2008年に開館したミュージアムより

十和田市現代美術館(夜間)
十和田市現代美術館(夜間)

 

1 DIC川村記念美術館(3月リニューアルオープン)

 

 川村記念美術館は、DIC株式会社(旧名 大日本化学工業)を親会社にもつミュージアムである。場所は千葉県佐倉市内で、JR佐倉駅、京成佐倉駅から送迎バスが出ている。

 決して交通の便がよいとはいえないし、都内の数千点を蔵する大美術館に比べれば収蔵品の点数もそれほど多くはない。にもかかわらず常に人が入っている。非常に成功している美術館のひとつといえる。センスよい展覧会、建物、庭園と三拍子揃った美術館であるためであろう。

 その川村記念美術館が約8ヶ月間の休館を経て、リニューアルオープンした。展示スペースが約1.5倍となり、館蔵品の展示も企画展示もともに十分に行えるようになった。

 常設展示スペースでは、特に2階に新たに設けられた「ニューマン・ルーム」がすばらしい。ここにはバーネット・ニューマンの大作「アンナの光」が一点だけ展示され、その左右からは自然光が入ってくるようになっている。特に開館後すぐの時間に横から入る光の中で見るこの作品は格別と思う。

 

→ DIC川村記念美術館のホームページ 

 

*休館日は原則月曜日、ほかに年末年始休み。住所は、千葉県佐倉市坂戸631

 

 

 

2 十和田市現代美術館(4月開館)

 

 これまでの美術館の常識の逆をゆく美術館である。

 青森県十和田市の中心街にある美術館なのだが、道路からガラスを通して一部の作品が見える。入場料を払っていない、ただ外を歩いている人にも中が見え作品が見えるというのは、ちょっと不思議な感じがする。

 丘の上にそびえるような立地、いかめしい神殿のような建物でなく、道路に沿って白い積み木の箱のような建物が連なった軽やかな配置でつくられている。一時流行った、どんな展覧会にも対応できるよう大きな空間を仮設壁で仕切って使う建物ではなく、大小の四角い建物が連結して、入るとそれぞれにひとつずつ常設展示のアート作品が入っている。まず建物ありきのハコもの主義でなく、作品と建物が結びついて進められた美術館である。

 そして、この常設のアート作品がまた面白い。自治体がつくる美術館では、近現代の美術を代表する作家の作品を教科書に如くにならべ、かつ郷土と関連がある作家の作品を加えるといったどこからも文句のつけようのない収集方針をたて、結果的に没個性的なものになってしまうことがある。しかし、この美術館では同時代の勢いのある作家の作品を思い切って集めて、魅力ある展示をつくりあげている

 日本の美術館では、特別展では人が集まるが常設は話題にのぼらないということが多い。しかし、この美術館は、企画展スペースもあるが、あくまで常設展示を中心とし、開館以来集客を続けている。

 

 ところで、この美術館を構成する大小の白い建物は、日没とともに色彩の衣をまとう。ピンク、オレンジ、青、緑、紫、黄色などさまざまの色のライトが当てられ、美しい。実はこの色とりどりの照明によるライトアップもこの美術館のアート作品のひとつで、季節ごとバージョンが変わり、夜9時まで行われる。

 なお、この美術館は2008年に開館したが、市が進めるアートによるまちづくりプロジェクト「Arts Towada(アーツトワダ)」はまだ継続中である(2005年から5年間)。道路をはさんで美術館の向い側のアートの広場は整備中で、2010年に完成とのことである。

 

→ 十和田市現代美術館のホームページ 

 

*原則月曜日休館。最寄り駅は十和田観光電鉄十和田市駅。青森県十和田市西二番町10-9

 

 

 

3 ハラミュージアムアーク「觀海庵」(7月オープン)

 

 ハラ ミュージアム アークは東京の原美術館の分館である。東京の本館と違って広い空間の中にあり、黒い木材による3棟の展示室を放射状に配した魅力的な美術館である。木は外観部分のみではなく、正真正銘の木造建築という贅沢な美術館である。たてものは磯崎新アトリエ。

 20周年となる節目の2008年、1棟展示室が加わった。今までの展示室がa,b,cと名付けられていたのに対して、この新しい展示室は「觀海庵」と命名され、古美術と現代美術を共に展示するスペースとして誕生した。古美術と現代美術が出会う場としたことは、コレクションの特色を生かした展示といえる。

 原美術館の所蔵品は、現代美術と近代の実業家・原六郎のコレクションである東洋古美術からなる。しかし、原美術館もハラ ミュージアム アークも現代美術館であって古美術の展示空間は設けられてこなかったが、この觀海庵の登場によって古美術のコレクションも合わせて見ることができるようになった。ただし日本画などの古美術はデリケートなものが多く、毎月展示替えをするそうだ。

 この展示室に入るのには、観覧者自らが扉を開ける必要がある(これは従来のa,b,cの展示室も同じであるが)。わくわくする仕掛けと思う。

 中は暗い。これは展示品である古美術の保護のためもあるだろうが、スポット的な照明を効果的に用いるためでもある。ただし、暗いといっても決して陰鬱な感じでなく、またスポット照明といっても劇的すぎるような使い方はしていない。照明はムラがなく、作品を大変美しく見せている。また、ガラスのうつり込みもほとんど気にならない。

 

 ガラスケースの中の作品を鑑賞するとき、どうしても気になるのがこのガラスのうつり込みである。特に大きな作品の場合、少し下がって見たいと思うとガラスに室内の照明、後ろの展示ケース、また自分の姿までうつってしまい、なかなか集中できないということがある。白い服だと特によくうつってしまうので、展覧会に行く時には黒い服を選んで着たりしたものである。

 これを解決する方法としては、ガラスを改善するというのがひとつ。例えば鎌倉の神奈川県立美術館本館で、壁付きのガラスケースには角度がつけられているが、これはうつり込み対策を施した早い例と思われる。

 そして、より重要なのが照明をどう使うかということである。昨今ミュージアム照明の進化は著しいが、このハラ ミュージアム アークの觀海庵は、現時点での決定版ともいえる優れた照明によって作品の美をみごとに引き出している。

 

2021年、東京にあった原美術館と統合し、原美術館ARCとなった。

 

→ 原美術館ARC ホームページ

 

*休館日は原則木曜日と展示替え期間、冬季。 渋川駅から伊香保温泉行き関越交通バスにて「グリーン牧場前」下車、徒歩約10分。住所は群馬県渋川市金井2855-1  

 

 

 

4 めぐろ歴史資料館(9月オープン)

 

 前身は区の教育会館内にあった郷土資料室。かつて中学校だった建物を用い、常設展示室のほか企画展示室が別に設けられ、本格的なミュージアムとして生まれ変わった。

 常設展示は、旧石器時代から現代までの地域の歴史を通観するというよくあるタイプのものであるが、1点、目玉となる展示がある。それは富士塚胎内洞窟の復元展示である。

 江戸時代、富士山のミニチュア版である富士塚が江戸やその周辺で盛んにつくられた。土を盛り、頂きには祠を安置し、実際の富士山の溶岩を並べ、その間に登山道をつくるという凝ったもので、富士登山が出来ない者は富士塚にのぼって富士参詣の代わりとしたわけである。目黒区にも2つの富士塚があり、広重も浮世絵でその姿を描いている。どちらも19世紀初期につくられ、20世紀前半に取り壊されてしまった。

 富士山のふもとには洞窟があり、参詣の帰りに洞窟をくぐるとご利益が増すと考えられていたそうで、それにならって富士塚にも穴をつくることがあった。しかし何ぶんミニチュアのこと、実際くぐれるほどの穴までつくったところはないと考えられていた。

 ところが1991年の調査で、目黒の2つの富士塚のうち東富士跡の隣接地から、実際に人が入れる大きな洞窟が発見された。内部の一番奥には祠がまつられており、胎内洞窟であることは確かであるが、奇妙なことに祠の前の床下に大日如来石造が入念に隠されていたという。その意味するところは明らかでない。

 この資料館では、胎内洞窟の様子を実物大で復元するとともに、石造仏を展示している。地下から見いだされた江戸時代の謎、わくわくする展示である。

 入館は無料。

 

→ 目黒区めぐろ歴史資料館(目黒区ホームページ) 

 

*休館日は原則月曜日と年末年始。最寄り駅は中目黒。住所は東京都目黒区中目黒3-6-10

 

 

 

 

→ 次のおすすめミュージアムを読む   おすすめミュージアムトップへ