藤里毘沙門堂の毘沙門天像

  鉈彫りの兜跋毘沙門天像と鎌倉時代の毘沙門天三尊像

住所

奥州市江刺区藤里智福

 

 

訪問日 

2014年8月16日

 

 

この仏像の姿は(外部リンク)

いわての文化情報大事典

 

 

 

拝観までの道

交通は江刺バスセンターより奥州市市営バス伊手口沢線または伊手糀谷線で「岩明(いわき)」下車、北北西に徒歩20分~25分。

「岩明」バス停は、国道397号に県道156号が合流するあたりにある。下車後、北側の江刺南保育園と江刺南中学校の間の道を行く。

この道は「新奥の細道」として整備されたハイキングロードの1つであるらしく、バス停の北側には案内板があり、さらに道々いくつか案内があるので、見落とさないように行くと行き着ける。

 

バスの本数は土休日は少なくなるのと、毘沙門堂の位置がPC上の地図に表示されない場合があるので、不安ということもあり、筆者は行きはえさし郷土文化館(後述)からタクシーで、帰りはバスで戻った。タクシー料金はから3500円くらいだった。

 

拝観は事前予約が必要。

 

 

拝観料

300円

 

 

お寺や仏像のいわれなど

藤里毘沙門堂は、浅井智福愛宕神社の境内にある。かつて智福寺というお寺があったものが、その鎮守の神社と毘沙門堂が残ったということらしい。

現在は収蔵庫がつくられ、仏像は移されている。

 

 

拝観の環境

庫内、すぐ近くよりよく拝観させていただけた。

 

 

仏像の印象

収蔵庫内には兜跋毘沙門天像、吉祥天と善膩師童子を脇侍に従えた毘沙門天三尊像、十一面観音像、そのほか破損仏の僧形像、天部像、神像などが安置されている。

 

兜跋毘沙門天像は像高約175センチ。地天の上に立つ毘沙門天ということで、兜跋毘沙門天と呼ばれている。しかし、東寺の兜跋毘沙門天像のような特殊な形の鎧をまとっているわけでない。

地天を合わせた総高は約230センチである。トチノキと思われる一木造で白木のまま仕上げる。全身に美しい横しまをつけた鉈彫りの像である。

ところで、坂上田村麻呂は毘沙門天の化身だという伝承があり、その身の丈は5尺8寸だったという。5尺8寸というのは、本像の高さとほぼ同じであり、したがってこの伝えにのっとった造像の可能性がある。

 

低い冠を着け、その後ろにかわいらしく渦を巻いた髪が見える。

髪際は単純にあらわし、目と眉を怒らせるが、それほどのすごみはなく、むしろ上品で優美な顔立ちをしている。怒り肩で、左手で宝塔を掲げ、右手では戟を取る。肘の張りは少なく、体全体も動きは少ない。平安後期の穏やかさがある。

地天の顔つきは優しく、中央で分けられた髪も可愛らしい。

かつてはかなり傷んでいたようで、下肢が折れて地天女とばらばらになっていたらしい。従って下肢は新たに補われている。しかし全体的には保存状態はよい。

 

2像を従えた毘沙門天像も、像高170センチ余り。こちらは寄木造の像。鉈彫りがあるが控えめとなり、かわりに像全体に動きがあらわれている。兜跋毘沙門天像と比較して時代が下り、鎌倉時代に入っての像かと思われる。

怒りを強くあらわした目と眉、こけたような頬が印象的である。

お腹は丸く、腰をぐっと左に突き出すようにひねっている。

 

脇侍の吉祥天像と善膩師童子像も寄木造で、像高は1メートル弱。ゆったりと立つ姿が優美だが、残念なことに顔が失われている。

 

小名丸毘沙門堂毘沙門天像
小名丸毘沙門堂毘沙門天像

 

その他(えさし郷土文化館展示の仏像)

新幹線の水沢江刺駅の北5〜6キロのところにえさし藤原の郷という大きな観光施設がある。そのとなりに、えさし郷土文化館という歴史博物館がある。

交通は、水沢江刺駅前からえさし藤原の郷行きの無料送迎バスで約15分。入館料は300円。

 

細長い展示館の一番奥の第一展示室(「奥の院」)でこの地域に伝来する仏像などを見ることができる。黒石寺や藤里毘沙門堂の仏像のレプリカ、懸け仏や鏡像、また近世の百観音なども展示されている。

その中で、やや小像ではあるが、伝聖観音菩薩立像と毘沙門天立像は古代、中世のすぐれた仏像彫刻である。いずれもガラスケース中に展示されている。

 

伝聖観音像は、梁川栗生沢白山神社というところに伝来した像。像高70センチほどの立像。一木造で背中からくりをいれている。

全身かなりいたんでいるが、品のある像と思う。まげは比較的大きい。顔つきは穏やかで優しさが感じられる。衣のひだは比較的浅く彫る。

 

毘沙門天像はこの博物館にほど近い岩谷堂の小名丸(こなまる)毘沙門堂に伝来した像である。

像高は40センチほど。一木造で内ぐりもほどこさない古様なつくりだが、動きのある姿なので、中世以後の像と思われる。

顔はごつごつと筋肉をあらわし、右手を上げて、左手は腰にあてる。腰は思い切って左側にひねっているので、体がくの字のようになっている。その動きに合わせて鎧や衣が動くさまの表現もみごとである。

 

えさし郷土文化館

 

 

さらに知りたい時は…

『毘沙門天 北方鎮護のカミ』(展覧会図録)、奈良国立博物館ほか、2020年

『みちのくの仏像』(『別冊太陽』)、平凡社、2012年

『いわて未来への遺産 古代・中世を歩く』、岩手日報社出版部、2001年

『鉈彫荒彫』、玉川大学出版部、2001年

『図説 みちのく古仏紀行』、大矢邦宣、河出書房新社、1999年

『江刺の仏像』、江刺市教育委員会、1985

『解説版 新指定重要文化財3、彫刻』、毎日新聞社、1981年

 

 

→ 仏像探訪記/岩手県