2022年に開館したミュージアムより

国立西洋美術館の前庭
国立西洋美術館の前庭

1 泉屋博古館東京 (3月 リニューアルオープン)

 京都の泉屋博古館の分館として、2002年に開館。当初は2つの展示室からなる小規模館で、いかにも分館というイメージだった。2020年から2年あまりのリニューアルで、名称も泉屋博古館東京となった。展示室は4つになり、さらにショップ、カフェ、講堂まで併設された。
 展示室が4室になったことで、1度の展覧会で展示できる数が増え、また部屋ごとにテーマ性を持たせた展示ができるようになった。しかも、動線は単純明快でとてもよい。立て替えや移転をすることなく、リニューアルによってぐっと充実したものとした例として非常にすぐれている。
 基本的にガラスケース内展示だが、映り込みが抑えられ、大変に見やすい。壁付きのケースはやや奥行きがあるため、以前は壁にかけられた絵画作品までは若干距離があって細部が見にくかったように記憶する。しかし、照明など展示環境も大いに改善されている。
 作品ごとの解説パネルはていねいで、作品への深い理解と愛情に根付いたものになっている。

→ 泉屋博古館東京(外部リンク)


*最寄り駅は東京メトロ、六本木一丁目。原則月曜日休み。



2 なら歴史芸術文化村 (3月開館)

 「道の駅」でもあるので、物産の購入ができ、レストランもあるが、同時に展示や体験のための施設でもあるという変わり種。さらに、ここの文化財修復・展示棟では、文化財の実際の修復の様子を実際に目にすることができる。こうした試みは全国的にも珍しく、貴重である。
 ここには県内の公私合わせて4つの文化財修復を専門に取り組む団体が入っており、建築修復工房、考古遺物修復工房、絵画・書跡等修復工房、仏像等彫刻修復工房と名づけられた各部屋で県内のさまざまな文化財の修復を行い、その日々の修復の作業をガラス越しで遠目ながら見ることができる。
 ただし、この施設は月曜日が休館だが、各修復工房の技術者の方は土日を休みとしているので、月曜以外の平日に訪れるのがよい。特に、毎日14時から行われているガイドツアーに参加すると、学芸員が先導し、今行われている修復作業のポイントを教えてもらえるので、お勧めである。
 ほかに企画展示室があり、「観音のいます地」(2022年4月~)「山辺の道」(2023年5月~)などのテーマをたてて展示が行われる。

→ なら歴史芸術文化村


*原則月曜日休館。見学無料。修復工房見学ツアーは休館日以外の毎日14時から実施。定員10名程度。13時より文化財修復・展示棟受付にて整理券配付。交通は、天理駅から直行デマンドシャトル。決まった時刻で運行しているのではなく、連絡し配車してもらう(有料)。



3 国立西洋美術館 (4月 リニューアルオープン)

 およそ1年半の休館を経て、リニューアルオープン。地下の特別展示室の設備の更新が中心であったが、それにともなって美術館の前庭にも変更が加えられた。
 それ以前、前庭には植栽があったのだが、この美術館がル・コルビュジエの設計に基づいて建設された当初にはなく、あとで付け加えられたものであったので、今回、本来の姿に戻られたということである、これによって、入館までのアプローチがよりすっきりとした形となった。
 なお、本館1階の19世紀ホールまで無料ゾーンとなった。

→ 国立西洋美術館(外部リンク)


*上野公園内。原則月曜日休み。



4 静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内) (10月 移転オープン)

 世田谷区岡本の静嘉堂文庫内につくられていた美術館が、千代田区丸の内の明治生命館内に移転。明治生命館は1934年につくられ、重要文化財指定を受けている。その中に新たに美術館をつくるということになり、空調をはじめ、さまざまな課題を乗り越えての開館となった。
 入場すると、まずホワイエという広々とした天井高のある部屋がある。外光を取り入れたぜいたくな空間で、もとは明治生命本社のオフィスであった。この部屋のまわりに4つの展示室を設けて、回遊することができるようになっている。ホワイエと対照的に展示室は暗くし、映り込みや反射を極力抑えたガラスを用いて、非常に見やすい展示をつくりだしている。
 照明もすばらしい。たとえば、この美術館の所蔵品の目玉の1つである国宝の曜変天目茶碗の展示における照明は、驚嘆するほどである。かつて岡本の美術館では外からの光の入る部屋で展示されたことがあり、それも感動的であったが、丸の内での展示では人工的なライトによって自然光での鑑賞とはまた違った形で作品の美を引き出すことに成功している。

→ 静嘉堂文庫美術館(外部リンク)


*東京メトロ二重橋前駅直結。原則月曜日休み。



5 栃木市立美術館 (11月 開館)

 旧栃木市役所本庁舎跡地に新たに設けられた美術館である。栃木は「蔵の街」として知られており、そのイメージに合致する落ち着いた雰囲気がある。
 この美術館は、1階ですべてが完結するようにつくられており、階を分けて展示室を配してい館と比べ、実にぜいたくなつくりである。中央の通路をはさんで配置された3つの展示室のうち、2つの大きな展示室(展示室A、B)は年4回ほど開催される企画展示のためのもので、可動式の壁面によって展覧会ごとに空間構成が変わる。最後の1つ(展示室C)は主として所蔵品展のためのもので、暗色系の壁面として、ここでも蔵のイメージを演出している。中央の通路の天井は曲面で構成されて、おしゃれである。
 なお、隣接する栃木市立文学館はレトロな建物(旧栃木町役場庁舎)で、こちらも同年の開館である。

→ 栃木市立美術館(外部リンク)


*JR、東武線の栃木駅北口から徒歩20分。原則月曜日休み。



6 市原歴史博物館(I’Museum Center) (11月 開館)

 千葉県市原市は県の中央部にあり、東京湾岸から房総半島中央の丘陵、渓谷部まで市域が広く、いわゆる「王賜銘鉄剣」(稲荷台1号墳出土鉄剣)など、原始、古代の遺物、遺物類が数多く残り、また発見されている地域である。その広い地域の各時代の歴史と文化が一堂に会して鑑賞できる博物館が新開館した。
 場所は五井駅東口から小湊バス「市原歴史博物館・中央武道館」行きに乗車し、終点の「市原歴史博物館」で下車すると、すぐ目の前。しかし、バスの本数は1時間に1本程度であり、乗車時間も約20分と、けっして便利な場所ではない。ここにはもともと埋蔵文化センターがあり、既存の施設を増改築して利用できることから、場所が選定されたらしい。
 主要な見学場所としては、エントランス、常設(企画)展示室、民俗展示室、別棟の歴史体験館となる。
 エントランスは広く、明るい。スタッフが多く、親切なので、安心できる。収蔵品をモチーフに開発されたミュージアムグッズの販売も行われている。民俗展示室は、かつて東京湾で活躍していた和船、五大力船の櫂の実物資料と、五大力船の特色が理解できるようにつくられた解説番組は、適度な長さでつくられ、わかりやすい。
 常設展示室は、それほどの広さはなく、四角い展示室の中央にスポット的に見せることができる部屋を区切っているだけの単純なつくりながら、展示の流れが上手につくられている。部屋は全体として暗めにし、壁付きのケースはガラスを大きくとって、展示品や解説パネルが明るく、わりやすくつくられている。展示品はボリューム感を保ちながら、整然と並べられ、解説は長さが適切で、文字が見やすい太さであり、ルビふりが適切である。
 残念なこととしては、企画展示室がないこと。将来企画展を開くことがあった場合、常設展示室の壁面を移動させてスペースを設けるという考えらしい。もう1点、近現代史の展示は民俗展示室での展示も加えて考えたとしても、それほど充実しているようには思えない。将来の課題であろう。
 別棟の歴史体験館は広く、体験メニューが充実している。交通の便のよいところに新設したならば、これだけの設備をつくることは難しかっただろう。体験は土日祝日に限られ、火起こし、勾玉づくりなど各45分~1時間という本格的なものである。申し込みは直接エントランスホールで受け付け、体験に参加しない、あるいは体験がない日でも、体験館の見学はできる。
 この博物館は、「I’Museum Center」という愛称がつけられているが、「Center」の意味は、市域全体をフィールドミュージアムと見なしているというところからつけられており、市内の遺跡、名所をめぐる地図、解説冊子の発行等にも熱心にとりくんでいる。

→ 市原歴史博物館(学部リンク)


*五井駅からバス(平日は小湊バス、土休日はシャトルバス運行)、原則月曜日休館

 

 

 

 

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栃木市立美術館
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