2003年に開館したミュージアムより

日本郵船歴史博物館
日本郵船歴史博物館

 

1 横浜ユーラシア文化館・横浜都市発展記念館(3月開館)/エンジン博物館(3月開館)/日本郵船歴史博物館(6月リニューアルオープン)

 

 これらのミュージアムはいずれも横浜市内にあり、歴史的な建造物を利用して開館したという点が共通している。

 

 横浜ユーラシア文化館と、横浜都市発展記念館は、旧横浜市外電話局(1929年建設、横浜市認定歴史的建造物)の建物を保存活用し、その3階と5階に設けられている(4階は特別展スペース)。

 ユーラシア文化館は、晩年横浜に住んだ東洋学者故江上波夫氏収集の考古・美術・歴史・民族資料および文献資料が横浜市に寄贈されたことを受けて開かれたミュージアムである。建物のフロアは決して広くなく、細長くて、しかも真っすぐでない。展示スペースとしてはよい条件とはいえないと思うが、それぞれの文化財の美しさや味わいがよく伝わる丁寧な展示を心掛けているように思う。また、江上氏の収集品は、非常に広い時代・場所にわたっているが、それを上手にテーマ立てて展示している。コインなど両面が見えるように展示していたり、検索システムによって裏面・背面の画像を見ることができるなどの工夫も行っている。小さいながらライブラリーもあるが、これはまだ充実してはいない。

 都市発展記念館は、関東大震災前から現在までの都市横浜の変遷を、パネル・実物・模型・映像で展示する。しかし残念ながら、筆者はこの館の展示をあまり評価していない。横浜は、震災、戦災、接収、そして新たなる街づくりへの挑戦と、山あり谷ありの歴史を歩んできた。例えば、田村明著『都市ヨコハマをつくる』(中公新書、1983年)などを読むと、その間の事情を非常に興味深く知ることができる。しかし、なぜ展示でその魅力ある歩みを浮き彫りにできないのだろうか。これはこの館の問題というよりは、まだ日本には歴史を生き生きと展示できた成功例が乏しいという問題、大きく言うならば、私たちの文化の成熟度の問題であるといえるのかもしれない。

 

 日産エンジンミュージアム(横浜工場ゲストホール)のある日産旧本社ビルは、1934年につくられ、市内唯一の戦前期の工場事務所ビルとして横浜市認定歴史的建造物となっている。エンジンミュージアムは2階にあり、戦前から最近までの名車のエンジンは、ファンにはたまらない展示であろう。

 

 日本郵船歴史博物館(1993年オープン)は、開館10周年を記念し、今までの海側の建物から横浜郵船ビル内へと移転改装オープンした。このビルは1936年の建築で、横浜関内地区の戦前の建物の中でもひときわ堂々とした建物である。前面には16本の円柱が立ち、内部もクラシックで豪華な当初の状態がよく残され、横浜が海外交流の一大窓口であったかつての時代を想起させる。博物館が、それ自体も歴史を物語る建物の中にあるというのは、まさに理想的な形である。

 展示の中には、戦時下、経済や言論の統制が行われたこと、海運業も国家管理がすすんだことが説明されている部分もあり、客船もろとも船員が徴用されて多大な犠牲をはらったことも述べられ、徴用されレイテで沈んだ貨物船乗組員の証言も聞くことができるようになっている。企業および働く者がどのように戦争に巻き込まれていったのかを知ることができる展示は、一企業が設立した博物館という枠組みを越えて、とても考えさせられる内容となっている。

 

 

→  横浜ユーラシア文化館   横浜都市発展記念館        

   日産横浜工場・ゲストホール   日本郵船歴史博物館

 

*横浜ユーラシア文化館・横浜都市発展記念館は、JRと地下鉄の関内駅下車10分。横浜市中区日本大通12

*日産エンジンミュージアムはJR新子安駅、京浜急行線京急新子安駅下車17分。横浜市神奈川区宝町2、入場無料。ただし、土・日など休み。

*日本郵船歴史博物館は、JRと地下鉄の関内駅・桜木町駅いずれも下車10分。横浜市中区海岸通3-9 

 

 

 

2 パナソニック汐留美術館(4月開館)

 

 作品のすばらしさを引き立てる重要な要素である美術館の照明の設備。これがまさに日進月歩である。例えば、2002年に箱根に開館したポーラ美術館、本年(2003年)開館の神奈川県立近代美術館葉山館や後述する森美術館(ともに10月開館)。そして、これらに比べれは規模は小さいが、汐留に開館した松下電工汐留ミュージアムも、すぐれたライティングを具えた美術館である。

 この美術館が誇る所蔵品は、ルオーのコレクション(約140点)で、企画展の開催中もルオー作品が常設展示されている。

 ところで、油絵の画面に照明が反射してしまい、色彩が分かりづく残念に思ったという経験をしたことはないだろうか。この光の反射をいかに抑える工夫をしているかは、油絵展示を行う展覧会において非常に重要である。そして、この汐留ミュージアムの照明は、ルオーの油絵作品の魅力をよく引き立てている。さすがに照明器具に力を入れるメーカーが設立した美術館だけのことはあると思う。

 

→ パナソニック汐留美術館

 

*パナソニック汐留美術館は、新橋駅または地下鉄汐留駅下車。東京都港区東新橋1-5-1 、パナソニック東京汐留ビル4階。なお、この美術館は松下電工NAISミュージアムとして開館したが、その後パナソニック汐留ミュージアムに改称し、2019年より現在の名称となった。

 

 

 

3 森美術館(10月開館)

 

 六本木ヒルズの森タワー53階(当初は53・52階。現在は52階は森アーツギャラリーとして、別企画の展覧会を実施)にオープンしたこの現代美術館についてはさまざまに報道されたが、実際、魅力あふれる、また新たな視点を多く取り入れたミュージアムである。

 大規模再開発事業によって登場した新しい町が長くクオリティーを保ち続けられるために、そのトップにアートの大きな空間を設けるという考え方は日本でまったく新しいものである。開館日・時間は、会期中無休の上、夜間開館時間を長くとっていて、大変アクセスしやすく、仕事の後に映画や演劇を楽しむのと同様にアートを楽しむことができるようにと設定されている。

 特に注目したいのは照明である。高い天井からの明かりだが、小さな一作品をピンポイントで照らすことも、ひとつの壁面全体を使うような大きな作品をムラなく照らすこともでき、相当高い技術によるものと思われる。ライトは天井に埋め込まれているので、展示室がすっきりした空間となって、それがさらに作品を引き立てている。

 展覧会は、欧米からの巡回展を含めて質が高く、メンバーシップ・プログラムも充実している。世界の若手有望株のアーティストによるミニ展覧会(MAMプロジェクト)も併設して行っていることもあり、こちらも大変おもしろいものが多い。

 はじめ所蔵品なしでスタートしたが、途中からコレクションをスタートさせた。ただし、まだ点数は少ないようだ。

 なお、入館は展望台(東京シティビュー)と共通となっている。

 

→ 森美術館

 

*地下鉄六本木駅下車、六本木ヒルズ森タワー内

 

 

 

4 世田谷美術館分館 清川泰次記念ギャラリー(11月開館)

 

 戦後まもなくより世田谷に住み、2000年に亡くなったアーティスト、清川泰次氏のアトリエ兼住居が作品とともに世田谷区に寄贈され、世田谷美術館の分館として開館した。壁面など、美しく整備され、氏の抽象画がよく映える空間となっている。アトリエだった部屋の床は、当時の絵の具の染みがそのまま残され、画家の痕跡が作品と響き合っているように感じる。とてもいい空間である。この部屋は2階までの吹き抜けで、高い位置の窓からは外光が入り、晴天の午前など格別である。

 

→ 世田谷美術館分館 清川泰次記念ギャラリー 

 

*世田谷美術館分館 清川泰次記念ギャラリーは、小田急線成城学園前駅南口下車3分、東京都世田谷区成城2-22-17 

 

 

 

 

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