東大寺八角燈籠の音声菩薩像、大仏蓮弁の線刻画

  大仏を讃仰する楽の音

住所

奈良市雑司町406−1

 

 

訪問日 

2011年9月19日   2015年3月30日

 

 

 

拝観までの道

近鉄奈良駅から徒歩約20分。世界最大級の木造建築、東大寺大仏殿に着く。

その正門である中門(現在は閉ざされていて、拝観者はその西側にある入場口から入る)から大仏殿をのぞむと、その前庭にぽつんと小さな燈籠(灯篭、とうろう)が置かれているのが目に入る。

ところが近づいてみると、この燈籠は見上げる高さである。金銅製で、高さは4メートル半以上。奈良時代、大仏に献灯するためにつくられたものであり、我が国の燈籠中、その古さ、由来、大きさのすべてにおいて随一のものである(渤海や統一新羅時代の石灯籠まで範囲を広げれば、それ以上に大きいものが現存するそうだが)。

 

東大寺公式ホームページ

 

 

拝観料

一般500円(大仏殿の拝観料)。東大寺ミュージアムとの共通券あり。

 

 

八角燈籠のいわれ

よく知られているように、大仏殿は12世紀後半、平家の軍勢によって放たれた火で焼かれ、鎌倉期復興の大仏殿もまた戦国時代に兵火にかかった。だが、この燈籠はまわりが火の海となりながらも耐え、今に至るまで1200年以上同じ場所で立ち続けてきた。まさに奇跡である。

 

燈籠は上から、宝珠(1番上にのっている玉)、笠、火袋(火を入れるところ)、中台(火袋を支える部分)、竿(宝珠から中台までをのせて支える柱)、基台(基壇)からなる。八角燈籠というわけは、基本的に上から下まで8角、8つの面、8つの蓮弁によって構成されているからである。

 

この燈籠の最大の特色としては、火袋部分が大きくつくられていることがあげられる。

一般の燈籠では、竿を高くして、プロポーションというか、バランスのよい形としているが、この八角燈籠は、火袋がとても大きく、また高い。大仏への献灯のためには、これくらい大きくなければと考えられたのであろう。

その一方で竿は短く、また細くつくられている。離れた場所から全体を見ると、ずいぶん火袋がずんぐりと大きく、アンバランスな感じがする。近づけばひたすらその大きさに圧倒されてしまうので、もはや全体のバランスは気にならないのではあるが。

竿の部分に長文の銘文が入っている。経典から抜き出した文章で、供養のために火をともすことは大きな功徳があるということが書かれる。

 

また、目立たないところに、いくつか平安時代や江戸時代の修理銘が刻まれている。長い年月風雨にさらされ、さらに大火の際には熱を浴び、また盗難の被害もあって、この燈籠には何度も修理の手が入っている。燈籠の各部分はしっかりと接続しているが、火袋の扉や羽目板はびょう留めであるので、この部分が盗難にあい、後補にかわっているところもある。しかし、全体的には当初の姿をかなりよくとどめているといえる。

なお、各部位には鍍金のあとがあり、もとは全体が金色に輝いていたものと思われる。

 

火袋の8つの側面のうち、東西南北の側の4面が両開きの扉となっている。そこには、雲中を疾駆する勇壮な獅子の姿が見られる。

扉と扉の間の4面は羽目板となっていて、それぞれ異なった楽器を奏する音声(おんじょう)菩薩が浮き彫りされる。東南面は笙(しょう)を演奏する菩薩、東北面の菩薩は鈸子(ばっし、シンバルを小型にしたような楽器)を打ち鳴らし、西北面の菩薩は縦笛、西南面の菩薩は横笛を吹いている。ただし東側の2面、すなわち東南と東北の羽目は後補(1990年代に行われた修復時に新補されたもの)である。西側の2枚は緑青のために緑がかっているのに対して、新しい東側の2枚は黒々としている。

 

 

拝観の環境

燈籠は屋外に立つため、雨天時でなければよく見ることができる。柵ごしで、見上げるようになるが、音声菩薩の姿もよくわかる。

ただし、当初の面、すなわち西北、西南面の像をよく見ようとすれば、午前は逆光となるため、午後の時間帯の方がよい。

 

西北面
西北面

 

像の印象

羽目板1枚は縦1メートル、横50センチほどの大きさで、全面が斜め格子の透かし彫りとなっている。この格子は整然として、美しい。

その中央に音声菩薩像がレリーフ状に鋳出される。頭頂の飾りから足先までで55センチくらいの大きさ。2つの蓮台に片足ずつを乗せ、その下には雲が表わされる。虚空に立っている姿である。頭光を負い、天衣をなびかせる。その上や左右には花が舞って、実に華やかな作品として仕上がっている。

 

顔は小さめで、下半身を長く表わす。目は細く、鼻筋はよく通って落ち着いた表情。西北面の像はお腹をせりだしぎみに、西南面の像は腰をひだりににぐっとひねる。一見すると豊満な体躯のようにも見えるが、よく見るとそれほど太めというわけでなく、バランスがよい。しっかりと蓮台を踏み、気持ちをいれて楽器を演奏している、そんな姿に思える。

 

胸や腕に豪華なアクセサリーが見え、頭には三面に小さな飾りをつける。その後ろには豊かな髪が束ねられている。

両肩から下がる天衣は、どれほどの長さなのであろうか。大きくうねり、折れ曲がり、腕を巻き、体を横切り、最後は足の横、左右に大きく翻る。菩薩が奏する楽の音によって天空も喜びが満ち満ちて、それが風になり、天衣を舞わせているようである。

 

 

東側の2面について

新補のレリーフにかわっている東側2面のうち、東南面は20世紀初頭に修理された際にすでに失われており、1933年に篤志家によって「笙吹ける天人」像が寄進されてはめられた。上述の通り現在は20世紀末の修理時に新しい像と取り替えられて、元の作品は別に保存されているという。

 

一方、東北面の像は1962年に盗難にあい、すぐに発見されたものの、周縁部分が大きく破損してしまったため、別置されている。2011年に南大門前にオープンした東大寺ミュージアムで展示される場合もある。

この面の像は鍍金を最もよく残しており、表情もやわらかで、美しい。

燈籠の東南面、東北面の菩薩はともに楽器を口にあてているために、口許の様子が見えないが、この像は打楽器を手に持つので、鼻より下の表情がよくわかる。

顎は小さめだが、くっきりとした輪郭をもち、唇は意外に強く閉じるが、口もとは控えめな微笑みを浮かべている。

 

東大寺ミュージアム

 

大仏蓮弁(複製)
大仏蓮弁(複製)

大仏蓮弁の線彫画について

東大寺大仏は、正式には盧舎那(るしゃな)仏坐像という。奈良時代につくられたものが、2度の大火にあい、顔は江戸時代のものにかわっているが、蓮弁など創建当初の部分も残る(当初の部分は、腹とその下部の組んだ足、大仏背後の蓮肉、そして蓮弁の一部など。鎌倉時代に補修した部分は腰のあたりに残るのみである。胸から上、腰を除く背中側、両手は江戸時代)。

蓮弁には仏の世界が線彫りされている。火によって表面が傷んでいるものが多いが、像の斜め後ろ側には天平時代の美しい線刻画が比較的よく残っているところがある。

線刻画がどのような考えに基づいて描かれているかについて立ち入ることはしないが、ここでは本図を肉眼で見る方法について紹介したい。

 

大仏が座る台座は高い壇上にあり、近くに寄ることはできない。さらに木の柵もめぐらされていて、なんとかその柵の合間から見ても、蓮弁は真っ黒いので、暗いところは見えづらく、光が当たっているところはその反射でやはり見えづらい。従って蓮弁の線刻画を見るというのは相当に困難である。しかし、大仏の右の腰の下あたりに、何とか見える場所がある。

 

大仏殿へは正面から入場し、大仏のまわりを時計回りに1周して、正面向って右側から出るというのが順路である。入ってすぐのところに、大仏蓮弁のレプリカが置かれている。

それを見ると、蓮弁の線刻は大きく上下3つの部分に分けられることがわかる。上部は説法印の釈迦如来坐像を中心として、そのまわりに多くの菩薩像が描かれる。中央部分は、二十本以上の横線が描かれ、その合間に仏の顔や宮殿のようなものが小さく描かれている。そして下部には、上部・中部に描かれた世界を支える蓮華や海、山脈が描かれる。緻密でありながら同時にダイナミックな図様である。

 

さて、このレプリカの線刻画を目に焼き付けていただいた上で、大仏の右脇侍(向って左側の脇侍)である虚空蔵菩薩坐像(江戸時代)の裏手へと進む。その位置から大仏の右の腰下あたりの蓮弁を斜めの角度から見ていくと、上述した蓮弁中段の横線がかなりくっきりと見える1枚の蓮弁を見つけることができる。それが比較的線彫りが良好に残る蓮弁である。

その位置を忘れないようにしながらその蓮弁の正面に回り、木の柵の間から蓮弁の上部中央(花びらが尖っているその下)を見ると、蓮弁上部中央に描かれた釈迦如来坐像の丸々と豊かに描かれたお顔を見つけることができる。ぜひお試しいただきたい。

 

だたし、「肉眼で見る方法」と書いたが、視力がよくないと難しい。あまり目がよくない人は、一眼鏡など視力を補うものが必要。

また、天気の悪い日は難しく、好天の日は開かれた後方の窓より光が入るので探しやすい。

 

筆者が見つけられたのは、この斜め後ろの蓮弁1枚であるが、ほかにも見つけられたという方がいらっしゃったらお教えいただきたい。

 

 

その他

東京・根津美術館の庭園に東大寺八角燈籠のレプリカが置かれている。

また、京都国立博物館の敷地内にもレプリカがある。

 

 

さらに知りたい時は…

『東大寺・正倉院と興福寺』(『日本美術全集』3)、小学館、2013年

『仏像のかたちと心』、金子啓明、岩波書店、2012年

『東大寺大仏』(展覧会図録)、東京国立博物館ほか、2010年

「東大寺八角燈籠の姿形と製作年代」(『南都仏教』87)、神田雅章、2006年

「東大寺金銅八角燈籠の新知見」(『月刊文化財』488)、伊藤信二、2004年5月

『東大寺ー美術研究のあゆみ』、大橋一章・斎藤理恵子 編、里文出版、2003年

『奈良六大寺大観(補訂版)』9、岩波書店、2000年

『週刊朝日百科 日本の国宝』051、朝日新聞社、1998年2月

「東大寺銅造八角燈籠」(『南都仏教』43、44)、松山鉄夫、1980年

 

 

→ 仏像探訪記/奈良市