2010年に開館したミュージアムより

1 さいたま市大宮盆栽美術館(3月開館)

 

 「アート鑑賞マニュアル」と称し、さまざまな種類の美のみどころを解説する『美の壷』は、2006年から続くNHKの人気番組である。第1回放送は「古伊万里」、ついで第2回のテーマは「盆栽」であった。

 盆栽は年輩の方の趣味というイメージがあるが、 この番組によれば、次第に若者にもよさが認められつつあり、また1970年代以後ヨーロッパでも「BONSAI」として人気が高いのだという。

 番組への資料提供は高木盆栽美術館というミュージアムだった。紹介された「日暮らし」という盆栽は、あまりのみごとさに見ていると時を忘れていつの間にか日が暮れているというところからつけられたそうで、樹齢450年という。その高木盆栽美術館だが、東京・市ヶ谷のビルの中にあり、栃木に移転したのち、創業者と死とともに閉館となった。2008年のことである。

 「日暮らし」をはじめとする高木盆栽美術館の旧所蔵品は、さいたま市によって購入された。そのコレクションを中核として開かれたのが、さいたま市大宮盆栽ミュージアムである。もともとさいたま市北部の旧大宮市には盆栽業者が多く、毎年5月には盆栽祭りが開催されている。江戸時代以来駒込に多かった盆栽の業者が、関東大震災をきっかけにこの地に移転して来たことがそのはじまりだそうで、大宮盆栽村とまで呼ばれるほどである。閉館する美術館の遺産を受け継ぎ、かつ地域の資源も生かしながらミュージアムを開いていくというのは、なかなかの着眼であるように思う。

 

 しかし、開館前にはトラブルも発生した。業者に委託して保管していた高価な盆栽数点が枯死してしまったのである。市民の間には、盆栽のミュージアムをつくる必要があるのか、税金の無駄使いではないかといった声が高まり、市議会でも反対の意見が述べられたという。

 財政状況厳しき折り、あえて新しいミュージアムをつくる意義はどこにあるのかという問いは、今日避けては通れない。さらにこの美術館の場合、いくら盆栽村の伝統があるとはいえ、一般の美術館の収蔵品に比べて、盆栽は生き物ゆえに維持管理が難しく、公立(系の)美術館として保管や展示を行うことはリスクが大きいのではないかという疑問も当然出て来よう。また、この美術館には浮世絵や書籍など盆栽に関係する美術品や資料も所蔵されているが、それを植物である盆栽とともにいかにして万全を期しながら展示していくかという課題も加わる。こうした課題にこの美術館がどう向き合ったかは、今後の日本の美術館の展開を考える上でも、重要なケースと思う。

 

 前置きが長くなったが、この美術館の概要を述べる。

 交通はJR東北線(宇都宮線)土呂駅から南へ約5分、東武野田線大宮公園駅から北へ約10分。東西に長い三角形の敷地で、駐車場は東側。入場口は西側だが、入口は東西両側にある。

 展示は、中央に広く庭園をとり、北側と東側に展示スペースをとる。北側はエントランス展示としての機能を持ち、その後に庭園で季節に合わせた数十の盆栽と対面するという順路になる。東側の棟は企画展示室で、盆栽に関連する絵画、書籍や陶磁器が展示されている。この棟は独立していて、美術品の展示ができるスペースとしている。

 全体的にそれほど広くないスペースを有効に活用しているといえる。

 

 しかし、残念な点もある。

 第1に企画展示室が貧弱なこと。広さ、内装、展示の仕方、照明など本格的な美術館には遠い。この展示室を充実させて、他の地域のミュージアムと連携した展覧会を開くことができれば、その活動はさらなる発展が望めるだろうと思えるのだが。

 第2として盆栽ファンのみならず、多くの人を惹き付ける装置がないことである。たとえばカフェを設置して、庭を背景として取り込みながら盆栽をテーマとした創作菓子を売り物にするといった試みがあってもよかったのではないか。

 ついでにいうと、この美術館は特に指定しているところを除き、写真不可である。アートミュージアムでも写真可のところが増えている現在、この措置は残念に思える。

 

→ さいたま市大宮盆栽美術館のホームページ

 

 

*入館料一般300円。休館日は原則木曜日。ほかに年末年始の休みや展示替えのための臨時休館あり。住所はさいたま市北区土呂町2-24-3(JR宇都宮線土呂駅下車、東口より徒歩5分。または東武野田線大宮公園駅下車、徒歩10分)

 

 

 

2 明治大学平和教育登戸研究所資料館(4月開館)

 

 2010年は、近現代史を学ぶことができる博物館、資料館の開館が相次いだ。

 3月には千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館に第6展示室(現代展示)がオープン。4月には神奈川県川崎市に明治大学平和教育登戸研究所資料館、秋田県大館市に花岡平和記念館が開館。8月には岡山県岡山市に私設の森永ヒ素ミルク中毒事件資料館が開かれた。

 ここでは、その中から明治大学平和教育登戸研究所資料館を取り上げる。

 

 川崎市多摩区にある明治大学生田キャンパスは、戦中は陸軍の第九陸軍技術研究所、通称「登戸研究所」という施設であったところである。

 登戸研究所が研究、開発していたのは、秘密戦のためのさまざまな機器である。秘密戦とは聞き慣れない言葉であるが、スパイ活動をはじめ、通常我々が想像する戦争の裏側にあるあらゆる謀略をいう。隠しカメラ、毒薬、宣伝ビラなど、スパイ映画に出て来そうなものが実際にここで開発され、さらに細菌兵器の開発、新型の電波兵器や風船爆弾、偽札を印刷して相手国を混乱させるなど、あらゆる研究と実用化が行われた。

 当然のことながら高度な機密保持が求められた。高台にあり、機密を保ちやすい地形で、都心に近く、かつ多摩地域の他の軍関連施設とも連携がとりやすいといった理由でこの場所が選ばれたようだ。

 その日常は戦中にもかかわらず平穏で、研究者は当時他では得難かったふんだんな資金を使っての研究を行うことができたという。

 

 戦後、ここは大学のキャンパスとなり、施設はそのまま大学の校舎に転用されたが、しだいに老朽化して新校舎へと建て替えられていった。この場所が軍の研究所であったことを漠然とでも知る人は少なくなって、歴史のかなたの消え去ろうとするころ、1980年代の平和運動の中から地域の戦争の歴史をきちんと記録したいという動きが出て来て、特に若者たちによる調査、研究に対してかつても関係者が重い口を開きはじめた。こうして、次第にその実情が世に知られるようになっていく。

 このような動きを受け、はじめは登戸研究所の旧建物の保存に消極的であった大学も、鉄筋の1棟について保存し、これを資料館として広く公開するという方針へ転換。ここに、日本で唯一の旧日本軍の研究施設をそのまま利用したミュージアムの開館とあいなった。

 

 小田急線の生田駅から線路沿いに東に歩いて行くと、明治大学の敷地に入る。坂を登りきったところ、右手に神社がある。なぜ大学の中に神社がと思うが、これも登戸研究所以来のもので、動物実験などの慰霊の祭祀が行われたのだという。さらに南へと進むと、学生会館の前には陸軍の星印がついた消火栓が残っているなど、注意深く目をこらすと現代のキャンパスライフの中に戦争の時代の名残りが潜む。

 登戸研究所資料館は大学構内の西南の端にある。

 

 内部は5つの展示室と暗室、レストルームなどに分かれる。展示室では、秘密戦の意味、登戸研究所のはじまりから、研究所の各科の活動内容、研究所の戦後、その歴史が消えることなく掘り起こされた経緯とその意義が紹介されている。

 登戸研究所は当時4つの科にわかれ、機密保持が徹底していたために、互いにその活動も話されることはなかったというが、展示ではそれぞれの科の活動や展開について、時間軸に沿いながら説明が進められていく。いきおい説明文の量は多くなっているが、理解を助ける図や模型、そして生々しい実物の資料によってわかりやすく伝えるよう、工夫されている。

 戦後、秘密線を推進した研究者たちは免責されるが、それと引き換えに研究のデータは米軍の手にわたり、ベトナム戦争の枯れ葉剤などにもつながっていく。登戸研究所は、隠されながら現代史へ引き継がれていったのである。このことについて、研究所の建物も生かしつつ、実物資料と解説とによって光をあて、見つめ直すことは、非常に意味あることである。

 

 → 明治大学平和教育登戸研究所資料館ホームページ

 

*開館は水曜日~土曜日の10時から16時だが、明治大学の夏季・冬季休業期間や定期試験期間、入試の期間等の閉館の時期あり。入館無料。最寄り駅は小田急線の生田駅で、南口から徒歩10分。バスは小田急線向ヶ丘遊園駅北口から小田急バス明大正門前行きに乗車し、終点で下車。

 

 

 

 

3 ヤマザキマザック美術館(4月開館)

 

 愛知県の工作機械メーカー大手のヤマザキマザックの会長、山崎照幸氏が収集した18~20世紀のフランス美術を展示する美術館。

 地下鉄新栄町駅から直結するビルにあり、展示室はフロア全体が免震になっている。

 大きなスペースに白い可動式の壁面という無機質な空間でなく、ヨーロッパから取り寄せた色鮮やかな壁紙の上に絵画作品を展示している。各絵画にはガラスをはめず、かなり理想的な照明によって大変よく鑑賞できるよう配慮されている。また、説明パネルをできるだけ除いて、かわりに来場者に音声ガイドを無料で貸し出している。

 印象派以後の作品は他の美術館でも見る機会は多いが、それ以前の18世紀フランス絵画を鑑賞できる貴重な美術館であるとともに、ガラス作品(こちらはさすがにガラスケース中に展示されている)、調度品、オルゴールなども展示されている。日時を決めてオルゴールの演奏会も行われている。

 

→ ヤマザキマザック美術館ホームページ

 

*月曜日、年末年始、展示替え期間は休館。入館料は一般1,000円。最寄り駅は地下鉄新栄町駅。住所は愛知県名古屋市東区葵1-19-30

 

 

 

 

4 静岡市美術館(5月開館、10月より展覧会開始)

 

 静岡駅北口より地下道を通って、雨の日でも濡れずに行ける駅近の美術館である。

 開館は5月だが、当初は講演会やワークショップ等を随時開催し、10月より本格的に活動を開始した。

 ビル内にあるが、天井高もあり、設備、デザイン、アクセスのすべてに優れた美術館である。コレクションはもたず、さまざまな展覧会を開催していく予定とのこと。

 3つの展示室からなるが、各展示室内は可動壁の使用によってそれぞれの展覧会にあわせたスペースをつくる。照明や展示ケースもなかなかスタイリッシュである。ミュージュアムショップも充実している。

 

→ 静岡市美術館ホームページ

 

*原則月曜日と年末年始は休み。観覧料は展覧会ごとに異なる。住所は静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階

 

 

 

5 ディスカバリーミュージアム(10月開館)

 

 羽田空港内施設の増設にともなって設けられた美術館。空港内の美術館としては日本初という。

 第2旅客ターミナルの3階、レストラン街の中を進んでいくと、1番南側奥にある。そこまでの喧噪がうそのように感じる空間である。

 展示の内容は、永青文庫の協力によって行っている。永青文庫は、熊本の大名家であった細川氏のコレクションを保存し、調査・研究、および展示を行っている法人で、東京の目白にあるが、近年は熊本県立美術館にも所蔵品を貸し出し、展示を行っている。当館もまた同様の手法によって、展示を定期的に入れ替えながら行っているようだ。

 スペースはそれほど大きくなく、10ほどのケースが配置され、そこに十数点の展示品が並べられる。黒を基調とした雰囲気は質実な感じがする。また、展示ケースはしっかりと堅牢なもので、展示内容も永青文庫の豊富なコレクションからテーマに合わせて選定されているので、点数は少ないが見ごたえがある。

 入口にショップがあり、テーマにあわせた商品が並ぶ。

 

→ ディスカバリーミュージアムホームページ

 

*展示替え期間以外無休。入館無料。最寄り駅は京急電鉄空港線羽田空港国際線ターミナル駅、または東京モノレール羽田空港第2ビル駅。

 

 

 

6 ホキ美術館(11月開館)

 

 JR外房線の土気(とけ)駅の東南にある千葉市最大の公園・昭和の森のすぐ脇に開館したホキ美術館は、実業家保木将夫氏のコレクションを公開する美術館である。

 近年開館した美術館の中でも、ひときわユニークな美術館と思う。

 

 第1に外観。

 この美術館は1階、地下1階、地下2階からなる。1階南側が入口で、レストランとエントランス、ミュージアムショップが並ぶ。北側へと進むと、最初の展示室に出る。ゆるやかにカーブした100メートルもの細長の空間の展示室だが、その先端の30メートルは空間に張り出している。土地に高低があり、それをならさずに長い長い建物を乗せ、端の部分が空中に浮いているようにつくられているのである。

 美術館にとって建物のユニークさはそれ自体価値がある。顕著な例としては、スペイン・ビルバオ市のグッゲンハイム美術館分館(1998年開館)は、魅力的な外観によって全世界から観覧者を集める。この美術館も、都心から近くないという立地条件にもかかわらず、その個性的な姿で多くの人々を惹き付けるだろう。

 

 第2にコレクションのユニークさがある。

 この美術館は「日本初の写実絵画専門の美術館」を謳う。

 現代のアート作品の中で、非常に緻密に対象物を描いた絵画だけを集めて展示しているのである。

 現代アートには難解であるというイメージが常につきまとうが、何が描いてあるのか一目瞭然な「写実絵画」は、老若男女問わず誰でも楽しむことができる。時代とともに絵画の傾向が移り変わっても、このタイプの絵画は、流行に左右されることなく、常に多くの観覧者を惹き付ける。少し大きな町に行けば美術館があって現代の美術作品が並んでいるというこの時代、後発の美術館が取る道としては、合理的な選択であるといえる。

 ただし、少し意地悪く言うと、以下のような感想も持つ。

 作品のほとんどは女性、山や港、渓谷の風景、花などの静物である。ほんの一部に生と死をリアルにテーマとしたものがあり、ドキリとさせられるが、それを除けば作品は美しく、絵はがきを大きくしたような退屈さがある。とくに女性像は、どれもプロポーションは申し分なく、肌はしみやホクロひとつなくて修正されたディジタル写真を思わせ、残念ながらもの足りなさを覚えると言わざるを得ない。

 

 第3に見せ方である。

 展示室の壁は基本的に白で、継ぎ目がなく、集中をそぐ余計なものがない。床は長く歩いても疲れない素材を用いているとのこと。

 照明はLEDを使用し、天井に埋め込まれ、見上げると天の川のごとくである。LEDが登場したとき、いずれ美術館の照明はこうなるだろうと予測したその通りのものになった。展示室によっては外光を取り入れている。階段の手すりのラインやエレベータのデザイン、階段下の小さなスペースにさりげなく置かれた椅子など、心憎い。

 

 そして、最もユニークであるのが地下2階の「私の代表作」と題した展示室である。    

 この部屋は他の展示室と違って壁を黒くし、部屋全体の照明を抑えている。大きな作品が多いが、これは作家に直に注文したものだそうだ。「あなたの代表作となる大きな作品をこの美術館のために描いてください」と言われることは作家冥利につきるだろう。力の入った作品が並んで、見ていて満足感が大きい。

 

 ところで、ほとんど全館が「写実絵画」で占められている中にあって、地下1階の一室だけは陶磁器が展示されている(ガラスケース中に展示されている作品もあるが、緑がかって見える。透過率が悪いためで、これは残念である)。

 富本憲吉や板谷波山らの作品の中に、器としての特定の用途を持たない抽象彫刻のような磁器も展示されている。「写実絵画」専門のコレクターのそもそもの出発点は、意外にもこうした抽象的な立体作品だったのかもしれないと想像すると面白い。

 

参考:『日経アーキテクチュア』2010年12月13日号

 

→ ホキ美術館のホームページ

 

*休館日は原則火曜日。入館料一般1500円。外房線土気駅南口下車、徒歩約25分。駅からバスもある(千葉中央バス)。住所は千葉市緑区あすみが丘東3-15

 

 

 

 

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