浄光明寺の阿弥陀三尊像

  鎌倉を代表する宋風の仏像

住所

鎌倉市扇ガ谷2-12-1

 

 

訪問日

2008年5月1日、 2019年4月28日

 

 

 

拝観までの道

浄光明寺は鎌倉駅からほぼ真北の方向、徒歩15分くらいの場所にある。

本尊・阿弥陀三尊像は収蔵庫内に安置され、木・土・日・祝日に公開されている(時間は10時から16時だが、12時から13時はお休み)。ただし、12月中下旬から1月上旬と8月および雨天・多湿時は拝観休止(昼晴れても、朝まで雨が降っていたという時にはお休みになることがあるので、そういう日は電話してから行くのがよい)。

 

 

拝観料

300円

 

 

お寺や仏像のいわれ

鎌倉中期に北条時頼(第5代執権)と長時(第6代執権)によって創建され、その後も足利氏、鎌倉公方、徳川家康等の外護を受けた。

本尊の阿弥陀三尊像は1925年に解体修理が行われ、この時中尊の像内から4センチほどの大きさの水晶の五輪塔と墨書の納入紙片が発見された。この紙片によって、1299年に造立されたこと、「久時」の文字から造像を行った人物が北条久時(長時の孫)であるらしいと知られる。

 

 

拝観の環境

三尊は本堂裏手の収蔵庫に安置されているが、収蔵庫はまだ真新しく、明るい感じであり、よく拝観できる。ただ、入り口からの拝観であるため、やや像までの距離がある。

 

 

仏像の印象

中尊の阿弥陀如来坐像は像高約1メートル50センチ。ヒノキの寄木造、玉眼である。光背は後補。台座は高く、本体と合わせ3メートルを越す。覚園寺の薬師三尊像とともに鎌倉を代表する三尊像である。

重厚な印象の台座は後補部分もあるらしいが、全体に当初の形をよく残す。

宝冠をつけているが、後補である。

胸の前で手を組む説法印を結ぶ。四角張った顔、しっかりと見開いた目は、力強さ、厳格さが感じられる。

 

脇侍の観音・勢至の両菩薩は像高約1メートルで、首をやや中尊の方に傾け、片足を前に出してくつろいだ体勢を取っている。髷を高く結い、袈裟を着ける。衣の襞(ひだ)は複雑なうねりを見せる。袈裟を着る菩薩像は珍しいが、これも中国・宋代の仏画の影響によるものと思われる。左右の菩薩で着方や襞の作り方が異なり、ここもひとつ見どころである。

中尊・脇侍とも爪を別材で長くのばし、こうした特徴も宋の仏像・仏画の影響を受けて造られていることを示している。

なお、説法印の中尊に片足を前にはずした形で座る脇侍の組み合わせの阿弥陀三尊の彫刻というのは他に例を見ないが、当麻曼荼羅(当麻寺曼荼羅堂の本尊であり、後世多くの写本がつくられた)の中央、阿弥陀浄土図の阿弥陀三尊像の姿と共通している。

 

ところで、どっしりとした中尊と優美な脇侍像では印象が異なる。この作風の違いを重視して別作と見、脇侍像の方が早い時期につくられたのではないかとする意見がある(脇侍像は土紋が用いられていないという点でも異なっている。脇侍像の造立時期としては、本寺を創建した北条長時の一周忌法要が行われた1265年?)。一方、耳や衣の彫りに共通点が見いだせるとして、同作と考える意見もある。

 

中尊の衣文には、鎌倉地方の仏像に特有の土紋が比較的よく残っている。しかし元が泥であるため、取れたり崩れたりしている部分が多い。公開期間が制限されているのは、こうした仏像の表面の装飾を現状維持するためなのかもしれない。

 

 

その他1

このほか、収蔵庫内には鎌倉時代後期〜南北朝時代の作である地蔵菩薩立像が向かって左、厨子内に安置されている。写真で見ると端正な優品だが、角度が悪く、距離も遠いため、やや見づらいのが残念である。矢を拾って足利直義の苦戦を救ったという伝承をもつ。

また、本堂裏の急な石段を登っていくと、鎌倉後期の1313年の銘をもつ石造の地蔵菩薩坐像を見ることができる。

 

 

その他2

中尊の像内納入品は鎌倉国宝館に寄託されている。常設では展示されていず、展覧会によって展示されることがある。

 

 

その他3

脇侍像のレプリカが神奈川県立歴史博物館で常設展示されている。お寺では見えない横顔の様子もよくわかる。

 

 

さらに知りたい時は…

『日本彫刻史基礎資料集成 造像銘記篇 鎌倉時代』16、中央公論美術出版、2020年

『鎌倉の仏像』(展覧会図録)、奈良国立博物館、2014年

『関東の仏像』、副島弘道編、大正大学出版会、2012年

「都市鎌倉の宋風彫刻」(『仏教美術論集 様式論1』、竹林舍、2012年)、浅見龍介

『法然と親鸞 ゆかりの名宝』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2011年

『東国の鎌倉時代彫刻』(『日本の美術』537)、山本勉、ぎょうせい、2011年2月

『鎌倉人の地獄と極楽』(展覧会図録)、鎌倉国宝館、2007年

『鎌倉 古寺を歩く』、松尾剛次、吉川弘文館、2005年

『国宝と歴史の旅』7(『朝日百科 日本の国宝 別冊』)、朝日新聞社、2000年8月

「浄光明寺の阿弥陀三尊像について」(『三浦古文化』45)、浅見龍介、1989年6月

『鎌倉地方の仏像』(『日本の美術』222)、田中義恭編、至文堂、1984年

『鎌倉彫刻史論考』、三山進、有隣堂、1981年

『神奈川県文化財図鑑 彫刻篇』、神奈川県教育委員会、1975年

 

 

仏像探訪記/神奈川県