはいない。そのような空間で絵画を展示することは困難が伴うと思うが、それぞれの絵画はじつに見事にそれぞれの空間におさまっている。

 

 内部には連続した壁や柱がまったくない。もちろん絵を展示するための壁面がいくつか立っているものの、それさえ平行でなく、思い思いの方角を向いている。といっても、実はこの展示壁面は耐震強度の確保の役割ももっているようで、それぞれの向きも力学的な意味があってそうなっているのかもしれないが。

 ついでに言えば、この美術館には順路というものはなく、館の中にちりばめられるように置かれている絵を気の向くままに見ながら巡っていけばよい。

 

 この美術館では、外壁および中庭を仕切る壁はすべてガラスでできている。外光はシルバースクリーンなどで一定程度は制御しているが、とても明るい印象である。顔料をそのまま支持体にはりつけている日本画は、絵の具の美しさが生で出るが、その反面、脆弱であることは否めない。この明るさの中で、大丈夫なのかとも思うが、千住は自分が生きている間は自分が修復すると考えているそうだ。

 首尾一貫した考えのもとにある美術館であり、すがすがしい。

 

参考:『日経アーキテクチュア』2011年11月25日号

 

→ 軽井沢千住博美術館のホームページ

 

 

*火曜日休館。ただし、夏(7〜9月)は無休。冬期(年末〜2月中)はお休み。一般1,200円。住所は、長野県軽井沢町長倉塩沢815。最寄り駅はしなの鉄道の中軽井沢駅。下車後徒歩(約25分)またはタクシー、または駅近くにレンタサイクルのお店もある。

*2013年6月には、第46回ヴェネツィア・ビエンナーレ受賞作品「The Fall(ザ・フォール)」を展示する専用空間「The Fall room(ザ・フォール・ルーム)」がオープンした。

 

 

 

6 東洋文庫ミュージアム(10月開館)

 

 東洋文庫は、三菱財閥第3代、岩崎久弥(久彌)が創設した東洋学の専門図書館である。アジア各地で書かれたさまざまな書物や、東洋を研究対象として書かれた西洋の本が集められ、80もの言語による図書、資料が100万冊所蔵されているという。

 この膨大な図書や資料は、これまでは一部の研究家にのみ知られる存在であったが、ミュージアムが併設されたことで、多くの人が展示を通し気軽に接することができようになった。

 場所は、旧大名庭園で今は都立の公園となっている六義園(りくぎえん)のそばに立つ巨大な直方体のビルの1、2階である。それより上の階は、主として書庫になっているそうで、本の保管のためにとても堅牢なつくりになっている。

 

 このミュージアムでは、エントランスが「オリエントホール」、ショップは「マルコ・ポーロ」など、ユニークな名前がつけられている。階段は「モンスーン・ステップ」と名付けられ、上がると、「モリソン書庫」展示室がある。G・E・モリソンが収集した2万冊以上の貴重な図書が天井までぎっしりと並べられて、圧巻である。

 モリソンはオーストラリア出身で、24年もの長きにわたって中国に滞在。ロンドンタイムスの特派員であり、中華民国大総統の政治顧問もつとめた人物であった。日露戦争時には反ロシアの立場から国際世論を喚起し、そのことは日本にとり大変有利にはたらいたのだが、日露戦争後においては、日本の中国進出を警戒しする立場を鮮明にする。その一方で、彼が築いた図書や諸資料の膨大なコレクションを、中国を去るにあたって、岩崎久弥に譲渡する。これが東洋文庫の出発点となった。

 当時からモリソンの蔵書の質の高さは広く知られており、ハーバード大学なども獲得に名乗りをあげた。並み居るライバルを抑えて岩崎久弥がこれを獲得できたのは、言い値を即座に用意できたことに加えて、モリソンが欧文、漢文を共に読みこなして研究をすすめられるところに蔵書を譲りたいという気持ちをもっていたからという。

 

 「モリソン書庫」の展示とともに素晴らしいのが、「国宝の間」の展示である。東洋文庫は、国宝や重要文化財、そして浮世絵の名品など、美術的な価値の高い作品も所蔵している。特に岩崎久弥の収集した作品群は「岩崎文庫」と呼ばれ、この展示室で順に展示されている。

 ことに浮世絵は、これまでに広く公開されることが少なかったために保存状態が非常によい。浮世絵とはこれほど鮮やかな色のものであったのかと驚かされる。

 このミュージアムでは、浮世絵を褪色させることなく後世に伝えるために、展示期間を短くしている。葛飾北斎の「諸国瀧廻り」など組みになっている作品では、実物と精巧なレプリカを交えて展示するようにしている。実物の展示期間は、3年間で28日までと定めているそうである(これを「100年保存計画」と呼んでいる)。

 

 さて、岩崎久弥は岩手の小岩井農場の牧場主でもあった。そうした縁によるのであろう、施設内のレストラン「オリエント・カフェ」は小岩井農場が運営している。人気が高く、予約していくのがよい。

 

参考:『東京人』303号(2011年12月)

 

→ 東洋文庫ミュージアムのホームページ

 

 

*原則火曜日休館。入館料、一般880円。住所は文京区本駒込2-28-21、最寄り駅は駒込駅か千石駅、それぞれ徒歩10分くらい。

 

 

 

 

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