懐かしさを感じるミュージアム

永青文庫
永青文庫

 

 高い天井、白い壁面や継ぎ目の少ない大きなガラス、効果的な照明。こうした理想的な室内が整えられているミュージアムは、どのような時代、傾向の作品もその魅力をよく引き出します。しかし、一面「没個性的」といった感想も否めません。

 一方、そうした設備の新しさはなくとも、なんともいえない懐かしさのようなものを感じるミュージアムがあります。ほかにはない個性にあふれ、時々無性に再訪したくなるミュージアムを3つ、ここでは紹介させていただきたいと思います。

 

 

 

1 台東区立書道博物館

 

 画家であり書家でもあった中村不折(1866-1943)によって設立された、1万点以上にのぼる書道関係資料の専門博物館。不折は19世紀末の中国訪問を契機に書の研究資料の収集を開始し、やがて自邸に専用の書庫や展示施設を作り、ついには財団法人書道博物館として一般にも公開するに至った。1936年のことという。収集がこうじてミュージアムの開設までしてしまったコレクターの中で、不折の場合は実業家ではないこと、美術品の収集というよりは研究のための収集であったという点で、異色であるといえるだろう。

 不折は耐火建築の鉄筋コンクリートによる博物館建設を志し、これによって戦災によってもコレクションは失われることなく今日に伝わることとなった。1995年に台東区立となり、リニューアルを経て、2000年に再開館したのが現博物館である。

 博物館は本館と中村不折記念館からなるが、かつての面影を色濃く残すのが本館で、資料を自分ひとりの研究対象とせず、後世に伝えたいという不折の不屈の意志が感じられる空間である。細い木枠の展示ケースは華奢にも思え、また一部にはかつての手書きの題せん(展示のラベル)が使われている。それは、小さな紙のプレートに丁寧な文字で簡潔な説明がされている上、英文まで添えられている。今はめったに見られなくなった手書きの題せんには人の手による暖かみを感じ、とても懐かしい。

 

→ 台東区立書道博物館のホームページ 

 

*最寄り駅はJR鶯谷。

 

 

 

2 日本民藝館

 

 日本民藝館は、民芸運動のリーダー・柳宗悦によって1936年に開設された。収蔵品は日本、東アジアをはじめとする世界各地のあらゆる生活工芸品で、1万点を優に越すという。柳は「民藝館は単なる陳列場ではない。(中略)陳列はそれ自身一つの技藝であり創作であって、出来得るなら民藝館全体が一つの作物となるやうに育てたい」(同館パンフレットより)と考えていたそうだが、まことにその意志がよく実現された展示となっている。時代を感じさせる展示ケースのガラスは磨き込まれており、民衆が使用してきた器の持つ力がよく伝わる優れた展示となっている。題せんは手書きで、黒塗りの小さな札に朱で簡潔に書かれ、控えめで作品とのバランスがよい。窓は障子がはめられ、入ってくる日の光も心地よい。

 特に観察をしたというわけではないが、私が感じたかぎりでは、鑑賞者の多くがこの館の展示と空間を心から楽しんでいる。来館者の満足度はかなり高いように思う。この故に、東京のミュージアムの中から自信をもって推薦できる館をひとつだけあげよと言われたならば、「日本民藝館!」と答えたい。

 なお、日本民藝館開設の経緯やコンセプト、作品収集にまつわるエピソードなどは、『柳宗悦全集第16巻』(筑摩書房、1981年)に詳しい。日本民藝館への柳の情熱や自負がよく伝わってくる。これらの文章が書かれて数十年たつが、その精神は今も新鮮である。

 

→ 日本民藝館のホームページ 

 

*最寄り駅は井の頭線駒場東大前。

 

 

 

3 永青文庫

 

 旧大名の細川家が伝えるコレクションを所蔵する。戦後設立され、はじめはコレクションの保存と調査のための機関であったが、1970年代から公開するようになり、公開日も増えて博物館らしくなった。

 建物は細川家の事務所だったものだそうで、時代を感じさせる雰囲気の階段を上がってゆくと、いかにも保存が第一といった蔵のような中に展示室が設けられている。壁付きのケースは、高さ・奥行きともに窮屈で、理想的な空間とは言い難い。しかし、ここには大名家の宝物が秘蔵されて現代へと伝えられた結果、今や博物館として誰もが訪れ目にすることができるようになったという時代の流れの重みがある。

 展示スペースを広く確保する努力も行われ、さらに充実した展示がなされている。

 

→ 永青文庫のホームページ

 

*最寄り駅は、地下鉄の江戸川橋駅だが、JR線の目白駅などからバスの便もある。年間4回(各1ヵ月半~3ヵ月程度)テーマを決めて企画展示をおこなっている。会期終了後にはやや長い休館期間をとるので、ホームページで確認してから出かけることをお勧めする。月曜日は休館。

 

 

 

 

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