2013年に開館したミュージアムより

市原湖畔美術館
市原湖畔美術館

 

 

1 国立歴史民俗博物館第4展示室 (3月リニューアルオープン)

 

 国立歴史民俗博物館(「歴博」)は、千葉県佐倉市にある研究、展示機関である。1981年に発足し、展示スペースは1983年より順次公開された。

 常設展示室は6室あり、第1室が原始・古代、第2室が中世、第3室が近世、第4室が民俗、第5室が近代、第6室が現代となっている。展示室のそれぞれはおよそ県立の博物館レベルの広さがあり、全部の展示をじっくり見ようとすると、かなりの時間と体力が必要となる。このほかにそれほど広くはないが、企画展スペースがあり、年数回開催がある。

 

 第6室・現代展示室がオープンしたのが2010年。これをもってようやく常設展示が揃ったのだなと思ったのもつかの間で、同年、民俗展示室が展示替えのための休室に入った。

 「歴博」は研究と展示を総合的に行う機関なので、最新の研究成果を展示に反映させることが求められる。そしてそのためには一定期間をもって展示をリニューアルしていかなければならない。これは「歴博」の宿命ともいうべきことらしい。

 

 民俗展示室の旧展示は1985年に公開されたので、約25年間展示が続いたことになる。構成を中心となって担ったのは民俗学者・坪井洋文で、「日本人の民俗世界」を全体テーマとし、「都市の風景」「村里の民」「山の人生」「海浜の民」「南島の世界」「再生の世界」という5つのテーマを設定。高度成長期が終わって社会の画一化が進む中、かつての多元的で豊かな日本の民俗を展示することで、現在を問い直し、もって未来に資する。これが坪井の思いであったという(『月刊文化財』No.258(1985年3月)もご参照ください)。

 その展示は、天井高を十分にとった博物館の空間を存分に生かして、日本各地のユニークな祭りの風景を実物大で表現するなど、実にダイナミックで魅力的なものとなっていた。

 

 そのかつての展示が、ほとんど作り替えられた。

 今回の展示でまず目に入ってくるのが、年末になるとデパートで販売されるおせち料理のレプリカである。数万円の値段がついているものも多く、「三越限定」といった文字も。年が改まる、その儀礼をどう読み解くかはまさに民俗学の重大なテーマであるが、それが今や大規模小売り業界にとりこまれ、重箱の中へと矮小化され、消費者の購買意欲をひたすら刺激するよう奉仕させられている。しかし見方を変えれば民俗学の世界が都市の消費文化の中へと拡張していっているとも言えるだろう。

 続いて現れる、みやげ物や観光資源の中の民俗文化、世界遺産登録によって保護される一方で変容する地域、また伝統を現代に生かす新たなアイヌ文化の試み、現代社会の中に生きる呪術的なしぐさなどの展示も同様である。

 すなわち、旧展示が過去から現在を照射するという視点を強く持っていたのに対して、今回リニューアルされた展示は、今という時代の中に息づく民俗を丁寧にすくい上げているといった感がある。

 目を奪われるという点では、旧展示がまさる。しかし、視点の鋭さ、気づかされる楽しさということで言えば、今回の展示は大変すぐれている。

 

国立歴史民俗博物館(外部リンク)

 

 

*千葉県佐倉市城内町 117、原則月曜日休館

 

 

 

 

2 市原湖畔美術館 (8月開館)

 

 1995年につくられた「市原市水と彫刻の丘」を大幅に改修し、オープンした施設である。

 場所は房総半島のほぼ中央部。

 市原市は千葉県の中でも最大の面積を持ち、沿岸部の五井地区などは東京湾に面した京葉工業地帯、一方内陸部人口は少ない。バブル期の最後のころ、そこにダムがつくられ、人造湖ができた。ついでにというと語弊があるが、そこに野外彫刻を設置して展示のスペースも設けようということになった。

 しかしまもなくバブルは崩壊、水と彫刻の丘の建設は未完に終わって変にデッドスペースのある展示施設が残され、次第に訪れる人も少なくなった。

 あるいはそのまま終わりとなる施設だったのかもしれない。そういうバブル期の置き土産はもしかしたら全国にあるのではなかろうか。

 しかし、この地区の人口がじりじりと減少し、近くの小学校が次々と閉校していくに及んで、改めて地域のつながりを生み出す核が必要だという話になり、この施設を大規模改修してよみがえらそうということになった。

 

 結果、もとからあった施設の構造は生かし、周囲の環境との一体化を大切に、回遊性のある新しい美術館を開くことが決まる。コンクリートを覆っていた仕上げ材や塗装などはすべてはがし、あらためて透明なコーティングを行った。「コンクリート打ち放し」ならぬ「コンクリートはがし放し」である。また、壁面には鉄板を折り曲げた建築材を「アートウォール」として用い、ユニークな外観を生んでいる。

 展示は年間数回の企画展示と、市原市ゆかりの美術作家の作品を展示する常設展示室、そしてかつての施設からうけついだ野外彫刻作品である。

 

 最寄り駅は小湊鉄道線の高滝駅で、徒歩約20分。駅の南側で線路を越えて東へ、間もなく人造湖である高滝湖を跨ぐ加茂橋に至る。この橋の上から斜め右手に湖畔に建つこの美術館が見えてくる。湖の中につくられた大きな彫刻作品(かげろうのオブジェ)も見える。すばらしいロケーションである。

 敷地にあるレストランも快適。

 バブルの負の遺産から地域の新たなつながりの鍵へ。このユニークなミュージアムのこれからの歩みを見守りたい。

 

市原湖畔美術館(外部リンク)

 

 

*千葉県市原市不入 75-1、原則月曜日休館

 

 

 

 

3 岡田美術館 (10月開館)

 

 箱根・小涌谷、かつて外国人向けホテル「開花亭」があった場所に、主として日本および東洋の古美術を展示する「岡田美術館」がつくられた。パチスロ機・パチンコ機などを製造する会社の取締役会長、岡田和生氏が収集した美術品を展示する美術館である。

 かつては根津、五島のように鉄道の会社、出光の石油会社といった具合に、その時代時代で富が最も集まって来る業種がある。そのオーナーが美術の収集に熱を入れ、かつ自分が楽しむだけでなく多くの人に見てもらいたいという気持ちを持てば(税金対策も兼ねつつ)、美術館が誕生する。そして今、その業種はパチスロであるというわけである。

 

 とにかく大きい。5階建てで、最上階(5階、仏教美術の展示室)だけは面積が小さいが、4階までの各フロアはこれでもかと展示が続く。半日時間をとって、休みも入れながら見るのがよいようだ。

 コレクションは中国、朝鮮、日本の陶磁器と日本の近世・近代絵画である。陶磁器は、各時代とジャンルの名品を網羅する(ただし茶陶は範囲外らしい)。先行する東洋美術専門の美術館が名品を集めきってしまったのではと漠然と考えていたが、なかなかどうして、非常に高い質の作品をまじめなスタンスで集めている。

 

 見せ方も真摯である。基本部屋全体は暗くし、上方からのライトでしっかりと照らす方式だが、ガラスも見えやすいものを使い、安定が悪いものを除いてテグスによる固定もなるべく避けて、ほんとうに見やすい。こうした展示方法、内装、外観のすべては、美術館の生みの親である岡田氏の意向に添ったものであるという。

 1、2階は陶磁、3階は絵画、4階は時代やジャンルを問わず、モチーフを同じくするものを集めて特集展示をこころみていた。全体に、美しいものの魅力や面白さを最大限伝えたいという熱意がある美術館である。

 入場料は一般2800円と、多くの美術館入場料と比べれば相当高めである。また、入口ではセキュリティチェックがある(携帯電話を所持しての入場は不可)。

 前庭には足湯もあり、入館者は無料で入ることができる。

 

参考:『芸術新潮』2013年12月号

 

岡田美術館(外部リンク)

 

 

*神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1、12月31日と1月1日は休み

 

 

 

 

4 朝倉彫塑館 (10月リニューアルオープン)

 

 朝倉文夫(18831964)は、日本の近現代を代表する彫刻家である。

 1907年に東京美術学校を卒業した朝倉は、谷中の地に住居を構え、生涯ここで仕事に打ち込み、また生活を営んだ。その間増改築が繰り返され、アトリエ兼住居に加えて後進育成のための彫塑塾も開かれた。3階部分まで吹く抜けとしたアトリエ、湧き水を利用した中庭、日本風の住居部分、さらに屋上庭園や温室も朝倉自身の手でつくられたのだが、雑然とした印象はなく、全体的な調和がよくとれている。

 

 朝倉の死後、1967年より一般公開され、1986年からは台東区立の博物館となるも次第に老朽化が進み、修理や耐震の補強が必要になる。2009年より4年の歳月をかけて、朝倉晩年の1960年ごろの姿に復原するとともに、必要箇所を修復、補強をはかった。「台東区渾身のリニューアル」だそうで、例えば床の木材を1枚ずつ組み戻す、壁材も洗浄して塗り直すという徹底ぶりであった。

 このリニューアルによって、朝倉文夫がこだわって作り上げた空間や建物の姿を、彼の大小の彫刻作品とともに、じっくりと見学できるようになった。

 

台東区立朝倉彫塑館(外部リンク)

 

 

*東京都台東区谷中7-18-10、原則月曜日、金曜日休館

 

 

 

 

5 アーツ前橋 (10月開館)

 

 前橋市は日本の県庁所在地の中で唯一公立美術館がない市であったそうだ。その前橋に待望の美術館がオープン。JR前橋駅から北へ徒歩10分、上毛電気鉄道の中央前橋駅からは徒歩5分の町中にある。実はここ、もとデパートだったという。

 その建物をそのままリユース。1階のショーウィンドウのカーブもそのままに、2階以上には外壁に洗練された金属面をとりつけて、とても格好いい。

 

 中に入ると、エスカレータを撤去して吹く抜けとし、地下展示室は回遊性を重視しつつ、大小の展示空間をうまく組み合わせている。白い壁面、木の床はスマートで、かと思うと建物の太い梁をそのままむき出しにしていたりと、メリハリを生かす。あちこちに壁に窓がついて隣の空間が見えるようにして閉塞感をなくすなど、行き届いた空間構成がとても魅力である。今の日本で最もスタイリッシュな美術館といえるのではないか。

 参加型のイベントもさかんにおこなわれている。

 ショップ、カフェも充実。

 

アーツ前橋(外部リンク)

 

 

*群馬県前橋市千代田町5-1-16、原則水曜日休館

 

 

 

 

 

→ 次のおすすめミュージアムを読む   おすすめミュージアムトップへ

 

 

アーツ前橋
アーツ前橋