笠区の薬師

  平安時代前期の雄渾な仏像

住所

桜井市笠

 

 

訪問日 

2011年9月17日

 

 

 

拝観までの道

JR桜井線の巻向駅から東へ県道を数キロのぼってゆくと、笠という集落がある。三輪山、巻向山、初瀬山が連なる山地の北側で、標高は400〜500メートル。ソバの産地だそうだ。

 

この地区にある竹林寺という無住のお寺の裏手の収蔵庫に、薬師如来像、地蔵菩薩像の2躰の仏像が安置され、この地区で管理をしている。

場所は、県道50号沿いにある妙円寺(融通念仏宗の寺院)の西側。地元で経営している「笠そば処」というお蕎麦屋・特産品店の南側である。

 

拝観するには、年間6回開扉の日が決まっているので、その日に行くか、または区長に事前にお願いして開けていただくことも可能。

年6回の開扉日とは、近くの笠山荒神の大祭の日である1月、4月、9月の各28日と、「薬師祭」として収蔵庫をあける4月8日、8月14日、9月8日である。

交通は極めて不便なところで、山の辺の道とともにサイクリングの1コースとして紹介されることもあるが、かなりの健脚でなければおすすめできない。

笠山荒神社の大祭の日には桜井駅から臨時バスが運行されるので、それに乗るのが最もお勧めである。ただし、このお祭りはたいそう賑わうそうで、バスは混み合うとのこと。

 

 

拝観料

200円

 

 

お寺や仏像のいわれなど

竹林寺はかつては笠寺といい、奈良〜平安時代にかけての霊場だったという。

鎌倉初期に焼けた後に再建されたのが竹林寺で、その本尊が今収蔵庫に安置されている薬師如来像である。

竹林寺が衰退したために一時妙円寺に預けられていたことがあったようで、資料によっては妙円寺の薬師如来像として紹介しているものもある。今は既述のように笠地区の方々によって管理されている。

なお、笠山荒神社の大祭には竹林寺から神輿の渡御があるそうで、神仏分離以前はこれらは一体であったのだろう。

 

 

拝観の環境

収蔵庫の中で間近より拝観させていただけた。

 

 

仏像の印象

薬師如来像は像高約2メートルの立像。樹種はカヤ。

台座蓮肉まで一木から彫りだしている。

施無畏・与願印だが、下げる左手は後補であり、もとは薬壷を持っていたのかもしれない。表面はややまだらになっているが、これは後世の彩色をとったあとのようで、本来も素木像であった可能性もある。全般的には保存状態はよい。

 

全体の印象としては、とにかく雄渾な像である。上背があり、圧倒される。

この像を見ると、どうしても神護寺の薬師像や元興寺の薬師像など、奈良末〜平安前期を代表する彫刻を想わずにはいられない。

ただし本像は、体つきに誇張が見られない。肉髻はそれほど高くなく、顎も二重顎にはつくらず、腿もそれほどには盛り上がっていない。面奥や胸板もそれほどではない。

しかし、ややくせのある力強い顔つきは、一度見たら忘れられないものである。

額は狭く、くちびるの下は広くとる。顎のラインや鼻筋から眉の線はくっきりと鮮明である。目、耳は大きく、ことに目は切れ長でまなじりに向けてやや上がる。下まぶたをあらわす抑揚が顕著で、まなじりの下から盛り上がってゆくほおが実に張りがある。

 

そしてもう一つ、見逃せないのが、衣の襞の力強さである。

腹で繰り返し刻まれる横のライン、股間のY字の深い彫り込み、腕から下がる衣の複雑な襞の見事さ、下肢の側面の衣褶の様子。

平安前期木彫仏として看過できない像である。

 

 

その他

脇には地蔵菩薩立像が安置されている。こちらはそつなくまとまった鎌倉仏である。像高は約80センチ。

像内に納入文書があり、300人もの結縁者の名前が書かれている。そのなかには西大寺の叡尊の関係の人物の名前もあり、興味深い。

 

 

さらに知りたい時は…

『名作誕生』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2018年

『日本美術全集』4、小学館、2014年

『桜井の文化財』、桜井市埋蔵文化センター、1996年

『奈良県指定文化財』27集、奈良県教育委員会、1986年

『飛鳥の仏像』、奈良国立文化財研究所飛鳥資料館、同朋舍出版、1983年

『桜井市史』上、桜井市史編纂委員会、1979年

 

 

仏像探訪記/奈良県