建物も鑑賞したいミュージアム・戦前編

大倉集古館
大倉集古館

大倉集古館

 

 ホテル・オークラの敷地の一角に建つ大倉集古館は、日本最初の私立美術館とされ、開館は1917年にさかのぼる。しかし関東大震災(1923年)で被災したため、1928年に伊東忠太の設計によって2階建ての耐火建築の現在の建物がつくられた。後で紹介する東京都庭園美術館や原美術館と異なり、この大倉集古館の建物はもともと美術館として開設され、80年もの間一貫して美術品の展示のために使われてきたという点で貴重である。

 築地本願寺など、ユニークな建築を多く残したことで知られる伊東忠太の建築の中では、この大倉集古館は比較的落ちついた、おとなしい雰囲気の建物だと思う。しかし、細部をよく見ると不思議な生物がちりばめられている。屋根に上がっているのは吻(ふん)で、顔は獅子、足は龍、尾は水流をかたどっている。『伊東忠太動物園』という本(藤森照信編、筑摩書房)によると、これは名古屋城などで有名な鯱(しゃち、しゃちほこ)の原型となった中国の空想上の獣ということである。同じ吻と思われる怪獣は、柱の上部にもいる。階段には小さくかわいい狛犬。天井には龍の正面の顔がついている(龍の正面顔って想像できますか? ぜひ行って見てみてください)。

 所蔵品は東洋の古代から近代にわたる美術品であるが、中でも象に乗った普賢菩薩像(平安時代、国宝)は、平安時代の仏像彫刻の屈指の名品。絵画では、1930年にローマで開かれた日本美術展覧会に展示された日本画が多く収蔵され、優品が多い。

 

→  大倉集古館ホームページ 

 

*最寄り駅は、地下鉄の六本木一丁目または神谷町。休館日は月曜日と展示替え期間・年末年始。

 

 

 

東京都庭園美術館

 

 白金にある東京都庭園美術館の前身は旧皇族の朝香宮邸である。朝香宮夫妻は1925年のパリ万博(いわゆるアールデコ博)を訪問、この時期のヨーロッパの装飾・工芸・建築の新様式をつぶさに見て帰国し、当時の宮内省に対し自らの邸宅をア ールデコの様式で建設することを要請した。

 1925年の万博を契機として、このアールデコの様式を用いた建築はヨーロッパはもとより米国や上海などへ伝播するが、残念ながら日本への影響は少なかった。その中でこの邸宅は例外的なアールデコ「直輸入」の要素が大きい建築して誕生した(1933年完成)。戦後西武グループの所有を経て東京都の美術館となったが、西武時代の1970年代にこの建物を訪れた藤森照信氏(建築学)も、日本にもこのような本格的なアールデコの建築があったのかと、その「発見」に興奮を隠せなかったという(『アール・デコの館』、ちくま文庫)。

 この建築の主要部分の室内装飾・デザインは、アールデコ博の開催に尽力したフランスの画家・デザイナーであるアンリ・ラパンの手になる(1階の壁画も)。また、玄関正面のガラスの彫刻や1階の照明はルネ・ラリックの作品である。ラパンやラリックは日本に来ることはなかったが、船便で図面や模型を何度もやりとりしてデザインや作品を作り上げた。また、いくつかの扉や家具なども当時のフランスのアールデコの作家のものである。壁紙は残念なことに、一部を除いて新しいものに変わってしまっている。一方、暖房器具のラジエターカバーや2階の照明などは、宮内省所属の職人がアールデコの様式を手さぐりで学びながら制作したものという。邸内のすべてをフランスからの輸入で作り上げることは、資金的に難しかったのだろう。結果的に、直輸入と日本製アールデコが面白く折衷することになった。

 

→  東京都庭園美術館ホームページ

 

*東京都庭園美術館は目黒駅または地下鉄白金駅下車。内部は、企画展(年5回程度)の開催時に展覧会を鑑賞しつつ見学する。休館日は第2・第4水曜日および展示替え期間と年末年始。

 

 

 

原美術館

 

 御殿山にある原美術館は、個人の住宅(といっても実業家が遠来の客を迎えるためにつくったもの)を転用した美術館である。建物は、東京国立博物館本館などを手がけた戦前を代表する建築家、渡辺仁の設計によって1938年に竣工をみた。この頃日本は国際的に孤立を深めていったのだが、その中にあって当時のヨーロッパの建築の動向をよく反映させて作られたといえる。敗戦後一時接収されるなどしたが、1979年に私立の現代美術館として開館。建築時の状況が比較的よく残り、なかなか雰囲気がよい。木の床、窓の形や配置、直線の中に配された曲線的なラインが魅力的である。何より、不思議に現代アートとよくマッチしている。

 中庭にカフェが作られているが、これは1988年の増築時のもの。この部分の設計は磯崎新。カーブした廊下の外側(中庭なので内側というべきか)にその曲線を生かして作られ、明るく洒落た空間となっている。

 

*残念ながら、2021年1月をもって閉館し、群馬県渋川市のハラミュージアムアークと統合。原美術館ARCとなった。

 

→  原美術館アーカイブ

 

 

 

 

 

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