2020年に開館したミュージアムより

さいたま市岩槻人形博物館第2展示室
さいたま市岩槻人形博物館第2展示室

 

1 さいたま市岩槻人形博物館 (2月 開館)

 

 日本有数の人形の生産地として知られるさいたま市岩槻区に誕生した人形を専門とする公立のミュージアムである。5000点もの人形と関連資料を有し、その多くは、個人コレクションが寄贈されるなどして集まってきたものだそうだ。
 2つの常設展示室と1つの企画展示室からなる。すべてケース内での展示。照明の使い方がうまく、鑑賞しやすい。ガラスへの映り込みも少ない。
 展示のメインが人形という比較的小さな立体作品であり、複数を組みで展示することも多い。近世や近代の作品の展示もあり、着ている衣装も貴重な染織作品ともいえ、保存状態を保つためにも、照明には気を使わざるを得ない。また、真上からのライトのみであれば、影になってしまう部分ができやすく、逆につやつやした人形の肌は光の反射したりもする。こうした条件を勘案してのことと思うが、展示室はやや暗めとし、ケース内の照明、スポットライト、下からの補助的な光を調節しながら組み合わせて用いている。結果、美しい展示が実現している。
 受付横には小規模ながらミュージアムショップもつくられている。また、同じ敷地内に、同時に開店した「にぎわい交流館いわつき」がある。

 → さいたま市岩槻人形博物館(外部リンク)


*岩槻駅から徒歩。原則月曜日休館。

 

 

 

2 泰巌歴史美術館 (5月 開館)

 

 名前の泰巌(たいがん)は、織田信長の戒名の一部分なのだそうだ。その名が示すとおり、信長を中心とする歴史資料や美術に関するコレクションの公開と保存、研究のためにつくられた美術館である。
 ビルの1階から5階まで展示室が続く。1、2階の吹き抜けには原寸大で再現された安土城5、6層部分がそびえる。3階には信長をはじめ、織田一族やライバルの戦国大名などに関する文書類が展示されている。特に信長の命令書や書状は10通以上が展示され、信長の花押(サイン)やよく知られた「天下布武」の印が押されている。各文書には解説、本文、現代語訳をつけた大きな解説パネルが置かれ、どんな状況下で誰に対しどんな指令を出していたのかがわかり、信長の人となりに迫ることができる。ただし実物は数通で、他は複製品の展示。これは保存と公開の両立をはかってのことで、交代で実物を展示しているとのこと。
 4、5階は武具や茶道具の展示となっている。

 → 泰巌歴史美術館(外部リンク)


*町田駅から徒歩。原則月曜日休館。

 

 

 

3 たましん美術館 (5月 開館)/ PLAY! ミュージアム (6月 開館)

 

 東京の立川駅の北側には、かつては米軍立川基地が広がっていた。有名な砂川事件(1955年)の現場でもある。1977年に全面返還され、そのうちの立川駅北口近くのエリアはホテルやデパートなど11棟のビルが整然と建ちならぶ地区として開発され。ファーレ立川と名づけられた。建物に沿って現代アートの彫刻作品が多く設置されていることで知られる。
 そのファーレ立川に隣接する区域に、この度、たましん美術館とPLAY! ミュージアムが相次いで開かれた。結果、立川駅北口地区は一躍東京のアートスポットとして注目を集めるところとなった。
 たましん美術館は、多摩信用金庫が設立したたましん地域文化財団の美術館である。地域の金融機関を母体とする美術館というのは珍しく、長年にわたり多摩ゆかりの作家の作品などが収集されてきたことも貴重である。これまでは旧本社ビル内のギャラリーと青梅線御嶽駅の近くの展示館とに分かれていたが、それらを統合し、新たにつくられた本社ビル1階に開かれた。広さはそれほどでもないが、木の床、高い天井の落ち着いたスペースを確保している。
 一方、PLAY! ミュージアムは「絵と言葉」をテーマとし、大人も子どもも楽しめる美術館として誕生した。コレクションは持たず、2~3ヶ月ほどの期間で開かれる企画展示と約1年間通して行われる年間展示の2つの展覧会を並行して開く。企画展示は誰もが子どものころ1度は触れたであろう文学作品をテーマとするが、原画展で終わらせるのではなく、現代のアーティストがテキストを読み解いて再構築した作品を空間いっぱいに展開する。常設展示も著名な絵本を取り上げるが、こちらはその本の中に入り込んでいけるような展示となっている。
 併設されたショップやカフェも充実している。

 → たましん地域美術財団・美術  PLAY! ミュージアム(外部リンク)
  

*ともに立川駅から徒歩。たましん美術館は原則月曜日休館。PLAY! ミュージアムは原則無休。



4 長谷川町子記念館(長谷川町子美術館分館) (7月 開館)

  「サザエさん」「いじわるばあさん」で有名な長谷川町子とその姉の毬子が収集した美術品、工芸品を展示するために、1985年に長谷川美術館(のち長谷川町子美術館)が開かれた。受付でもらえるパンフレットを開くと、その間の経緯がマンガによって説明されている。町子と毬子は、作者が高名であるかどうかを問うことなく、ただ単純に惚れ込んで、そばに置きたいと強く願ったものだけを収集していった。やがて、美しいものをたくさんの人と分かち合いたいとの願いが芽生えて、美術館設立をめざしたという。なんと幸せなコレクションであり、幸せな美術館であろう。
 その美術館の敷地の向かいに、別館として記念館がオープンした。1920年生まれの長谷川町子の生誕100年を記念したものだそうで、明るく品のある空間に常設展示として町子の生涯をたどる展示、小規模ながら企画展示スペース、さらにショップやカフェもつくられている。入館は美術館と共通。

 → 長谷川町子美術館(外部リンク)


*桜新町駅から徒歩。原則月曜日休館。



5 角川武蔵野ミュージアム (8月プレオープン、11月開館)

 隈研吾が設計し、その偉容が話題となったミュージアムである。図書館、美術館、博物館の要素をあわせ持っていることや、巨大な壁面を覆いつくす本棚の様子など、メディアにもさまざまに取り上げられたので、ご存知の方も多いのではないか。
 複雑に角張る外観は、2万枚にもおよぶ石の組み合わせによるものである。石は中国で切り出され、形を整えた上で運ばれてきたものだそうだ。なぜそこまでするのかと思わないでもない。しかし、実際に近くで見ると、その存在感は極めて強い印象を残す。
 中は5階だてとなっており、2階がエントランス。スタンダードチケットで入場できるのは4階、5階部分であり、1階、3階にもギャラリーがあるが、こちらで行われる展覧会は別料金となる。
 4階は企画展示が行われるアートギャラリー、2万5千冊の本が並び自由に閲覧できるエディットタウン、荒俣宏のコレクションによる荒俣ワンダー秘宝館となっている。巨大な本棚に囲まれた空間は4、5階吹き抜けの空間につくられており、本棚劇場と名づけられ、時間を決めてプロジェクションマッピングも行われる。5階は地域をテーマとした武蔵野ギャラリーがある。

 → 角川武蔵野ミュージアム(外部リンク)


*東所沢駅から徒歩。原則第1・第3・第5火曜日休館。



6 セイコーミュージアム 銀座 (8月 開館)

 前身であるセイコー時計資料館は、同社の創業100周年記念事業として1981年、時および時計に関する資料の収集、保存、研究を目的として設立された。当初は墨田区の工場内にあり、公開は限定的なもので、社内の研究を主目的とする施設であったようだ。やがて移転し、一般公開がはじまり、セイコーミュージアムと改称、そして今回本格的な企業ミュージアムとなって改めてオープンということになった。
 銀座のビル内ということで、広さ、天井高はともにゆったりとることは難しかったのだろうが、ビルの地下1階から5階までを使い、各フロアごとテーマを掲げての展示は楽しく周遊できる。創業者、服部金太郎の事績を紹介するフロア、日本や世界の時計の歴史を実物やレプリカで紹介するコーナー、最新式の時計の技術やデザインの変遷の紹介など、興味のままに見学すればよい。10人が見学をすれば10通りの時間のかけ方で見ることになるだろうなと感じさせる、豊かな広がりをもつミュージアムである。
 パネルの説明も簡潔でわかりやすく、随所にモニターも設置して説明を補ってくれているのもよい。1階には小規模ながらショップも設置されている。

 → セイコーミュージアム 銀座(外部リンク)


*銀座駅、有楽町駅から徒歩。原則月曜日休館。事前予約制。無料。



7 印刷博物館 (10月 常設展リニューアル)

 開館20年を経て常設展示のリニューアルが行われた。
 これまでは世界の印刷の歴史と技術を全体のテーマとしていたが、リニューアルによって「印刷の日本史」をメインのテーマと定め、これに壁面を使った「印刷の世界史」と印刷の種類と技術を説明するコーナーを加えている。
 古代、中世には仏教の経典や美術とともに印刷が用いられたことから展示はスタートする。近世における江戸の印刷文化の発展の様子、近代となり、本格的な活字印刷技術のはじまりやお雇い外国人の役割というように、各時代ごとトピックによって印刷の発展がわかりやすく展示されている。

 → 印刷博物館(外部リンク)


*江戸川橋駅、後楽園駅、飯田橋から徒歩。原則月曜日休館。
 


8 ヨックモックミュージアム (10月 開館)

 お菓子メーカーのヨックモックグループが30年にわたって収集してきたピカソの陶芸作品を展示するための美術館である。
 展示室は2階と地下1階。地下展示室は床のタイルを含めて黒を基調にライトで作品の魅力を引き立てる。それに対して2階の展示室はがらりと雰囲気が変わり、木の床に白い壁紙で、外光を使い作品を見せる。
 展示はオリジナル作品と、ピカソの許可のもと職人に複製させた「エディション」と呼ばれる作品、そして若干の絵画や彫刻作品からなる。陶芸作品は形が面白く、色とデザインが奔放で、理屈抜きに楽しい。
 館のチラシによると、この美術館では専門のエデュケーターがいるらしい。欧米のミュージアムは作品の貸し出し業務を行うレジストラー、教育普及活動を行うエデュケーターなどの専門職がいて互いに協力し合うが、日本の学芸員は役割が分化せず何もかも担当しなければならないとは、何十年も前から言われ続けてきたことだが、この館においてはエデュケーターによって子ども参加のツアーなどが開催されるということのようだ。
 併設のショップ、カフェの雰囲気もとてもよい。

 → ヨックモックミュージアム(外部リンク)


*表参道駅から徒歩。原則月曜日休館。



9 渋沢史料館 (10月 リニューアルオープン)

 大河ドラマや新1万円札の肖像として最近になって広く名を知られた感もある渋沢栄一だが、その事績を紹介する渋沢史料館の開館は1982年にさかのぼる。渋沢の邸宅のあった北区飛鳥山に残る旧渋沢庭園内に建つ青淵(せいえん)文庫に関係資料を展示したのが本史料館のはじまりである。青淵は渋沢の号であり、青淵文庫は1925年に竣工された鉄筋コンクリートの建物で、栄一の書庫であり、接客の場でもあった。
 1998年、展示スペースの充実をはかり、青淵文庫の向かい側に新たに史料館本館がつくられた。今回、その展示が全体的に見直され、リニューアルされた。
 本館2階スペースを常設展示と企画展示にわけ、常設展示では渋沢の年齢ごとに展示ユニットを設けた。各ユニットは、その年の渋沢の事績とそれに関する説明、関連する実物資料、さらに詳しく知りたい時に開いて確認する2段の引き出し内資料からできている(ただし引き出しは感染症流行時には使用を停止)。これを見れば、ごく若年のころを除き、毎年毎年事績を残し続けたことが一目瞭然であり、渋沢の偉大さがよくわかる。日本資本主義の父と言われるのももっともである。年齢順に1つ1つたどることで、渋沢の生涯をよく理解することができる、たいへんわかりやすい展示といえよう。
 なお、青淵文庫と洋風茶室である晩香廬(ばんこうろ、1917年竣工)は重要文化財指定され、渋沢史料館の一部として公開されている。

 → 渋沢史料館(外部リンク)


*王子駅、西ヶ原駅から徒歩。原則月曜日休館。



10 葛飾区郷土と天文の博物館 (11月 2階常設展示室リニューアルオープン)

 常設展示室「かつしかの歴史」が、1年間の休室を経てオープンした。
 展示室は、とにかく明るくすっきりとまとめられている。地域の博物館、資料館はどうしても歴史や民俗資料がところ狭しと置かれている印象があるが、この博物館の展示室は白を基調とし、広々として気持ちがよい。
 各展示品には、それぞれの時代がわかる簡潔な説明が付される。展示は低い位置に置かれ、上面からだけでなく側面からも見え、児童や車いすの方でも見やすそうである。また、大きな画面のモニターがいくつも置かれて、展示を補っている。

 → 葛飾区郷土と天文の博物館(外部リンク)


*お花茶屋駅から徒歩。原則月曜日、第2・4火曜日休館。



11 WHAT MUSEUM (12月 開館)

 倉庫業を営む寺田倉庫が開いた美術館。コレクターや作家から預かっている作品を展示する。1、2階、それぞれ大きなホワイトキューブの空間を確保し、ゆったりと作品が展示される。
 美術館は所蔵品を核として展覧会を展開していくのが基本であるが、コレクションを持たずに展覧会ごとに作品の借用し企画展を行っていくギャラリーもあり、そのどちらかということになろう。ところが、WHAT MUSEUMはそのいずれとも異なり、倉庫業者の強みを生かし、日頃預かっている作品によって展覧会を開催していくのだという。まことに新しい発想であるし、倉庫に眠るさまざまな美術作品を広く展観する機会をつくってくれることはたいへんうれしいことだ。何より、一般の美術館と違って何が出てくるのか予測不能であり、実にわくわくする。
 なお、名称の「WHAT」はWAREHOUSE(=倉庫) OF ART TERRADA の略とのこと。

 → WHAT MUSEUM(外部リンク)


*天王洲アイル駅から徒歩。原則月曜日休館。

 

 

 

 

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角川武蔵野ミュージアム
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