インターメディアテク

 

 東京駅丸の内口を出る。正面にある丸ビルと新丸ビルを見て、左の方(丸の内南口)へと視線を移すと、そこには東京中央郵便局旧局舎があった。いかめしさを排除した軽やかな5階建て(地上5階、地下1階)の建物で、有楽町側へ135度の角度でカーブするラインが美しい。できたのは1933年。郵政省はかつて逓信省といい、自前で建築家を抱えていて、数々の「逓信建築」が生み出された。この東京中央郵便局旧局舎もそのひとつで、設計者は吉田鉄郎。彼はこのほかに大阪の中央郵便局なども手がけている(現存していない)。

 日本のモダニズム建築の傑作といわれたこの建築にも、郵政民営化とともに危機が迫った。要するに都心の超一等地にあるので、立て直して高層化し容積率をアップさせようという話だ。

 論議の末、駅前広場側の外観を残しつつ、高層ビルへと立て直されることになり、JPタワーという名前となって2012年に竣工した。

 

 歴史的建造物を壊し高層化する際によく見られるのは、外側の壁やタイル数センチ分の厚みだけが貼付けられ、「以前の建物の雰囲気がほら感じられるでしょう」というあのまやかしの手法である。しかし、この東京中央郵便局旧庁舎の場合は大変幸いなことに正面部分など、空間の一部が残された。ことに2、3階の大きな作業室は巨大な列柱に支えられた横長の大空間で、かつては東京から地方へ、あるいは地方から東京の各地へと届けられるさまざまな郵便物がここに集められ、行き先ごとに分配されていった場所である。遠方の人々とつながるということにおいて郵便が今とは比べ物にならないくらい重要であった時代の中央郵便局の活気を伝える空間が伝えられたことは、本当によかったと思う。

 

 さて、その空間が今どう使われているのかというと、インターメディアテクという変わった名前のミュージアムとなっている。いや、名前だけでなく、中身もかなり変わっている。

 その主体となっているのは東京大学総合研究博物館と日本郵便株式会社である。後者は主として場所の提供であり、ミュージアムの中身を担っているのは東大の本郷キャンパスを中心に活動を行っている同大学の総合研究博物館である。

 

 東京大学は、その前身が江戸幕府設立の学問所というから、とにかく歴史がある。明治政府が引き継いでからでもおよそ150年。足かけ3世紀。その間に集められたり、教育や研究のために作られたりした資料がここに展示されている。大きな骨格標本、多種多様な剥製などの展示には、長大な展示室が効力を存分に発揮している。

 

 これら実物の標本だが、かつては近代の教育にとってなくてはならないものという位置づけであり、欧米から取り寄せるなどして、さまざまな講義に用いられたらしい。しかし映像資料を簡便に使うことができる時代になってくると、取り扱いの難しい剥製や大きな骨格標本はむしろ無用の長物となり、倉庫の隅に追いやられた。それに再び光を当てる。かつて重要とされ、その意味が失われつつあったもの、そして移り変わった時代そのものを振り返る。つくられた映像ではなく、そのモノのもつ存在感に改めて対峙する。それこそがミュージアムの存在の価値ではないとの主張がある。

 

 さらに面白いのは、大まかなジャンルには分れているものの、地域ごと、時代ごとといった分類を行わないで見せていることである。これは20世紀に発達したミュージアムの展示手法とはまったく異なる。むしろ、19世紀の博物館はこんな風だったのかと思わせるがごとき展示である。20世紀の展示を越え、新たな見せ方をつくる出発点として、実験的な展示がめざされている。

 

 ところで、このミュージアムの床は木を用いているが、特に2階の大展示室の床はかつての集配室のものを使用している。この展示室は北面しており、ブラインドを開け放って、外光を入れる。多くの美術館で、外の変化する光は完全に遮断し、人工の安定した光源で展示物を見せているのとは正反対である。

 また、展示ケースなど、展示に用いられるさまざまな道具類には、意識して古いものを用いている。これらの多くは、かつて東大で使用されて、その役割を終えたのちもかろうじて保管されてきた物たちであるが、別の施設から破棄される寸前にここに運び込まれてきた物品もある。こうしたケースの類は、密閉性、ガラスの透過率などにおいて現代のものには遠く及ばないが、しかしこのミュージアムでは時代遅れどころか、とても美しく輝いて見える。

 古い覗きケースには、高さの低いものがある。身長が今よりも低かったからかもしれない。そうしたケースには足の下に小さな部品を着けている。そうすることで高さを調節しているのだが、同時にケース自体の重量が感じられなくなり、軽やかに中の展示品を受け止めているように見える。

 展示は一見雑多に並べられているようでいて、美しく展示することが大変重視されている。どんなに時代が変わろうと、これこそがミュージアムの最重要の原則であるとの主張が見てとれる。

 

 

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*原則月曜日が休館。入館無料。撮影は禁止。それは理由があってのことである。下の写真は、例外的に撮影可としている部分。 ショップも充実。