ミサワバウハウスコレクション


  国公立の博物館、実業家などのコレクションを公開する私立の博物館、大学など研究・教育施設の博物館と並び、近年とみに重要な地位を占めるようになってきたのが、企業が設立した博物館である。特に最近オープンしたものの中には、大規模なものや、体験的な学習ができる仕組みをもつものもある。

 しかしながらその内容はといえば、その企業あるいはその業界の宣伝の延長に止まっているものが少なくない。

 しかし、その中にあって、ミサワホームが収集した2700点のバウハウス関係資料・作品を公開する「ミサワバウハウスコレクション」(1996年開館)は、規模こそ大きなものではないものの、じっくり訪問するに値するなかなかユニークな博物館といえる。

 

 バウハウスとは、大戦間(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)の一時期、ドイツにあった美術工芸学校の名称である。開校していたのはわずかに14年間。しかし、その理念や教育方法のユニークさ、現代に与えつづけている影響という点で、極めて大きな存在である。

 例えば、バウハウスで生まれた電気スタンドや椅子、壁紙などのデザインは、現在の家庭やオフィスにあっても違和感が感じられないようなものが多い。筆者はそれらをはじめて見た時、あまりに今日的なので、注目することなく横目で通り過ぎてしまった。

 しかし、改めて考えれば、これは70年も前のデザインなのである。では、たまたま今日の嗜好と似たものがバウハウスで作られたのであろうか。否。バウハウスでつくられたデザインが、大きく修正されることなくそのまま今日まで受け継がれているというのが事の真相である。従って、今日のデザインによく似ているのは当たり前のことなのだ。それほど時代を先取りし、完成度の高いものを生み出したのがこのバウハウスなのである。実際、バウハウスの椅子、壁紙、カーペット、積木などは現在も販売されつづけている。

 さらに驚くべきことに、それらの多くが学校に買い上げられた学生の作品だったという。とにかくもの凄い学校であった。教授陣には、クレーやカンディンスキーといった当時最先端をいくアーティストも迎えられていた。とはいっても、お金をふんだんに注ぎ込んでそうした教育を行ったのではない。当時のドイツは第一次大戦の敗戦の痛手の中にあり、バウハウスは、教授陣や学習のための机も揃わず、生徒も着の身着のままという状況から出発した学校だった…。

 

 バウハウスの「バウ」とはドイツ語で「建築」を意味する(ハウスは英語と同じで「家」)。この学校では、建築こそが美術工芸を統括する分野であるという思想のもと、教育の最終課程に建築が置かれていた。住宅建設の企業であるミサワ(この博物館の設立母体)とバウハウスを結ぶ共通項がこの「建築」である。だが、バウハウスコレクションの中身はあくまでバウハウスに関連するすべてであって、毎回テーマを 決め(「バウハウスの色とかたち」「バウハウスの学生生活」「バウハウスと女性」など)、それぞれの切り口からバウハウスの歴史・活動・意義、作品の魅力等を紹介する展示を重ねてきた。さらに付け加えると、ミュージアム名に「ミサワ」と冠しているほかは企業の宣伝臭さが感じられず、大変潔く、スマートである。

 

 ところで、この博物館に入場するためには、事前の電話(またはメール)での予約が必要である。面倒くさいとシステムである。なぜぶらりと行って入場できないのか。しかし、何度か行ってみて、これも悪くないと思うようになった。

 今、多くのミュージアムで、レストランやカフェ、ショップを併設するなどして、今までミュージアムに来なかった人を呼び込もう、なんとか入館者を増やしたいと、あの手この手の戦略が繰り広げられている。しかし、このミサワバウハウスコレクションのスタンスは違うようだ。とにかく多くの人にと手を広げるよりも、コレクションについて関心を寄せる人に来てほしいと考えているということなのだろうか。ひとつの専門性をうち出し、来場者の層を絞り、その人たちが確実なリピーターとなっていくよう期待するというやり方は、これからの博物館のひとつのあり方を示しているようにも思う。

 

 とはいっても、決して特別にこのテーマに対して興味を持つ人や専門家だけを相手にしているということではない。高い専門性を求める人の要求にも応えられるような展示を心掛けつつも、バウハウスについてそれほど予備知識のない人や、つい最近デザインの分野に興味をもつようになった人、その背景の歴史について知りたいと思っている人なども十分楽しめるようにと工夫した展示が行われている。実際、入館者には若い人が目立つ。各展覧会の会期中何回か行われる展示解説(ギャラリートーク)も、好評である。

 

→ ミサワバウハウスコレクション ホームページ

 

*最寄り駅は井の頭線高井戸駅。電話予約・問い合わせは03-3247-5645へ。開館するのは展覧会会期中の月・火・木・金曜日のみ。せめて、土・日のどちらかを開館してくれると有り難いと思うのだが。入館は無料(ギャラリートーク参加は有料)。

 

 

 

 

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