2006年に開館したミュージアムより

ICC
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1 日本航空安全啓発センター(4月開設)

 

 日航社員を対象とする研修のための施設であるが、一般にも公開されている。ただし、事前予約が必要。解説の方がつき、約1時間で見学することができる。内容は、主として、1985年8月に起きた日航機の御巣鷹山墜落事故の事故機の残骸や遺品等の実物資料と解説のためのパネル・映像である。

 満席に近いジャンボ機が羽田を発ってまもなく操縦不能となり、30分ほどの迷走ののちついに群馬県の御巣鷹山の尾根に墜落。乗務員は全員死亡し、乗客で助かった方はわずか4人。航空事故史上最大の惨事となった御巣鷹山事故は多くの人にとってまだ記憶に新しいのではないか。しかし、あの衝撃からもう20年以上が経過している。

 事故直後より原因究明がなされ、機内後部にある圧力隔壁の修理ミスと、その後の点検でそのミスが見過ごされ続けたことがわかった。展示室の最初の部分は、事故のあらましについて解説と落下した垂直尾翼等であり、それに続いてこの圧力隔壁が展示されている。修理ミスについてもきちんと図示されている。

 展示品の中で、最も衝撃的なのは、展示室の一番奥に置かれた旅客機の椅子である。物凄い力が加わってひしゃげてしまった椅子にも人が座っていたのである。正視することが本当につらい。

 こうした展示を行い、一般にも公開するという決断までには、社内で様々に議論があったことと思う。後世に伝えることは文章や写真がもできるが、しかし本当の意味で事故の記憶を風化させず、再び事故を起こさないためには実物を残し、展示するということにしくはない。ユネスコの世界遺産の中には美しい、素晴らしいものだけでなく、アウシュヴィッツ強制収容所や奴隷貿易の基地であったセネガルのゴレ島、そして原爆ドームといった人類の「負の遺産」を未来に残そうとするものがあるが、この日航の安全啓発センターの展示もそれに通じるものであると思う。大切な試みである。

 

付記) こうした施設が必要と提言したのは「失敗学」を提唱している畑村洋太郎氏(工学院大学)だそうだ。詳しくは『だから失敗は起こる』(NHK 「知るを楽しむ」テキスト、2006年8−9月号)を参照のこと。

 

→ 日本航空安全啓発センターのホームページ 

 

*開館日は祝日・年末年始を除く平日。見学の申し込みは電話03-3747-4491。住所は東京都大田区羽田空港1-7-1空港施設(株)第2綜合ビル2階、最寄り駅は東京モノレールの整備場。

 

 

 

2 NTTインターコミュニケーションセンター(ICC) (6月リニューアルオープン)

 

 ICCは1997年に日本電信電話株式会社(NTT)によって設立され、現在はNTT東日本によって管理・運営されている先端メディアアートのミュージアムである。開設以来アートとテクノロジーの融合や最先端技術を駆使した新しい表現を発信し、また、そうした分野を切り開くアーティストにとって重要な発表の場となってきたが、今回、新たな活動コンセプト「OPEN!」を掲げてリニューアルを果たした。

 今回のリニューアルでは、単なる展示施設にとどまることなく、人と情報が活発に交流する拠点となることをめざすとして、常設展を無料化して、ラウンジやシアターとともに開かれたコミュニティ・スペースとして利用者に提供することとした。また、常設展の充実をはかり、年1回展示替えをしていく方針という(このほかに有料の企画展も随時開催)。

 この館の優れたところは、スタッフが多く会場にいて、展示の鑑賞のサポートをしてくれることである。新たな技術を用いて作られている作品で、はたらきかけることによってさまざまな可能性が開かれるタイプのものの中には難しいものがある。ゲーム機世代の若者と違って、熟年以上の鑑賞者はアプローチが困難であることが往々にしてあり(私です!)、そんな時スタッフのサポートは有り難い。複数で行くと、さらに楽しい施設である。

 

付記) ICCは存続が危ぶまれた時期があった。その経緯は、『美術館の政治学』(暮沢剛巳、青弓社ライブラリー、2007年)を参照のこと。

 

→ ICCホームページ 

 

*住所は東京都新宿区西新宿3-20-2、東京オペラシティタワー4階、最寄駅は京王新線の初台。月曜日のほか、年に何回はビルの保守点検のための休館日がある。

 

 

 

 

 

3 UKIYO−e TOKYO(10月開館)

 

 この美術館の前身は、かつて有楽町駅の近くにあったリッカー美術館である。

 リッカー美術館は、小さいながらも数千点の浮世絵コレクションを誇る堂々たる美術館であった。親会社の経営難から閉館となったが、その後(1993年)横浜そごう内に平木浮世絵美術館としてオープンしたときは嬉しく思ったものである。しかし、この美術館も2001年に閉館。私はこの美術館の展示を知らない。リッカーの時代には何度も訪れていたのに、横浜そごうに移ってからは何となく「いつでも行ける」という気持ちから、積極的に訪ねてみることをしなかったのである。閉館を聞いて、美術館は何時でも変わらずそこにあってくれるものというのは思い込みにすぎないということを思い知った。

 その平木浮世絵財団の美術館が今回「UKIYO-e TOKYO」という名前で再オープンすると知って、感慨深かった。場所はららぽーと豊洲のショッピングモールと、賑やかなところである。

 入館してまず感じたのは、照明の明るさである。浮世絵は美術品の中でも最も褪色しやすく、頻繁な展示替えと抑えた照明が大切である。リッカー美術館もかなり暗い展示室であった。この「UKIYO-e TOKYO」も照明は押さえているが、うまくメリハリをつけていて、会場が陰うつに感じられないようになっている。加えて開館記念展(2006年12月にまで)では、歌川国芳の猫の作品を目玉とし、国芳の猫をデザインした壁紙が一面に貼られてその上に作品が展示されていて、華やかに感じられた。展示室は一つで、展示は50〜60件くらいだったが、展示室の中央に長椅子が置かれ、ゆったりとしている。

 不満としては、浮世絵は遊びごころに富み、画面に様々な仕掛けがあるものが多いが、当時は誰もが分かった判じ物も、現代では専門家でもなければ分からない。そのあたりに関する解説をしてもらいたいと感じた。これからの活動に期待したい。

 

*「UKIYO-e TOKYO」は2013年まで開いていたが、休館を経て閉館。しかしその後も各地の展示施設で企画展開催を続けている。

 

→ 平木浮世絵美術館

 

 

 

 

 

4 わだつみのこえ記念館(12月開館)

 

 各界著名人に対し、岩波文庫の中から「私の三冊」をあげてほしいとアンケートし、232人から回答を得たその結果が岩波書店発行の小冊子『図書』(07年4月発行増刊号)に載せられている。その中で、最も多くの人があげていたのが『きけ わだつみのこえ』であった(18人が回答)。この本は学徒出陣などで出征し帰らなかった戦没学生の手記を集めたもので、占領下で第一集が出版されるや大きな反響をよび、映画化もされた。それから数十年を経てなおこの本をあげる人が多いということは、平和憲法が岐路に立たされている今日の状況と無縁ではないが、同時にこれらの手記が読みつがれるに値する内容をもっていることを示している。

 2006年12月、戦没学生の手記や資料を展示する「わだつみのこえ記念館」がオープンした。設立したのは特定非営利活動法人「わだつみ記念館基金」で、これは『きけ わだつみのこえ』の出版を機に発足した「わだつみ会(日本戦没学生記念会)」が母体となっている。「わだつみ会」は手記の編集のほか、戦没学生の遺稿や遺品の収集・保存および平和を創造するための活動を行ってきたが、常時展示スペースをもたなかった。「わだつみ会」は、収集した戦没学生の遺品の数々を展示する施設の設立を悲願とし、1993年より記念館の設立を準備し、ついに開館へとこぎつけたのである。

 場所は東京大学の赤門に近い、マンションの1室である。古いマンションであるが、内装は綺麗に手を入れている。1階は事務スペースと図書コーナー、2階が展示室とビデオの視聴コーナーとなっている。小さなスペースではあるが、専門の学芸員をおき、心配りの行き届いた展示となっている。活字となった文章と違い、彼らが綴った一文字一文字からはその人柄がいっそう強く迫ってくるように思う。

 開館は月・水・金曜日の午後。せめて土日のどちらかを開館していただけるとよいのだが。

 

→ わだつみのこえ記念館ホームページ 

 

*最寄り駅は地下鉄南北線の東大前、丸の内線・大江戸線の本郷三丁目。月・水・金曜日の13時30 分から16時まで開館。住所は文京区本郷5-29-13 赤門アビタシオン1階

 

 

 

 

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