桜本坊の役行者像

  修験道の開祖、迫力の造形

住所

吉野町吉野山1269

 

 

訪問日 

2007年10月7日

 

 

 

この仏像の姿(外部リンク)

櫻本坊のホームページ・ご本尊

 

 

拝観までの道

桜本坊(さくらもとぼう)へは、近鉄の終点吉野駅前からロープウェー(30分に1本だが、行楽シーズンなどは増便される)に乗車し吉野山駅へ。そこから徒歩で金峯山寺を通り過ぎ、勝手神社の先を右の坂道に進む。金峯山寺のあたりはお店も多く賑やかだが、勝手神社を過ぎると、観光客も少ない。

やがて左側に桜本坊の小さな仁王門が現れる。ここまでで30分くらいである。斜め前は庭園で有名な竹林院。吉野山駅から奥千本行きの小型乗り合いバス(ケーブルバス)が出ていて、「竹林院前」まで乗るとかなり楽だが、本数は1時間に1本と少ない。 

 

吉野大峯ケーブル自動車

 

門を入って真っすぐ進むと拝観受付がある。そこからいくつもの建物が廊下でつながっていて、本堂まで進むことができる。

 

 

拝観料

300円

 

 

お寺や像のいわれ

吉野は万葉集の時代からたびたび歌に詠まれ、また7世紀後半にはのちに天武天皇となる大海人皇子が一時この地に隠遁するなど、その歴史は古い。

大海人皇子は桜の咲く夢を見て壬申の乱に勝利したといい、これにちなんで建立されたのが桜本坊であると伝える。

以後金峯山寺の一院として桜本坊は修験道の中心に位置し、江戸時代には徳川氏の菩提所となるなど栄えた。近代初期の神仏分離によって廃寺とされたが、同じく金峯山寺の子院で廃寺となっていた密乗院を桜本坊として復興し、現在に至っている。

 

本堂の本尊は、役行者倚像(いぞう、腰掛けた姿の像のこと、倚坐像とも)である。本堂内にはもう一躰役行者坐像が安置されている。

いわゆる鎌倉新仏教成立以前の仏教界のリーダーのなかで、肖像彫刻が多く造られた人物ベスト3は、聖徳太子、空海、役行者であろう。ただし鎌倉期以前までさかのぼれる役行者像は稀で、近世のものが多い。桜本坊の2躰は鎌倉時代のもので、その肖像としては古く、かつ優れた像である。

 

 

拝観の環境

本尊はお堂の奥の厨子の中に安置され、上から垂れている帳は左右に分けられているものの、少々拝観しづらい。もう一躰の坐像の役行者像はすぐそばまで寄って拝観できる。

 

 

彫像の印象

本尊の役行者倚像は像高90センチあまりで、ほぼ等身大の像である。玉眼を入れるが、体幹部はカヤの一木から彫り出している。彩色も当初のものが残る。頭巾をかぶり、手に錫杖と経巻を持ち、岩に腰掛け、脚はむき出しに、高い下駄を履く姿は、通例の役行者像で、鎌倉彫刻らしい迫力がある。

ただし、前述のようにやや拝観しづらい環境で、頭部まで視野に入れたいと思えば、四天王に踏まれている邪気のように這いつくばりながら拝観することになる。下から見上げると役行者はまるで不敵に笑っているように見え、迫力倍加である。

 

もう一体の役行者坐像は本尊に向って右の脇間に安置されている。役行者像は桜本坊本尊のように倚像が多く、このような坐像は少ない(ほかには半跏像が数例ある。立像は絵画作品では若干あるというが、彫刻では知られていない)。写実的に老宗教者の姿をよく表現し、真に迫った造形を実感できる。ヒノキの寄木造で、玉眼。右手先は後補。

 

 

役行者と吉野

役行者は実在の人物である。『日本書紀』のあとを受けて編纂された『続日本紀』によると、699年に役君小角(えんのきみおづぬ)を伊豆島に流したとあるが、この役小角こそのちに役行者と呼ばれるようになった人物である。

同書によれば、役小角は葛城山の宗教者で、「人々は、小角は鬼神を使役し、命令に従わないときは呪縛したと噂した」と述べられる。配流の理由は、その呪力をねたんだ弟子の讒言(ざんげん)のためという。

 

小角が生きた時代からそれほど隔たらない時期に書かれた彼に関する記録としては、この『続日本紀』の短い記述が唯一のものなのだが、時代ととも伝説や信仰は膨れ上がり、修験道の祖師とされ、理想の修験者の意味で役行者と呼ばれ、日本各地の霊山を開いた人物とされていった。

吉野もまた役行者への信仰と固く結びつき、多くの寺院で役行者像や役行者の祈りによって現れたとされる蔵王権現像をまつっている。

 

 

その他

このお寺はまた、古代の金銅仏、釈迦如来像を所蔵するが普段非公開。4月8日の花まつりの前後に開扉され拝観できるようだ。

櫻本坊・年中行事

 

 

さらに知りたい時は…

『祈りの道ー吉野・熊野・高野の名宝』(展覧会図録)、大阪市立美術館ほか、2004年

『役行者と修験道の歴史』、 宮家準、吉川弘文館、2000年

『役行者と修験道の世界』(展覧会図録)、大阪市立美術館、1999年

 

 

仏像探訪記/奈良県