浄楽寺の諸仏

  運慶壮年期の力強い彫刻

住所

横須賀市芦名2-30-5

 

 

訪問日

2007年3月3日、 2020年4月5日

 

 

この仏像の姿(外部リンク)

よこすかの文化財・国指定重要文化財等

 

 

 

拝観までの道

浄楽寺は、JRの逗子駅または京浜急行線の新逗子駅から京急バス長井・大楠芦名口方面行きバス(逗4、5、6、7、71系統)に乗り、「浄楽寺」下車すぐ。

 

京浜急行バス

 

本堂裏に収蔵庫があり、年に2回、3月3日と10月19日に開扉される(10時から15時、ただし大雨等の時は中止)。

筆者が訪れた2007年3月3日は土曜であったためか、あるいはこの開扉日のことはよく知られているのか、団体を含め多くの人が拝観に訪れていた。

 

その他の日でも事前連絡により拝観は可能(一週間前までに要連絡)。ただし雨天時、お正月やお盆など不可の日がある。

 

浄楽寺ホームページ

 

クラウドファンディングを利用して収蔵庫の改修工事が行われ、完成を記念する特別公開が2018年3月にあった。

 

 

拝観料

500円

 

 

お寺や仏像のいわれ

浄土宗の寺院。鎌倉幕府草創期の有力御家人である和田義盛が阿弥陀堂をつくり、その死後鎌倉の光明寺の寂恵という僧が再興し、今に至る。

 

かつては、和田義盛によって創建されたのち、頼朝によって鎌倉に造られた勝長寿院の一部を合わせたと伝え、本尊の阿弥陀三尊像は奈良から招かれて勝長寿院の仏像を刻んだ成朝の作といわれていた。この寺には「平政子」の名が刻まれた懸仏(これも収蔵庫で拝観できる)が伝わっていることもあって、北条政子と和田義盛が勝長寿院を移したのだと江戸時代の史料に書かれている。

しかし、現在では懸仏の銘文の文字は後世のものであるとされており、勝長寿院や成朝作の話は伝説と考えられている。

 

浄楽寺の諸像の本当の作者は、あの運慶なのである。

1959年に阿弥陀像と毘沙門天像の像内から銘札が発見され、造像年は1189年、願主は和田義盛とその妻の小野氏であり、運慶が小仏師10名を率いて造立したことが明らかとなった。

鎌倉幕府の記録である『吾妻鏡』には運慶が鎌倉の仏像の制作にあたったことが書かれているが、残念ながらそれらは現存しない。しかし、鎌倉から少し離れたこの浄楽寺に運慶の真作の仏像が残り、年2回とはいうものの拝観ができるということは大変うれしいことである。

 

  

拝観の環境

照明も設置され、像のすぐ近くまで寄ることができて、とてもよく拝観できる。

 

 

仏像の印象など

実は、1959年に運慶作という銘札が久野健氏によって発見されたのちも、浄楽寺の諸像が運慶作と広く認められるまでには時間がかかった。

その理由のひとつとしては、不動・毘沙門天はいかにも拙劣な極彩色が江戸後期の修理の際に全面に加えられていたことがある。後の時代の彩色によって運慶の真価が伝わらなくなっていたのである。銘札は本物でも、像は失われて、あとで造られた像に当初の銘札が納められた可能性があるなどといわれたそうだ。

近年の修理でこの極彩色は取り除かれ、面目を一新した(阿弥陀三尊像もやはり後補の金泥塗りや漆箔がされているが、これはそのまま残されている)。

また、阿弥陀像の銘札は運慶の文字を含む部分が削られ、改めて後の文字で記されており(江戸後期の修理の際、傷んでいたために書き直されたと考えられる)、かえって運慶作が疑われたということもあったそうだ。

 

収蔵庫正面に安置された阿弥陀三尊像は、中尊の阿弥陀如来坐像は像高約140センチの半丈六像。脇侍の観音・勢至菩薩立像の像高は180センチ弱。

堂々たる三尊像で、特に中尊はくっきりした目鼻立ち、張った頬、広い胸など気力がみなぎり、また安定感がある。衣の襞(ひだ)は、修理され彫り直されやや鈍くなっている部分もあるが、全体に複雑かつ奔放でありながらよく調和を保っている。すばらしいできばえである。

脇侍像の天衣や勢至菩薩像の裳裾なども直されているというが、全体に保存状態はよいといえる。台座は蓮肉など当初の部分と蓮弁など江戸後期の後補の部分とがある。

眼はくっきりとしていて一見玉眼のように見えるが、彫眼である。

 

阿弥陀三尊像の向かって左手前に安置されている毘沙門天立像、右手前に安置されている不動明王立像は、それぞれ140センチ前後の比較的小さな像である。ともに玉眼、忿怒の表情を見せ、力強い造型だが、不動明王はどっしりと立ち、毘沙門天像は不動像に比べて動きを表す。好対照である。

好対照といえば、最もどっしりとして安定感のある阿弥陀坐像の衣が一番奔放に表わされているというのも、みごとな動と静の対照である。

なお、これらの像はすべてヒノキの寄木造。

 

 

さらに知りたい時は…

『運慶 鎌倉幕府と三浦一族』(展覧会図録)、横須賀美術館ほか、吉川弘文館、2022年

「特集 運慶と鎌倉殿の仏師たち」(『芸術新潮』871)、2022年7月

「運慶展X線断層(CT)調査報告」(『MUSEUM』696)、浅見龍介・皿井舞・西木政統、2022年2月

『運慶』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2017年

「特集 オールアバウト運慶」(『芸術新潮』2017年10月号)

『運慶と鎌倉仏像』、瀬谷貴之、平凡社、2014年

『運慶』、山本勉ほか、新潮社、2012年

『関東の仏像』、副島弘道編、大正大学出版会、2012年

『大本山光明寺と浄土教美術』(展覧会図録)、鎌倉国宝館、2009年

「仏像の内部を見る」(『講座日本美術史』1)、山本勉、東京大学出版会、2005年

「運慶と和田義盛」(『新横須賀市史 資料編 古代中世』1)、上杉孝良、2004年

『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代 造像銘記篇』1、中央公論美術出版、2003年

『運慶 その人と芸術 』 、副島弘道、吉川弘文館、2000年

『鎌倉地方の仏像』(『日本の美術』222)、田中義恭編、至文堂、1984年

 

 

仏像探訪記/神奈川県

浄楽寺収蔵庫
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