2019年に開館したミュージアムより

鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム
鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム

 

1 国立歴史民俗博物館総合展示第1展示室 (3月 リニューアルオープン)

 

 国立歴史民俗博物館は6つの常設展示室と企画展示室からなり、それぞれの展示室が優に公立博物館1館分と思える大きさ、つまりとても規模の大きなミュージアムである。

 第1展示室は、今から約3万7千年前、今日の日本列島に人類が出現したときから10世紀までの長い歴史を対象としている。今回、この展示室が1983年の開館以来はじめて大規模にリニューアルされた。展示室の名称も「原始・古代」から「先史・古代」に変更され、生活・環境・交流・多様性といった視点を重視した展示となった。また、時代区分にとらわれない展示構成へと変更が行われた。

 時代区分にとらわれない展示とはどういうことか。もちろん、時代の流れ無視して展示を並べているわけではなく、全体の流れとしては、旧石器時代からはじまり、縄文、弥生、古墳、飛鳥・奈良・平安時代の順であるのは、歴史教科書の記述の通りである。ただし、この第1展示室は6つのテーマ(と2つの副室)で構成されているのだが、今回の展示の更新にあたり、テーマ設定を歴史の時代区分とは必ずしも一致しない区切りをもって構成することした。たとえば、旧石器時代と縄文時代の間でテーマを区切らず、旧石器時代と縄文時代草創来までを1番目のテーマ、縄文時代早期以後を2つめのテーマとしている。

 こうした構成としたことは、近年の研究の進展と大いに関係がある。従来、縄文時代は1万年前を若干さかのぼった時期にはじまる、そしてそれは最終氷期の終わりの時期でもあるとされてきた。しかし、縄文土器の発生はもっと早く、およそ1万6千年前と判明してきたのだという。すると旧石器時代と縄文時代の草創期はともに最終氷期中であったということになる。そこで今回の展示では、旧石器時代と縄文時代で区切ることをやめ、「最終氷期に生きた人々」としてテーマ設定が行われた。

 最新の研究によって時代の開始が従来よりずっとさかのぼるとされたのは、縄文時代だけではない。九州北部における弥生時代の開始もまた、従来は前4世紀ごろとされてきたものが、前10世紀くらいまで一気にさかのぼるという見解が登場している。そして、それ以後非常にゆっくりとした速度で稲作農耕を特色とする弥生文化が東北地方や関東地方へと伝播していったため、東日本では縄文時代、西日本では弥生時代という時期が数百年もの長きにわたって続いたというのである。従来ならば縄文時代の次は弥生時代として単純に区切られてきたものが、このように2つの時代が長々と並存したということを踏まえた上での展示はどのようにあるべきなのか。こうした課題に対しても目配りを行い、生活・文化を生み出した環境、時代と文化の多様性、周囲との交流といった視点重視の展示が試みられている。実に斬新で刺激的と思う。

 さて、この展示室内で特に充実している部分をあげるならば、それは「多様な縄文列島」のテーマの展示であると思う。縄文文化の地域性、縄文人の一生、家族像、特別な人びとの出現、資源の採掘、祖霊祭祀、災害への対応など、ありとあらゆる側面からその時代を生きた人々の姿を描き出しており、圧巻と言っていい。

 さて、この博物館の展示の魅力の1つが、大きくかつ詳細な模型による説明である。1980年代に開館した際には今以上に模型の存在感が際立ち、実物の展示が限られているために模型を多用するしかないのだろうとやや意地悪く思ったりもしたが、現在の展示は実物、レプリカ、説明、模型、映像が納まるべきところに納まっているように思う。

 ところで、「水田稲作のはじまり」のコーナーの中に高床倉庫の模型があるが、そこには猫の姿が。猫は、従来は奈良時代から平安時代にかけての時期に日本にもたらされたと考えられてきたが、弥生時代の日本にはもう存在していた可能性が指摘されているのだという。このように、展示の随所に最新の研究の成果がちりばめられている。とにかく楽しい。

 

→ 国立歴史民俗博物館(外部リンク)

 

 

*京成佐倉駅から徒歩。原則月曜日休館。

 

 

 

2 鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム (6月 オープン)

  神奈川県立近代美術館・鎌倉別館 (10月 リニューアルオープン)

 

 鎌倉館、鎌倉別館、葉山館の3館体制で運営してきた神奈川県立近代美術館のうち、2016年3月に閉館した鎌倉館の建物をリニューアルし、鶴岡八幡宮のエントランス展示館として開館したものが鎌倉文華館 鶴岡ミュージアムである。

 神奈川県立近代美術館の誕生は1951年。戦後の公立美術館の先駆けとなるものであった。鶴岡八幡宮境内というすばらしい立地で、意欲的な展覧会が次々と行われた。展示室を出たら出たで、テラスに揺れる池の水面の反映、2階から見下ろす中庭、小さいが心休まるカフェなど、どこからどこを見てもすばらしい美術館であった。

 県立美術館としての役割は閉じたが、新たな活用がなされることになってことは本当に喜ばしい。入口は八幡宮の参道側に変更された。建物は外壁や床など美しくよみがえった。

 

 一方、神奈川県立美術館鎌倉別館は1984年の開館。鎌倉館の展示スペースや収蔵庫が手狭になったことからつくられた別館で、八幡宮から北鎌倉に抜けて行く県道沿いの西側、丘陵をバックにしている。もともと鎌倉館を補う目的でつくられたものであるために展示室もそう大規模なものでなく、展示も版画作品など、館蔵の比較的小品の展示が行われることが多かった。正面から見るとなかなかインパクトある姿をしているのだが、全体的には地味な印象であったことは否めない。今回約2年間のリニューアル工事が行われ、壁面や照明が改められ、今後の鎌倉のアートシーンを担う新たな拠点として期待される。ただ、リニューアル前は展示室壁面は木であったと記憶するが、それが今回白色の壁紙に変わったのは、使い勝手はよくなったのだろうが、私としては残念に思う。

 リニューアルに際して、1階にカフェが新設された。小さいが、明るいスペースでとてもよい。

 

→ 鎌倉文華館鶴岡ミュージアム 神奈川県立近代美術館(外部リンク)

 

 

*いずれも鎌倉駅から徒歩。原則月曜日休館

 

 

 

3 福田美術館 (10月開館)

 

 京都の実業家が収集したおよそ1500点の日本絵画を順次公開。近世、近現代の絵画で、京都で活躍した画家の作品が多く、保存の状態もよく、堪能できる。

 嵐山の渡月橋にほど近い保津川(桂川)の北岸にある。L字形の建物が水を使った庭を抱くようにして建ち、南面する廊下や階段の雰囲気も素晴らしい。

 展示室は1階に1つと2階に2つ。メインとなる2つの展示室は暗い室内にライトを効果的に用いて展示を引き立てており、廊下から展示室に入る際に短いエントランスをくぐることで、明るい廊下から暗い展示室に目を慣らし、気持ちを切り替えて入る。とてもよい。

 併設されているカフェも居心地よい。

 

→ 福田美術館(外部リンク)

 

 

*嵯峨嵐山駅または嵐山駅から徒歩。原則火曜日休み。

 

 

 

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福田美術館
福田美術館