2016年に開館したミュージアムより

多治見モザイクタイルミュージアム
多治見モザイクタイルミュージアム

 

1 奈良国立博物館・なら仏像館 (4月リニューアル・オープン)

 奈良国立博物館は場所柄、古代・中世の仏像や仏画などが多く所蔵、寄託され、仏教美術の名品と出会える博物館として根強い人気を誇っている。中心的な建物は本館(なら仏像館)と新館だが、このうち本館は、1894年、近代日本を代表する建築家である片山東熊の設計によりつくられた。東京・京都・奈良・九州の4館の国立博物館中、最も古い建物である。
 新館ができる以前は、常設展示のほか、秋の正倉院展などの特別展も本館で開催していた。1972年の新館開館後、本館は常設展示の専門館となった。
 その後、新館との連絡通路が設けられたり、入口が西側から東側へと変わったり、名称も「なら仏像館」と変更されるなど、時代とともにさまざまな変化もあったが、基本的な展示のあり方は開館以来変わることはなかった。それが今回、展示空間にはじめて大きな変更が加えられることになった。

 だが、奈良国立博物館本館は建物自体が重要文化財指定を受けている。従って、直接に改変の手を加えることはできない。そこで壁面の内側に入れ子のようにして新たに内壁を設置することとし、その上部にはルーパー状の梁を設け、照明器具を取り付けることで、理想的なライティングを実現した。加えて中央の3つの大きな展示室ではガラスケースなしでの展示を行うこととした。展示位置もなくべく低くし、距離感がぐっと近く感じられるようになった。
 一方、その周囲の比較的小さな展示室では、以前同様壁付きの展示ケースでという形が踏襲されている。しかし、ケースや照明が改善され、こちらもとても見やすくなった。また、動線も整理されて、観覧しやすくなった。

奈良国立博物館(外部リンク)


近鉄奈良駅から東へ徒歩約10分。原則月曜日休館。



2 多治見市モザイクタイルミュージアム (6月開館)

 岐阜県多治見市はやきものの産地として有名なところである。なかでも市の東南部にある笠原町はモザイクタイル(1枚の表面積が50平方センチメートル以下のタイル)の生産地として、全国一の生産量を誇っている。このモザイクタイルという一見地味だが味わいのある地場産業の製品について、その歴史、技術、文化を伝えるユニークなミュージアムが誕生した。

 

 設計は建築学者であり建築家でもある藤森照信さん。実に面白い建物となった。

 正面から見ると、土がこんもりと盛り上がる土の塊のようなものと対峙することになる。これがミュージアムの本体である。一般的にイメージするようないかにもミュージアム然とした建物からはかけ離れた姿をしている。

 入口へと続く道をだらだらと下って、小さな扉を入るとそこが1階。受付でまず4階まで上がるよう言われる。

 風呂場、洗面所といった場所に多くの用いられたモザイクタイルは、建物が老朽化して取り壊されると、運命を共にすることが多い。従って、意志を持って残そうと思わないと残らない。このミュージアムの4階は、すんでのところで助けられ、このミュージアムで「第2の人生」を送ることとなった懐かしいモザイクタイルの作品が並ぶ空間となっている。そして、ここには何と天井に大きな穴が。この階は全体がタイル張りでつくられているので、雨が降っても陽にさらされても大丈夫というわけである。
 3階では笠原地区およびタイルの歴史と文化を学び、2階ではさらにタイルについて理解を深めることができる展示となっている。1階はワークショップが開催できる空間とショップがある。ショップではタイルを詰め放題で販売していたりもする。とにかく何から何まで楽しい。

多治見市モザイクタイルミュージアム(外部リンク)


多治見駅前(南口)より東鉄バス笠原線東草口・曽木中切・モザイクタイルミュージアム行きにて「モザイクタイルミュージアム」下車。原則月曜日休館。



3 藤沢市藤澤浮世絵館 (7月開館)

 藤沢市は1980年、市内の江ノ島に関連する浮世絵の寄贈を受けた。これがきっかけとなり、その後も継続して郷土に関係の深い浮世絵や古地図、図書資料や写真などの収集を続けた結果、2,000点ほどの浮世絵及び関連資料が集まった。そこでこの度、これらを展示するための施設がオープンした。新しく建物を設けることはせず、JRの駅からほど近いビルの中である。
 浮世絵は保存上の観点から、長期間の展示が難しい。そこでこの館では、場所、人物、作者などを切り口にテーマをたてて、1ヶ月~2ヶ月をスパンに展示替えをを行っている。

 そのほか、映像による解説があったり、ワークショップを開催したりと、なかなか活発に活動を行っている。

→ 藤沢市藤澤浮世絵館(外部リンク)


JR東海道線辻堂駅より北へ徒歩5分。入館無料。休館日は原則月曜日。



4 春日大社国宝殿 (10月 旧宝物殿を改築、オープン)

 奈良の春日大社は、藤原氏の氏神として大いに栄えたこともあって、全国の神社の中でも最も多く文化財を所蔵しているそうだ。その保存と公開のための施設として、1973年に宝物殿が設けられた。設計にあたった谷口吉郎は、他にも東京国立博物館東洋館や東京国立近代美術館本館などミュージアム建築も多く手がけた建築家著名な建築家である。
 白を基調としたシンプルな外観で、モダンな雰囲気を出しつつも、基本的には土蔵の堅牢さを感じさせる2棟の建物を平行に配し、その間をつなげて、上から見ると変形のHの字の形をしていた。1階はエントランス、ピロティ、倉庫とし、2階が展示室であった。

 

 開館から40年以上がたち、倉庫の容量が不足するとともに、耐震性にも不安があることから、リニューアルされることになった。2015年1月より閉館し、1年半以上をかけて全面的に改装。設計にあたったのは弥田俊男。名称も変更されて、春日大社国宝殿となった。

 大きな変更点としては、旧宝物殿のH字型のくぼみ部分を建物に取り込んだことである。それとともに、1階のピロティと倉庫部分について、全面的に変更を加えた。ピロティは、映像と音による体感的な作品を展示するための部屋に生まれ変わり、メイン展示室の階下の倉庫はカフェに変わった。倉庫はH字の横棒の後ろ側の増築部分へと移し、前面の増築部分はだ太鼓と呼ばれる巨大な2つの太鼓を展示するための専門の空間とした。
 このだ太鼓の展示室は外から入る光で美しく彩られ、また閉館後は逆に中のライトが外へと漏れて、あたかもミュージアムの内と外とが呼応するようにとつくられている。さらに、館の前の空間を整備することで、内外の一体感はさらに高まった。
 向かって左側建物の2階をメイン展示室とし、左右をつなぐH字の横棒にあたる部分の2階が小展示室となっている。この基本的な配置は旧宝物殿以来のものである。

 以上のように、今回行われたリニューアルは、古い建物のもつ存在感は生かしつつ、手狭さの解消と耐震補強を実現させ、さらに新たな魅力を加えたものといえる。
 1970年代以後、日本の経済発展にともなって全国にたくさんのミュージアムがつくられたが、それらの多くが改築を必要とする時期に来ていると思われるが、この春日大社国宝館はリニューアルの成功例として高く評価できると思う。

→ 春日大社ホームページ・国宝殿(外部リンク)


近鉄奈良駅より東へ徒歩約25分。JR・近鉄奈良駅などからバス便あり。



5 すみだ北斎美術館 (11月開館) 

 葛飾北斎が生涯の大半を過ごしたゆかりの地、東京都墨田区。ここに北斎とその門人に関する美術館をつくるという構想は20世紀後半からあったが、それが遂に実現。収蔵作品は約1800点。地元でも待ち望まれた美術館とあって、初年度来場者として見込んでいた20万人を半年足らずで達成してしまった。

 とにかく建物がすばらしい。
 1階はエントランスとショップ、図書室、講座室だが、その間は自由に歩ける通路となっており、四方どこからでもアプローチが可能である。
 2階は収蔵庫など。3階・4階が展示室で、4階の一部を常設展示室とし、企画展示室を広くとる一方、吹き抜けや休憩ができるスペースも十分にとっている。
 どの階も同じ形ということがなく、スリットを入れたり壁が斜めになったりしながら建物が組み上がっている。変化に富んだ外観は、やわらかなアルミパネルで仕上げられている。見ほれる格好のよさと言っていい。

 ただし、残念なところもある。1階と3階のトイレは小さく不便である(地下にもトイレはある)。エントランスからはエレベーターでしか展示室に上がることができず、2基のエレベーターはいずれも小さい。
 常設展示室は狭く、北斎の人生に沿って作品が並べられているほか、浮世絵の説明、北斎の住居の復元、解説のためのタッチパネルと、とにかく詰め込み過ぎのきらいがある。また、来館者と展示作品との間に設置された太い手すり(?)の先に覗きケースが置かれて草紙類などが展示されているものがあり、これは車椅子の来館者にはまったく見ることができないように思われる。
 一方、企画展示室は白を基調とした明るい部屋となっている。 

→ すみだ北斎美術館(外部リンク)


JR・都営地下鉄線両国駅から東へ徒歩5~10分。原則月曜日休館。

 

 

 

 

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春日大社国宝殿
春日大社国宝殿