2024年に開館したミュージアムより

東京藝術大学大学美術館取手棟
東京藝術大学大学美術館取手棟

1 東京藝術大学大学美術館取手収蔵棟「魅せる収蔵庫」 

 (3月竣工、2025年4月ガイドツアー開始)

 所蔵品の充実は各ミュージアムにとって喜ばしいことには違いないが、それは同時に収蔵庫が手狭になっていくという頭の痛い問題につながる。ことに毎年卒業、修了する学生の優秀作品を買い上げ、収蔵品に加えている東京藝術大学では、収蔵スペースの確保は常に考え続けなければならない宿命的な課題である。
 東京藝大といえば上野。しかし実はそれ以外にも千住、横浜、そして千葉の取手にもキャンパスがある。その取手の校地内に1994年、上野校の収蔵庫不足の解消のために「取手館」(1階は多目的ホール、2、3階が収蔵庫)が設けられた。それから30年たち、さらなる芸術資料の収蔵量不足(近年、作品の大型化も進んできてもいるし)の解消を目的に、取手館に接続して3階建ての収蔵棟が設けられた。荷解きなどのための前室や動力関係の機械室を除くほぼ全体が収蔵庫であるために開口部や窓などは極力省かれ、外観は異世界の巨大要塞のようにも見える。なお、将来的にはこれにさらに接続する形でもう1棟建てる計画があるらしい。
 しかし、そのようにして収蔵された夥しい作品は、上野校内にある藝大美術館には常設展示室が設けられていないということもあり、多くの人の目にふれる機会は限られる。若きアーティストがその鋭い感性で時代を切り取り生み出した作品が大切に扱われて未来へと受け継がれていくことはとても大切な営みではあるが、人知れず保存されていくのみということではさびしすぎる。
 そこで、この収蔵棟に設けられたのが「魅せる収蔵庫」である。2階の収蔵庫の一部を使って「収蔵展示」を行うもので、本来収蔵庫に入ることが想定されていない一般の見学者を入場させ、収蔵作品の一部を見せるとともに、作品管理、保存がどのように行われているのか知ってもらう機会をつくるというものである。もちろん収蔵棟の収蔵能力はできる限り削りたくはないので、「魅せる収蔵庫」に割り当てられたスペースはそれほど広いものではないが、19世紀からごく最近の作品まで約50点のさまざまなジャンルの作品によって、140年にわたる藝大の多様な表現を鑑賞できるように工夫した「展示」がなされている。また、覗き窓越しに本来の収蔵庫の姿を垣間見ることができるようにもなっている。
 見学は藝大美術館の教員やスタッフによるガイドツアー形式での実施。毎週火曜日の午後に2回、1回1時間弱、各回定員15名で行われる。事前申込制。
 「展示」作品は年に1度程度入れ替える予定とのこと。

→ 東京藝術大学大学美術館・取手収蔵棟「魅せる収蔵庫」スタッフによるガイドツアー


*火曜日午後に実施。事前予約制。無料。



2 澄懐堂美術館 (3月 新展示棟完成)

 中国書画の名品を多数所蔵することで知られる澄懐堂(ちょうかいどう)美術館は、四日市の市街から西へバスで40分ほど行った水沢(すいざわ)町に所在する。この地区はかぶせ茶という高級茶葉の産地で、都会の喧騒を離れてゆったりと名品を鑑賞するのにまことにふさわしい環境にある。
 コレクションの中心を占めるのは、戦前の政治家、実業家の山本悌二郎が収集した中国書画である。澄懐堂という名称も山本が自らの書斎をそのように命名したことに由来する。
 山本の死後、その収集品は戦災は免れたが、戦後にその一部が散逸の憂き目を見る。だが、コレクションを受け継いだ三重の実業家、猪熊信行によって1986年に法人が設置され、1度は失われた作品を買い戻しも進めて、1994年に澄懐堂美術館が設立された。初めは四日市の市街地にあったが、一旦閉館ののち、2017年より現在地で再開、以後春と秋に展覧会が開催されている
 玄関を入るとまずあるのは常設展示室で、ここには唐三彩や文房四宝が展示されている。渡り廊下をつたって行くと、蔵を改造した旧館がある。吹き抜けスペースを活用して大きな軸も架けることが可能であるが、広さはない。今回、さらにその奥に新館(新展示棟)が設けられ、これによって今までよりも多くの作品を展示できるようになった。コレクションの魅力をよく引き立て、じっくりと鑑賞が可能な空間となっている。

→ 澄懐堂美術館


*春と秋にそれぞれ1ヶ月半ほどの会期で展覧会を実施。中ごろで展示替えあり。会期中、月曜日、火曜日休み。



3 アートスペース福寿園 (4月 開館)

 創業が18世紀という製茶の老舗、福寿園が京都・四条通に面した福寿園京都館(京都本店)の7階にアートギャラリーを新設した。心を癒し、感動を与え、対話を誘うのがお茶であり、アートであるという考えから、お茶と文化の関連をコンセプトに、さまざまなジャンルの現代の作家を招いて展覧会を開いている。貸ギャラリーではなく、ギャラリー側とアーティストがともに企画を練って展覧会を作り上げるというスタンスで、年間3回、各2ヶ月ほどの会期で行っている。
 空間設計は建築家、陶器二三雄が担当。それほど広くはない長方形の1部屋は、腰掛けられるスペースもあり、居心地良いスペースである。

→ アートスペース福寿園


*会期中、月~水曜日は休館。無料。



4 豊田市博物館 (4月 開館)

 豊田市郷土資料館(2022年閉館)、豊田市近代の産業とくらし発見館(2023年閉館)を前身とする。近世の城跡である高台に豊田市美術館と隣り合わせで建ち、両館が一体となるよう空間構成を考えてつくられた。設計は坂茂。
 市内産の杉を積極的に用いた実にスタイリッシュな建物で、建物に近づいていく段階からうきうきドキドキが止まらない。入ると、天井高を大きくとった明るく広い空間が奥へと伸びている。ここは「えんにち空間」と名付けられ、さまざまな用途に対応できる贅沢なスペースとなっている。その一角にチケット売り場があり、常設展示室や企画展に用いられる2つの展示室へ進む。さらに奥に、セミナールームや体験室なども備えられている。2階には図書コーナー、ショップ、カフェがあり、ウッドデッキへ出ると緑豊かな空間を抜け、「むかしの家」(江戸時代の民家を移築)へと至る(野外展示)。館内外のつながり具合が心憎い。
 常設展示室は大きな1部屋で、入ると正面には8メートル近い巨大な展示ケースがそびえ立つように置かれている。ここには古いものでは原始・古代の土器、新しいものではほんのわずか前に発行された「表彰状」までさまざまな歴史、民俗資料が、さらには動物の剥製、骨格標本までもが置かれている(「とよたモノ語り」)。あまりに大きいケースのために上方の展示はよく見えないが、展示室を囲むようにして作られたスロープの途中から備え付けの双眼鏡を覗いて見ることもできる。発見の喜びとともにこの地域を彩ってきたさまざまなモノに出会うことができる仕掛けとなっている。
 右へと進むと、昔と今の記憶を綴ったカードがずらりと展示されている。それぞれの文章は短いものだが、自分を取り巻く人々との有形、無形のつながりが沁み入るように感じられる。
 もちろん、多くの博物館、郷土資料館で行われているような、古代から順を追った展示もある。しかし、それらは時代や地域を代表するものが厳選され、説明も簡潔なものにとどめている。それを補う形で、工夫されたアニメーションが流されている。
 さらに、市の自然や地形がわかる大規模な模型展示、剥ぎ取られた地層や和製の紡績機械として戦後まで活躍したガラ紡のような大きな展示物、また顕微鏡を覗いて探究を進めることができるコーナーや期間限定の特集的な展示もある。
 分野別、年代順に展示するのは最小限、説明もなるべく少なくして、観覧者が受け身にとどまらずに興味を持ったらその先へと自ら進んでいけるような工夫が随所にほどこされている。かつての郷土の博物館が網羅的、一方向的で、「中央」の動きを参照しつつ地域の特徴が描かれるような傾向があったとすれば、豊田市博物館は自分の興味から出発して地域を発見できることを目指した展示と言えよう。実に今日的であり、また優れたつくり方をしていると感じる。
 しかし、感心しながらも、どこか引っかかりを覚える自分がいる。興味に従って主体的に選ぶというと素晴らしいことのようだが、実はそのもとになる材料はたくみにより分けられてしまっているのではないのか。考えすぎであろうか。

→ 豊田市博物館


*原則月曜日休み。共につくり、成長しつづけていく博物館を目指し、昔の記憶や現在の記憶、豊田市にまつわる記憶などを募るプロジェクトは現在も進行中である。



5 UESHIMA MUSEUM(植島美術館) (6月 開館)

 事業家、投資家で現代アートのコレクターである植島幹九郎氏が自らのコレクションを展示するために設立したしたミュージアムである。
 植島氏がアートを本格的に収集しはじめたのは2022年だそうで、驚くべきことに1年半ほどで約600点のコレクションを形成したという。初めは自分のオフィスや経営する飲食店などに飾っていたそうだが、展示するスペースが足りなくなり、ついには作品を一般に公開する美術館の開設へと進んだ。
 場所は自身もその学校法人の卒業生であるという渋谷の学校の敷地内で、建物はかつては英国系の学校だったビルという。公開エリアは地下1階から5階で(ただし一部は土日のみ公開、また、今後は6階も公開されていくかも)、各フロアはそれほど広くなく、また天井高もそれほどでなく、フロアごとに展示の流れが断ち切られるというデメリットもあるが、それらを越えて、各作品の魅力をよく引き出す優れた空間がつくられている。展示作品数は60~70点。
 現代アートというと「難解」と言われることがあるが、この美術館で見ることができる作品は、明快な印象を与えるものが多い。色鮮やかで、すっきりとして、またスケールも大きく、見ていて楽しくなる。海外作家の作品の多くは世界各地で開催された国際展で存在感を示したものが多く、今日のアートシーンに触れる喜びを得られる。日本の作家の作品は、比較的評価が定まり安定感ある作家の作品とこれから大きく羽ばたこうとする勢いのある作家による造形とがバランスよく展示されて、楽しい。映像を用いた作品もあるが、長い時間立って見続けなければならないようなものはない。
 スタッフの対応は親切で気持ちがよい。客層もよく、基本的に写真OKだが、だからといってシャッター音を響かせながら撮りまくるような人はいない(少なくとも私が行った時にはいなかった)。

→ UESHIMA MUSEUM

 


*日時指定の完全予約制。原則月曜日休み。



6 荏原 畠山美術館 (10月 リニューアルオープン)

 もと畠山記念館といい、荏原製作者の創業者、畠山一清がそのコレクションを一般公開するために設けた美術館である。佐理「離洛帖」、牧谿「煙寺晩鐘」、光悦「雪峯」、景徳鎮官窯の龍濤文の瓶(染付)など、錚々たる東洋美術の名品を所蔵する。2019年より休館に入っていたが、このたび新館を増築するなどリニューアルを終えて、「荏原 畠山美術館」として再スタートを切った。
 本館2階がメインの展示室であるのは以前と変わらない。ケースの位置や展示の並び、光の入れ方なども旧来のあり方を踏襲している。ただし、一部を畳敷きとして、掛け軸を本来の目線の高さで鑑賞できるようにしていたスペース(ここで抹茶を注文できた。今となっては懐かしい)は取り払われてしまった。
 新たに設けられた新館は、2階と地下1階が展示室となっている(1階は多目的室とカフェ)。新館2階の展示室は壁付きの展示ケースは大きく、これまでの展示室では難しかった大きな作品も十分展示できるようになった。ケースや照明も高品質である上に、黒い仕切り壁によってガラスの写り込みを防ぐ。地下1階は広く、展覧会によってさまざまな形で運用できる使い勝手が良さそう展示室となっている。

→ 荏原 畠山美術館


*原則月曜日休館。なお、入館料の支払いはキャッシュレス決済のみ。

 

 

 

 

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豊田市博物館
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